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第6章 誰ガ為ニ
35 空中戦
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ズシンと重苦しい重圧が響く。
それが強大な魔法を放つ為のものだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
サファイアブルーの蝶の羽そのものが蒼く光り輝いて、蒼白い光が煌々と私たちを照らす。
その羽にとてつもない力が集結しているであろうことは明らかで、元来持つ禍々しさと合わさって、血の気が引くような威圧感を放っていた。
「消し飛んじゃいな!」
アゲハさんが羽を大きく羽ばたかせると、羽に込められていた煌めく魔力が、巻き起こった風に乗り蒼白い極光の衝撃波となって放たれた。
本来目に見えない風圧が光り輝くエネルギーと共に放たれることで、視界を埋め尽くす波動となって迫る。
目の前に広がるのは眩く白む閃光のような衝撃。
それ以外のものを視界から消しとはず、全てを埋め尽くす極光だった。
「退がって!!!」
避ける暇も余裕もない。正面から受けるなんて論外だ。
いくら障壁を張ろうとも、どんなに防御に達しようとも、膨大なエネルギーを込められたこの攻撃は防ぎきれない。
本能的にそれを察知して、私は瞬時に剣を振るった。
打ち消すしかない。『真理の剣』で攻撃を打ち消す他、切り抜ける術はないと思ったから。
渾身の魔力を込めて、剣を振るって斬撃に乗せた衝撃波を放つ。
純白の剣から放たれる魔法を打ち消す白い斬撃と、蒼い羽から放たれた蒼白い暴風の衝撃波。
二つがぶつかり合って相手の攻撃を掻き消すと、そう思っていた。
けれど、私の斬撃は相手の暴風に込められていた魔力は消したようだけれど、風圧による衝撃波は消してはくれなかった。
私は馬鹿だ。さっきも同じことをした。
斬撃によって多少衝撃波は乱れたけれど、降りかかる凄まじい風圧自体が完全になくなるわけじゃなかった。
「しまった────」
見えない何かが真上から物凄い重みを持って落ちてきたような、そんな衝撃。
荒れ狂う風の波は轟音を立て、目を開けていられないほどの空気の流れに、呼吸もままならない。
真上から滝に打たれているかのような、ひたすらに重みが落ちてくる感覚。
身動きなんて取れるわけもなくて、踏ん張っていても気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうだった。
「アリス!!!」
聴覚が潰れそうなほどの轟音の中、微かに絶叫が聞こえたかと思うと、後ろから首根っこを掴まれた。
次の瞬間、私は暴風の衝撃波の中から離脱していて、代わりにいつの間にか空高く舞い上がっていた。
「アリス、しっかりしなさい!」
何が起きているのかわからず目を瞬かせていると、千鳥ちゃんの甲高い声が耳に届いた。
声がした方、上に顔を向けると、バチバチと電気を体に走らせている千鳥ちゃんが私の首根っこを掴んでいた。
「千鳥ちゃん!」
「落ちるからちゃんと着地しなさい!」
「そ、そんなこと言われてもー!」
どうやら千鳥ちゃんが電気のスピードで、瞬間移動のように暴風の中から私を連れ出してくれたみたいだった。
けれど上空に逃れただけで飛んではいないようで、急速に落下していく。
私たちが二人揃って地面へと急降下している最中、空を自由に滑空しているアゲハさんが物凄いスピードで迫ってきた。
「私相手に空に逃れるとか、馬鹿なんじゃないの!?」
楽しそうに笑って、アゲハさんは目にも留まらぬ速さで突っ込んでくる。
その手には糸の鞭が握られていて、飛び込んでくる勢いも合わさって、衝撃を伴うようなスピードでしなりながら放たれた。
なんとか剣を振るってその鞭を打ち払う。
けれど、落ちながらの無理な姿勢で剣を振るったせいでバランスを崩して、私は千鳥ちゃんの手から離れてしまった。
その隙をついたアゲハさんが、私と千鳥ちゃんに向けてそれぞれ腕を伸ばした。
その瞬間、圧縮した空気が一気に膨張したような、爆発のような空気の炸裂が起きた。
