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第6章 誰ガ為ニ
33 変わらない
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「アンタみたいなやつに、口出しなんてされたくない! 私から何もかも奪った、アンタなんかに!」
「………………」
「アリスは、私の友達なの! 私なんかのことを友達って言ってくれたの! 何もかも捨てて全てを失った私の、居場所になるって言ってくれた。あの日から心にぽっかり空いた穴を、アリスが埋めようとしてくれたの! アンタなんかよりもよっぽど、アリスは私のことを想ってくれてるんだから!!!」
アゲハさんはただ、その引き裂くような叫びを真顔で聞いていた。
涙こそ流さないながらも、震える声で叫ぶ千鳥ちゃんの想いを、ただ正面から聞いていた。
声を振る震わせ、身を震わせて。声の限りに叫ぶ千鳥ちゃんを、私は思わず抱きしめてしまった。
それでも千鳥ちゃんはアゲハさんから顔をそらさず、心の叫びを口にする。
「わかってる。それでも私だってわかってるの! 私なんかがアリスの側にいて良いわけないんだって! 私みたいなやつが、友達だなんだって都合のいいこと言う資格はないんだって。それでも、この馬鹿といると楽しくて……。 ついつい楽な方にいっちゃうのよ。この子なら、どんな私だって、きっと受け入れてくれるって、思っちゃうから……!」
「千鳥ちゃん……」
そんなことを思っていたなんて。私は全然わかっていなかった。
普段つっけんどんな千鳥ちゃんが、そこまで私のことを想ってくれているなんて。
普段は聞けない千鳥ちゃんの素直な気持ちがじんわりと 心に響いて、私は抱き締める腕に力を入れてしまった。
はち切れそうな想いを吐き出している千鳥ちゃんの、その小さな体を力強く。
千鳥ちゃんは言い切ってからハッとして少し身を震わせた。
けれど、大人しく私の抱擁を受け入れてくれた。少しバツが悪そうにしながら。
「あっそ。じゃあ好きにすればいいじゃん」
アゲハさんはぶっきらぼうに言い捨てた。
苛立ちはその眉間のシワを見れば明らかで、不機嫌そうに鼻をひくつかせている。
その負の感情と共に、禍々しく黒い魔力がアゲハさんに集結していているのがわかった。
「人がせっかく忠告してやってんのにさ。アンタがそういう態度なら、好きにすればいいよ。私は私のやりたいようにやるだけだし。アンタが何を言おうが、何を望もうが、私は私がするべきと思ったことをするだけだから」
冷めきった、感情の冷え切った言葉。
アゲハさんの怒りと苛立ちは、燃え盛る炎ではなく、静かに凍てつかせる氷結のようだった。
黒く押し潰すような邪悪な気配が混じって、どんよりと重く降りかかってくる。
「ただ、これだけは言わせてもらうけどさ。アンタがアリスに絆されてどんなに心変わりしようが、その本質は変わんないから。クイナはクイナ。それだけはどうしようもなく、変わりようなんてないんだから。アンタはいつまでも、弱くて臆病で卑屈なクイナのままなのよ」
「っ…………!」
蝶の羽が爛々と蒼く輝き、どす黒い魔力が漲っていく。
アゲハさんの言葉一つひとつが、鈍器のような重みを持って降り注ぐ。
歯をくいしばる千鳥ちゃんは、けれどそれでも挫けることなく、私の腕を離れて強くアゲハさんを睨んだ。
その胸に何を抱いているのかはわからないけれど。
でも、必死にアゲハさんに抗おうとしている千鳥ちゃん。
私を守るということだけじゃなくて、これは千鳥ちゃんにとっても意味のある戦いなんだ。
さっき取り落として地面に突き刺さっていた『真理の剣』を手にとって、千鳥ちゃんの隣で構える。
