303 / 984
第5章 フローズン・ファンタズム
78 生への執着
しおりを挟む
魔女の魔法は、決して魔法使いに効かないわけではない。
魔法使いにとって対処が容易だというだけだ。
ならば対処する暇を与えず攻撃をすれば、ダメージは必ず与えられる。
スクルドに休む暇を与えず、対処を考える暇を与えず、氷室は次の攻撃を仕掛けた。
炎の炸裂を受けて怯んだスクルドの懐に入り込み、氷の槍を作り出してその胸に目掛けて突き出した。
近距離下方からの速攻。かわす暇はなく、一直線に氷の刃が突撃する。
「その程度で不意をついたつもりか」
氷の槍は、スクルドの胸に触れた瞬間弾けた。
その胸を穿つことなく、触れた時には魔法としての力を打ち消された。
完全に意識の外から放った攻撃のはずだったが、それでもスクルドは瞬時に対処してみせた。
「あまり、調子にのるな……!」
氷の槍を失った氷室の腹にカウンターの蹴りが突き刺さった。
魔力を伴う蹴りを受けた氷室は、ショットガンに撃ち抜かれたような衝撃を覚えながら吹き飛んだ。
小柄な少女とはいえ、人一人が軽々と吹き飛ぶ強烈な一撃。
宙に放られた氷室は腹部の強烈な衝撃に視界を眩ませながらも、何とか意識を保った。
無造作に地面に身体を打ち付けて、衝撃が氷室を襲う。
それすらも堪えて立ち上がろうとするも、蹴りの衝撃が大きくうまく足を立てることができなかった。
「……その力、一体どういうことだ」
うずくまる氷室に近づいたスクルドが、冷たく碧い瞳で見下ろして静かに尋ねた。
その声には若干の怒りが混ざっており、冷徹さは更に増していた。
氷室は地面に手をついて身体を持ち上げながら、挫けぬ瞳でスクルドを見返した。
「魔女であるお前の力としては些か過剰だ。お前に、そんな力などなかったはずだ。僅かであれ、私に届く魔法など……」
「……私、だけの力ではない。これは、繋がる力。彼女との繋がりが、私を強くしてくれる……」
「姫君からの恩恵か。魔女ごときが……」
スクルドは目を細め、吐き捨てるように言った。
それは氷室個人に向けた言葉というよりは、姫君が魔女と繋がりを持つものであるという、摂理そのものに向けられているようだった。
「……ヘイル。しばらく見ないうちにお前は変わったな」
「…………」
「孤独こそがお前だった。心を閉ざし、感情を潜めて生きていた。今のような激情など、想像もできなかった」
スクルドは薄っすらと笑みを浮かべ、淡々と口にした。
対する氷室は表情を変えることはなく、しかし薄く唇を噛んだ。
「他人を頼り、繋がりに縋る。昔のお前からは想像ができない。まぁ、私に言わせればそんなものは何の役にも立たない。他人に寄せる感情など無駄だ。そんなものに惑わされているようでは、お前は私に敵わないさ」
「……あなたには、わからない。人と共にあれるという、喜びは」
氷室は力を振り絞って立ち上がり、吐き出すように言葉を述べた。
強い意志を持ってスクルドを見て、足に力を入れて地面を踏みしめる。
「孤独に生きるよりも、誰かを想っていた方が、幸せ。誰かに想ってもらえれば、それは力になる。けれど……あなたはそれを知らない。だからあなたには、わからない」
「わからなくていい。わかる必要もない。私は、我が家は代々魔女狩りの頂に立つ者だ。強者には他者など必要ない。不要なものに向ける感情はなく、害するものは切り捨てる。群れる必要などなく、私は独りで完成しているのだから」
スクルドの落ち着いた言葉に揺らぎはない。
冷徹な暗い瞳も、淡々と語られる平坦な言葉も、全てを無駄だと卑下しているようだ。
強き者に、優秀な者に、余計なものは必要ないと。不要なものは、ただ切り捨てればいいと。
その佇まいが、彼の在り方を表していた。