咄嗟に障壁を張って、そして同時に私の胸に氷の華が咲いた。
氷の華から放たれた花弁が私の障壁と合わさって、強固な盾を作り出しす。
しかしその盾はいとも簡単に砕かれて、押さえきれなかった衝撃に私は下へと叩き落とされた。
千鳥ちゃんも防ぎきれず、私とは反対に更に上空へと打ち上げられる。
その姿を見上げながら、私は落下のスピードを更に上乗せされて急速落下していく。
「────!」
息をつく暇もない、次々と起こる展開に頭がついていかない。
何をどうすればいいのか、どうすれば助かるのか冷静な判断ができなかった。
このまま落ちればぐちゃぐちゃに潰れて死んでしまうことは理解できるのに、混乱とパニックで正常に頭が働かない。
冷たい風を切って落下していく私。
もうどのくらいの高さから、どのくらいの勢いで落ちているのかもわからない。
魔法を使わないといけないけれど、何をどうしたらどうなるのか────
「はーいカルマちゃんナーイスキャーッチ!!!」
突然柔らかい何かにふんわりと包まれる感覚がして、私の落下が止まった。
もちもちふんわりとした、まるで雲にでも落ちたような柔らかな感触に受け止められて、私の落下による勢いは全て殺された。
それは空気の膜のようなもので、特大のクッションのように私をずっぽりと受け止めていた。
透明なのにそこにあるとわかる不思議な感覚。
弾力のあるシャボン玉のようだと、私は場違いにもそんなことを思ってしまった。
「いやー危機一髪だったねお姫様。カルマちゃんがナイスなキャッチをしてなかったらペッチャンコだったよ?」
「カ、カルマちゃん……ありがとう」
「礼には及ばないよーん! なんてったってカルマちゃんはお姫様のお友達だからねん!」
空気の膜の私の隣にボフッと乗っかったカルマちゃんが、能天気な声で言った。
いつから私はカルマちゃんの友達になったんだっけと思いつつ、そんなことを言ってる場合じゃないと頭を振る。
「そうだ、千鳥ちゃんは────」
膜の上で立ち上がって慌てて上空に目を向けた時、ピシャンと雷が轟いた。
晴れ渡った暗い夜空には雲一つない。なのに何故雷が瞬いたかといえば、それは千鳥ちゃんだった。
遥か上空に打ち上げられた千鳥ちゃんが、電気をまとって落雷のようにアゲハさん目掛けて飛び込んでいた。
雷鳴を伴う突進はまさに電光石火の如く。瞬きの間の突撃に、アゲハさんは直撃を免れずにいた。
夜の空の中で落雷による電撃が炸裂し、アゲハさんを中心に強烈なスパークが起きた。
耳をつんざくような雷鳴が轟いて、一瞬視界が白んだ。
「クイナ、アンタよっわいわねぇ!」
けれど、アゲハさんはそれを物ともしていなかった。
電撃を物ともせず、突進を物ともせず、アゲハさんは千鳥ちゃんの首を掴んでその攻撃を受け止めていた。
「弱っちいくせに、出しゃばってくるんじゃないっての!」
「かはっ────」
腕一本で千鳥ちゃんの首を握って支えるアゲハさん。
突撃を受け止められたことによる衝撃、そして首を絞められていることで、千鳥ちゃんは顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
「カルマ、手を貸せ! あそこまで跳ぶ!」
私が慌てて千鳥ちゃんを助けるために飛び上がろうとした時、カノンさんが空気の膜に飛び乗ってきて足場がぐにゃりと歪んだ。
「アーイアイサー! お任せあれぇ~!」
カルマちゃんは大鎌を取り出すと、それを大きく振りかぶった。
そしてカノンさんはその刃の側面に綺麗に飛び乗る。
次の瞬間、カルマちゃんはカノンさんが乗った鎌をそのまま振り回して、上空へと思いっきり振り上げた。
その小柄な体から想像もできない力技による投擲。
魔法による補助があったとしても、とてもパワフルな光景だった。
カタパルトの射出のように吹き飛ばされると同時に、カノンさんも強く跳躍してロケットのように上空へとぐんぐん昇っていく。
十メートルはあったであろう距離をものすごいスピードで詰めて、カノンさんはアゲハさんの懐に入り込んだ。
「その手を放しやがれ!」
アゲハさんにとっては完全な不意打ちの一撃。