アゲハさんがどんなに強くても、私たちは自分たちの為に決して挫けるわけにはいかない。
一緒に明日を見るために、アゲハさんを乗り越えていかなきゃいけないんだ。
千鳥ちゃんと肩を並べる私の横に、カノンさんもまた木刀を構えて並び立った。
「アタシらも協力する。一緒にこの場を切り抜けるぞ」
「ありがとう、カノンさん」
「良いって良いって、気にすんな。ダチを助けんのは当たり前だ。それに……」
気さくに明るく笑って首を横に振るカノンさん。
けれど、すぐに少し意地悪なニヤリ顔を千鳥ちゃんに向けた。
「あんなの聞かされたら、手を貸さねぇわけにもいかねぇしな。お前も、案外色々あんだな」
「う、うっさいわね……!」
千鳥ちゃんは顔を真っ赤にして噛み付いた。
けれどすぐにシュンとして、カノンさんから顔を逸らした。
「ま、まぁ、一応お礼は言っておく……ありがと」
消え入りそな声。けれどちゃんと届いていたようで、カノンさんは「おう」とにこやかに頷いた。
男の人のように力強く、ハッキリと芯の通ったその姿はなんとも頼もしい。
この戦いはもう、私の命を守るためのだけの戦いじゃない。
千鳥ちゃんがアゲハさんと向き合う戦いでもある。
過去、二人の間に何があって、千鳥ちゃんが何に苦しんでいるのかはまだわからない。
そしてそれが、アゲハさんの中で私を殺すことにどう繋がるのかも。
でもこうして対立してしまっている以上、もうぶつからないことはできない。
アゲハさんからその真意を聞き出そうにも、二人の因縁を解消するためにも。
「アリスは何が何でも殺す。邪魔する奴も容赦なんてしないんだからね!」
大きく膨れ上がらせた魔力と強烈な殺気が、重い威圧となってのしかかってくる。
アゲハさんの叫びに、私たちは身を引き締めて三人で顔を見合わせた。
みんなで立ち向かえば大丈夫。
強敵への不安を友達の支えで塗りつぶして、覚悟を持って剣を強く握った、その時────
「話長いよぉー! カルマちゃん飽きちゃったー! いっちばん乗り~!」
私たちの横をすり抜けて、カルマちゃんがアゲハさんめがけて飛び込んだ。
「………………」
「アリスは、私の友達なの! 私なんかのことを友達って言ってくれたの! 何もかも捨てて全てを失った私の、居場所になるって言ってくれた。あの日から心にぽっかり空いた穴を、アリスが埋めようとしてくれたの! アンタなんかよりもよっぽど、アリスは私のことを想ってくれてるんだから!!!」
アゲハさんはただ、その引き裂くような叫びを真顔で聞いていた。
涙こそ流さないながらも、震える声で叫ぶ千鳥ちゃんの想いを、ただ正面から聞いていた。
声を振る震わせ、身を震わせて。声の限りに叫ぶ千鳥ちゃんを、私は思わず抱きしめてしまった。
それでも千鳥ちゃんはアゲハさんから顔をそらさず、心の叫びを口にする。
「わかってる。それでも私だってわかってるの! 私なんかがアリスの側にいて良いわけないんだって! 私みたいなやつが、友達だなんだって都合のいいこと言う資格はないんだって。それでも、この馬鹿といると楽しくて……。 ついつい楽な方にいっちゃうのよ。この子なら、どんな私だって、きっと受け入れてくれるって、思っちゃうから……!」
「千鳥ちゃん……」
そんなことを思っていたなんて。私は全然わかっていなかった。
普段つっけんどんな千鳥ちゃんが、そこまで私のことを想ってくれているなんて。
普段は聞けない千鳥ちゃんの素直な気持ちがじんわりと 心に響いて、私は抱き締める腕に力を入れてしまった。
はち切れそうな想いを吐き出している千鳥ちゃんの、その小さな体を力強く。
千鳥ちゃんは言い切ってからハッとして少し身を震わせた。
けれど、大人しく私の抱擁を受け入れてくれた。少しバツが悪そうにしながら。
「あっそ。じゃあ好きにすればいいじゃん」