「……あなたはそれで良くても、私はそれを良しとは思わない。不要とされたものの想いが、私はわかるから。そして、誰かに必要とされる喜びを、私は知ったから」
「この問答も意味はない。ヘイル、お前が何を言おうと、お前は私には敵わないのだから」
「…………」
決定的に考え方が違う相手とは、どうしたってわかりあえない。
それはわかりきっていて、だから氷室は、もうわかり合おうとも思ってはいなかった。
でも、ただ目をそらすだけでは駄目だと思ったから。逃げているだけでは、駄目だと思ったから。
アリスは、目を逸らしてもいいと言ったけれど。逃げてもいいと言ったけれど。
スクルドの在り方はアリスとの友情を拒絶するものだから。新しい自分の在り方を否定するものだから。
それには、立ち向かわなければいけないと思った。
過去の出来事や、それによる因縁は、この心と身体に恐怖として刻み込まれている。
今にも逃げ出してしまいたいけれど、それでも立ち向かうのは、アリスとの繋がりがあるから。
想い合うこの心の繋がりがあれば、目の前の恐怖に打ち勝てると思ったから。
だから、氷室は最後の瞬間まで諦めない。
「……私は諦めない。あなたに何を言われても、あなたに手が届かなくても。生きることだけは、決して諦めない……!」
力の限り魔力を膨れ上がらせる。
自身が持てる限りの力を引き寄せて、心の繋がりを持ってアリスの力を借りる。
涼やかなスカイブルーの瞳に強く熱い炎が灯り、スクルドを射殺すかのごとく睨んだ。
「……ヘイル。お前はやっぱり、変わったな」
そんな氷室を冷ややかな目で見つめ、スクルドはポツリと言った。
冷静な表情は、力を凝縮させた氷室を前にしても揺るがず、あくまで淡々とその様子を眺めている。
しかし、そんな氷室の瞳を見据えて、ほんの少しだけ訝しげに眉を寄せた。
「私の知るお前は、そこまで生き汚くはなかった。心を閉ざし、孤独を友としていたお前は、生に無頓着だった。そこまで生に執着している姿は……奴を思い出す。姫君が、お前を変えたのか……」
スクルドは独言る。
生きることに執着し、最後の瞬間まで諦めることをしない氷室を見て、かつてに想いを馳せる。
目の前で力の限りを振り絞る姿を目にしても、その力に焦りを見せることはなかった。
ロード・スクルドはあくまで冷静に、強者然として不動の姿勢で構えている。
「……まぁ今となってはなんでも構わない。今度こそ私の手でお前の息の根を止めよう。ヘイル」
「私は……ヘイルじゃない。私は────氷室 霰……!!!」
友がくれた名を叫ぶ。
かつての名は、捨てられ不必要とされた時の名は、もう自分ではないと。
今自分を必要としてくれる、掛け替えのない友達が呼んでくれる名前こそが、自分だと。
力の限り、自分自身を証明するように叫んで、氷室は魔法を繰り出した。
氷室が大きく手を振り上げると、彼女を中心に極寒の冷気が渦まいた。
天高く突き上げた手の先に向かって、嵐のような力の渦が寒気を伴って蠢く。
舞い上がる風は凍てつく刃のごとく鋭さを持ち、可視化された冷気と魔力の渦が氷室を包み込む。
小型のハリケーンのように渦巻いた冷気の奔流は、やがて片腕に凝縮し、氷室をはその腕を大きく引いた。
触れたものを飲み込む災害を片腕にまとい、その腕を中心に冷気の波動が周囲に波打つ。
その渦に更に業火を走らせ、冷気と灼熱が入り混じったエレルギーは腕の中ではち切れんばかりに轟音をあげる。
一瞬でも気を抜けば暴発してしまうであろう矛盾した力の渦を、氷室は根気で押し込めていた。
「私はもう過去に囚われない。彼女が求める私こそが、私だから────!!!」
力の限り腕を突き出し、その瞬間に押さえ込んでいた力を解放する。
一点に集中していた嵐のごとき力の渦が炸裂し、凍てつく冷気と燃え上がる炎が共存するトルネードが放たれた。