昇っていく推進力と共に渾身の力で振るわれた木刀は、千鳥ちゃんを掴む腕にめり込み、ゴキッという鈍い音が遠くにも響いた。
痛みに悲鳴をあげるアゲハさんは首を掴む手を放し、解放された千鳥ちゃんは真っ逆さまに落下した。
「千鳥ちゃん!」
「はーいキャッチしまーすよぉー」
カルマちゃんが呑気な声で言うと空気の膜が更に広がって、落下する千鳥ちゃんを私の時のように受け止めた。
その衝撃で空気の膜がぐわんと揺れて、その反動に乗ってカルマちゃんは反対に上へと飛び上がっていった。
「千鳥ちゃん、大丈夫!?」
「大、丈夫よ……平気だからっ……」
大きく咳き込みながらも、千鳥ちゃんは私に心配をかけまいとニィッと笑った。
それでも、いとも簡単にアゲハさんにやられたことへの屈辱は、その表情に張り付いていた。
「こんのぉ! 調子に乗るなって!」
上空で絶叫するアゲハさんの声が響いた。
カノンさんに折られた腕はもう再生して完治しているようで、ただ跳躍で宙にいるカノンさんに手を伸ばしていた。
自由に身動きの取れないカノンさんは、しかし冷静だった。
「調子に乗ってんのはてめぇだ。こっちは四人がかりだぜ」
「はいはーい! カルマちゃん印のデリバリー! チャーミングな魔女っ子のお届けでーす!」
アゲハさんが伸ばした手がカノンさんを捕らえようとした直前、飛び上がったカルマちゃんが割り込んだ。
飛び上がった勢いのまま大鎌を振り回し、今度はアゲハさんの両腕をスパッと斬り落とした。
アゲハさんがけたたましい悲鳴をあげる中、推進力を失って落ちかけていたカノンさんは、飛び上がってきたカルマちゃんに掴まって体を持ち上げアゲハさんの上を取った。
「地の果てまで落ちやがれ!」
「ついでにもう少し身軽になっちゃえ~」
力強く振り下ろされたカノンさんの木刀は、アゲハさんの肩をぐちゃりと潰して下に叩き落とした。
そしてそれに合わせるように再度振り下ろされたカルマちゃんの大鎌が、腕を失って遮るものがなくなった蝶の羽を片方削いだ。
渾身の一撃を振り下ろされたアゲハさんは、そのまま勢いよく撃墜した。
私たちの横をすり抜けて落ち、べちゃっという生々しい音を立てて地面に激突した。
それが強大な魔法を放つ為のものだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
サファイアブルーの蝶の羽そのものが蒼く光り輝いて、蒼白い光が煌々と私たちを照らす。
その羽にとてつもない力が集結しているであろうことは明らかで、元来持つ禍々しさと合わさって、血の気が引くような威圧感を放っていた。
「消し飛んじゃいな!」
アゲハさんが羽を大きく羽ばたかせると、羽に込められていた煌めく魔力が、巻き起こった風に乗り蒼白い極光の衝撃波となって放たれた。
本来目に見えない風圧が光り輝くエネルギーと共に放たれることで、視界を埋め尽くす波動となって迫る。
目の前に広がるのは眩く白む閃光のような衝撃。
それ以外のものを視界から消しとはず、全てを埋め尽くす極光だった。
「退がって!!!」
避ける暇も余裕もない。正面から受けるなんて論外だ。
いくら障壁を張ろうとも、どんなに防御に達しようとも、膨大なエネルギーを込められたこの攻撃は防ぎきれない。
本能的にそれを察知して、私は瞬時に剣を振るった。
打ち消すしかない。『真理の剣』で攻撃を打ち消す他、切り抜ける術はないと思ったから。
渾身の魔力を込めて、剣を振るって斬撃に乗せた衝撃波を放つ。
純白の剣から放たれる魔法を打ち消す白い斬撃と、蒼い羽から放たれた蒼白い暴風の衝撃波。
二つがぶつかり合って相手の攻撃を掻き消すと、そう思っていた。
けれど、私の斬撃は相手の暴風に込められていた魔力は消したようだけれど、風圧による衝撃波は消してはくれなかった。
私は馬鹿だ。さっきも同じことをした。
斬撃によって多少衝撃波は乱れたけれど、降りかかる凄まじい風圧自体が完全になくなるわけじゃなかった。
「しまった────」
見えない何かが真上から物凄い重みを持って落ちてきたような、そんな衝撃。
荒れ狂う風の波は轟音を立て、目を開けていられないほどの空気の流れに、呼吸もままならない。