アゲハさんはぶっきらぼうに言い捨てた。
苛立ちはその眉間のシワを見れば明らかで、不機嫌そうに鼻をひくつかせている。
その負の感情と共に、禍々しく黒い魔力がアゲハさんに集結していているのがわかった。
「人がせっかく忠告してやってんのにさ。アンタがそういう態度なら、好きにすればいいよ。私は私のやりたいようにやるだけだし。アンタが何を言おうが、何を望もうが、私は私がするべきと思ったことをするだけだから」
冷めきった、感情の冷え切った言葉。
アゲハさんの怒りと苛立ちは、燃え盛る炎ではなく、静かに凍てつかせる氷結のようだった。
黒く押し潰すような邪悪な気配が混じって、どんよりと重く降りかかってくる。
「ただ、これだけは言わせてもらうけどさ。アンタがアリスに絆されてどんなに心変わりしようが、その本質は変わんないから。クイナはクイナ。それだけはどうしようもなく、変わりようなんてないんだから。アンタはいつまでも、弱くて臆病で卑屈なクイナのままなのよ」
「っ…………!」
蝶の羽が爛々と蒼く輝き、どす黒い魔力が漲っていく。
アゲハさんの言葉一つひとつが、鈍器のような重みを持って降り注ぐ。
歯をくいしばる千鳥ちゃんは、けれどそれでも挫けることなく、私の腕を離れて強くアゲハさんを睨んだ。
その胸に何を抱いているのかはわからないけれど。
でも、必死にアゲハさんに抗おうとしている千鳥ちゃん。
私を守るということだけじゃなくて、これは千鳥ちゃんにとっても意味のある戦いなんだ。
さっき取り落として地面に突き刺さっていた『真理の剣』を手にとって、千鳥ちゃんの隣で構える。
アゲハさんがどんなに強くても、私たちは自分たちの為に決して挫けるわけにはいかない。
一緒に明日を見るために、アゲハさんを乗り越えていかなきゃいけないんだ。
千鳥ちゃんと肩を並べる私の横に、カノンさんもまた木刀を構えて並び立った。
「アタシらも協力する。一緒にこの場を切り抜けるぞ」
「ありがとう、カノンさん」
「良いって良いって、気にすんな。ダチを助けんのは当たり前だ。それに……」
気さくに明るく笑って首を横に振るカノンさん。
けれど、すぐに少し意地悪なニヤリ顔を千鳥ちゃんに向けた。
「あんなの聞かされたら、手を貸さねぇわけにもいかねぇしな。お前も、案外色々あんだな」
「う、うっさいわね……!」
千鳥ちゃんは顔を真っ赤にして噛み付いた。
けれどすぐにシュンとして、カノンさんから顔を逸らした。
「ま、まぁ、一応お礼は言っておく……ありがと」
消え入りそな声。けれどちゃんと届いていたようで、カノンさんは「おう」とにこやかに頷いた。
男の人のように力強く、ハッキリと芯の通ったその姿はなんとも頼もしい。
この戦いはもう、私の命を守るためのだけの戦いじゃない。
千鳥ちゃんがアゲハさんと向き合う戦いでもある。
過去、二人の間に何があって、千鳥ちゃんが何に苦しんでいるのかはまだわからない。
そしてそれが、アゲハさんの中で私を殺すことにどう繋がるのかも。
でもこうして対立してしまっている以上、もうぶつからないことはできない。
アゲハさんからその真意を聞き出そうにも、二人の因縁を解消するためにも。
「アリスは何が何でも殺す。邪魔する奴も容赦なんてしないんだからね!」
大きく膨れ上がらせた魔力と強烈な殺気が、重い威圧となってのしかかってくる。
アゲハさんの叫びに、私たちは身を引き締めて三人で顔を見合わせた。
みんなで立ち向かえば大丈夫。
強敵への不安を友達の支えで塗りつぶして、覚悟を持って剣を強く握った、その時────
「話長いよぉー! カルマちゃん飽きちゃったー! いっちばん乗り~!」
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