真上から滝に打たれているかのような、ひたすらに重みが落ちてくる感覚。
身動きなんて取れるわけもなくて、踏ん張っていても気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうだった。
「アリス!!!」
聴覚が潰れそうなほどの轟音の中、微かに絶叫が聞こえたかと思うと、後ろから首根っこを掴まれた。
次の瞬間、私は暴風の衝撃波の中から離脱していて、代わりにいつの間にか空高く舞い上がっていた。
「アリス、しっかりしなさい!」
何が起きているのかわからず目を瞬かせていると、千鳥ちゃんの甲高い声が耳に届いた。
声がした方、上に顔を向けると、バチバチと電気を体に走らせている千鳥ちゃんが私の首根っこを掴んでいた。
「千鳥ちゃん!」
「落ちるからちゃんと着地しなさい!」
「そ、そんなこと言われてもー!」
どうやら千鳥ちゃんが電気のスピードで、瞬間移動のように暴風の中から私を連れ出してくれたみたいだった。
けれど上空に逃れただけで飛んではいないようで、急速に落下していく。
私たちが二人揃って地面へと急降下している最中、空を自由に滑空しているアゲハさんが物凄いスピードで迫ってきた。
「私相手に空に逃れるとか、馬鹿なんじゃないの!?」
楽しそうに笑って、アゲハさんは目にも留まらぬ速さで突っ込んでくる。
その手には糸の鞭が握られていて、飛び込んでくる勢いも合わさって、衝撃を伴うようなスピードでしなりながら放たれた。
なんとか剣を振るってその鞭を打ち払う。
けれど、落ちながらの無理な姿勢で剣を振るったせいでバランスを崩して、私は千鳥ちゃんの手から離れてしまった。
その隙をついたアゲハさんが、私と千鳥ちゃんに向けてそれぞれ腕を伸ばした。
その瞬間、圧縮した空気が一気に膨張したような、爆発のような空気の炸裂が起きた。
咄嗟に障壁を張って、そして同時に私の胸に氷の華が咲いた。
氷の華から放たれた花弁が私の障壁と合わさって、強固な盾を作り出しす。
しかしその盾はいとも簡単に砕かれて、押さえきれなかった衝撃に私は下へと叩き落とされた。
千鳥ちゃんも防ぎきれず、私とは反対に更に上空へと打ち上げられる。
その姿を見上げながら、私は落下のスピードを更に上乗せされて急速落下していく。
「────!」
息をつく暇もない、次々と起こる展開に頭がついていかない。
何をどうすればいいのか、どうすれば助かるのか冷静な判断ができなかった。
このまま落ちればぐちゃぐちゃに潰れて死んでしまうことは理解できるのに、混乱とパニックで正常に頭が働かない。
冷たい風を切って落下していく私。
もうどのくらいの高さから、どのくらいの勢いで落ちているのかもわからない。
魔法を使わないといけないけれど、何をどうしたらどうなるのか────
「はーいカルマちゃんナーイスキャーッチ!!!」
突然柔らかい何かにふんわりと包まれる感覚がして、私の落下が止まった。
もちもちふんわりとした、まるで雲にでも落ちたような柔らかな感触に受け止められて、私の落下による勢いは全て殺された。
それは空気の膜のようなもので、特大のクッションのように私をずっぽりと受け止めていた。
透明なのにそこにあるとわかる不思議な感覚。
弾力のあるシャボン玉のようだと、私は場違いにもそんなことを思ってしまった。
「いやー危機一髪だったねお姫様。カルマちゃんがナイスなキャッチをしてなかったらペッチャンコだったよ?」
「カ、カルマちゃん……ありがとう」
「礼には及ばないよーん! なんてったってカルマちゃんはお姫様のお友達だからねん!」
空気の膜の私の隣にボフッと乗っかったカルマちゃんが、能天気な声で言った。
いつから私はカルマちゃんの友達になったんだっけと思いつつ、そんなことを言ってる場合じゃないと頭を振る。
「そうだ、千鳥ちゃんは────」
膜の上で立ち上がって慌てて上空に目を向けた時、ピシャンと雷が轟いた。
晴れ渡った暗い夜空には雲一つない。なのに何故雷が瞬いたかといえば、それは千鳥ちゃんだった。
遥か上空に打ち上げられた千鳥ちゃんが、電気をまとって落雷のようにアゲハさん目掛けて飛び込んでいた。
雷鳴を伴う突進はまさに電光石火の如く。瞬きの間の突撃に、アゲハさんは直撃を免れずにいた。
夜の空の中で落雷による電撃が炸裂し、アゲハさんを中心に強烈なスパークが起きた。
耳をつんざくような雷鳴が轟いて、一瞬視界が白んだ。
「クイナ、アンタよっわいわねぇ!」
けれど、アゲハさんはそれを物ともしていなかった。
電撃を物ともせず、突進を物ともせず、アゲハさんは千鳥ちゃんの首を掴んでその攻撃を受け止めていた。
「弱っちいくせに、出しゃばってくるんじゃないっての!」
「かはっ────」
腕一本で千鳥ちゃんの首を握って支えるアゲハさん。
突撃を受け止められたことによる衝撃、そして首を絞められていることで、千鳥ちゃんは顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
「カルマ、手を貸せ! あそこまで跳ぶ!」
私が慌てて千鳥ちゃんを助けるために飛び上がろうとした時、カノンさんが空気の膜に飛び乗ってきて足場がぐにゃりと歪んだ。
「アーイアイサー! お任せあれぇ~!」
カルマちゃんは大鎌を取り出すと、それを大きく振りかぶった。
そしてカノンさんはその刃の側面に綺麗に飛び乗る。
次の瞬間、カルマちゃんはカノンさんが乗った鎌をそのまま振り回して、上空へと思いっきり振り上げた。
その小柄な体から想像もできない力技による投擲。
魔法による補助があったとしても、とてもパワフルな光景だった。
カタパルトの射出のように吹き飛ばされると同時に、カノンさんも強く跳躍してロケットのように上空へとぐんぐん昇っていく。
十メートルはあったであろう距離をものすごいスピードで詰めて、カノンさんはアゲハさんの懐に入り込んだ。
「その手を放しやがれ!」
アゲハさんにとっては完全な不意打ちの一撃。
昇っていく推進力と共に渾身の力で振るわれた木刀は、千鳥ちゃんを掴む腕にめり込み、ゴキッという鈍い音が遠くにも響いた。
痛みに悲鳴をあげるアゲハさんは首を掴む手を放し、解放された千鳥ちゃんは真っ逆さまに落下した。
「千鳥ちゃん!」
「はーいキャッチしまーすよぉー」
カルマちゃんが呑気な声で言うと空気の膜が更に広がって、落下する千鳥ちゃんを私の時のように受け止めた。
その衝撃で空気の膜がぐわんと揺れて、その反動に乗ってカルマちゃんは反対に上へと飛び上がっていった。
「千鳥ちゃん、大丈夫!?」
「大、丈夫よ……平気だからっ……」
大きく咳き込みながらも、千鳥ちゃんは私に心配をかけまいとニィッと笑った。
それでも、いとも簡単にアゲハさんにやられたことへの屈辱は、その表情に張り付いていた。
「こんのぉ! 調子に乗るなって!」
上空で絶叫するアゲハさんの声が響いた。
カノンさんに折られた腕はもう再生して完治しているようで、ただ跳躍で宙にいるカノンさんに手を伸ばしていた。
自由に身動きの取れないカノンさんは、しかし冷静だった。
「調子に乗ってんのはてめぇだ。こっちは四人がかりだぜ」
「はいはーい! カルマちゃん印のデリバリー! チャーミングな魔女っ子のお届けでーす!」
アゲハさんが伸ばした手がカノンさんを捕らえようとした直前、飛び上がったカルマちゃんが割り込んだ。
飛び上がった勢いのまま大鎌を振り回し、今度はアゲハさんの両腕をスパッと斬り落とした。
アゲハさんがけたたましい悲鳴をあげる中、推進力を失って落ちかけていたカノンさんは、飛び上がってきたカルマちゃんに掴まって体を持ち上げアゲハさんの上を取った。
「地の果てまで落ちやがれ!」
「ついでにもう少し身軽になっちゃえ~」
力強く振り下ろされたカノンさんの木刀は、アゲハさんの肩をぐちゃりと潰して下に叩き落とした。
そしてそれに合わせるように再度振り下ろされたカルマちゃんの大鎌が、腕を失って遮るものがなくなった蝶の羽を片方削いだ。
渾身の一撃を振り下ろされたアゲハさんは、そのまま勢いよく撃墜した。
私たちの横をすり抜けて落ち、べちゃっという生々しい音を立てて地面に激突した。
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