地面を抉り空気を引き裂き、触れるものを凍らせながら燃やし尽くして、大渦がスクルドを襲った。
「────────!!!」
人が触れれば跡形もなく滅ぼされるであろう力の塊。
災害のごとく押し寄せる圧倒的な暴力の渦。
スクルドはその渾身の一撃に思わず目を見開いた。
できの悪い、力のない妹だと見くびっていた氷室から放たれた強大な魔法。
それをまともに受ければ、ただでは済まないことは明白だった。
入り混じり乱れる氷結と灼熱の渦は、押さえ込まれていた力の炸裂により瞬く間に眼前に迫る。
「ヘイル、お前は────」
トルネードがスクルドを飲み込まんと迫った瞬間、時が止まったかのように全てが停止した。
「私には、勝てないよ」
時が止まったのではない。全てのものが凍りつき、停止しただけだった。
スクルドに迫る力の渦も、全て圧倒的な冷却によって凍り付いていた。
形あるものも、ないものも。そこに存在しているのならば凍てつき停止する。
冷気も、炎も、風も、力も。スクルドの手によって、全て凍結した。
「っ……………………!?」
渾身の力で放った魔法をいとも簡単に打ち破られた氷室は、力なく膝を折った。
実力差が圧倒的すぎた。ロード・スクルドが扱う氷の魔法に、凍てつかせることのできないものなどなかった。
凍てついたトルネードが砕け散り、ただの力となって霧散する。
スクルドはその脇を静かに歩いて、地に膝をついて項垂れる氷室の眼前までやってくる。
絶望の色に染まった氷室は、それでも抵抗しようと顔をあげた。
しかしたった今見せつけられた越えられない壁に、指一本動かすことが出来ず、ただ力なく睨みあげることしかできなかった。
「助けて、アリスちゃん…………!」
静かに伸ばされるスクルドの手を恐怖の色で見つめながら、氷室の口は無意識に愛しき友の名を呼んだ。
────────────
魔法使いにとって対処が容易だというだけだ。
ならば対処する暇を与えず攻撃をすれば、ダメージは必ず与えられる。
スクルドに休む暇を与えず、対処を考える暇を与えず、氷室は次の攻撃を仕掛けた。
炎の炸裂を受けて怯んだスクルドの懐に入り込み、氷の槍を作り出してその胸に目掛けて突き出した。
近距離下方からの速攻。かわす暇はなく、一直線に氷の刃が突撃する。
「その程度で不意をついたつもりか」
氷の槍は、スクルドの胸に触れた瞬間弾けた。
その胸を穿つことなく、触れた時には魔法としての力を打ち消された。
完全に意識の外から放った攻撃のはずだったが、それでもスクルドは瞬時に対処してみせた。
「あまり、調子にのるな……!」
氷の槍を失った氷室の腹にカウンターの蹴りが突き刺さった。
魔力を伴う蹴りを受けた氷室は、ショットガンに撃ち抜かれたような衝撃を覚えながら吹き飛んだ。
小柄な少女とはいえ、人一人が軽々と吹き飛ぶ強烈な一撃。
宙に放られた氷室は腹部の強烈な衝撃に視界を眩ませながらも、何とか意識を保った。
無造作に地面に身体を打ち付けて、衝撃が氷室を襲う。
それすらも堪えて立ち上がろうとするも、蹴りの衝撃が大きくうまく足を立てることができなかった。
「……その力、一体どういうことだ」
うずくまる氷室に近づいたスクルドが、冷たく碧い瞳で見下ろして静かに尋ねた。
その声には若干の怒りが混ざっており、冷徹さは更に増していた。
氷室は地面に手をついて身体を持ち上げながら、挫けぬ瞳でスクルドを見返した。
「魔女であるお前の力としては些か過剰だ。お前に、そんな力などなかったはずだ。僅かであれ、私に届く魔法など……」
「……私、だけの力ではない。これは、繋がる力。彼女との繋がりが、私を強くしてくれる……」
「姫君からの恩恵か。魔女ごときが……」
スクルドは目を細め、吐き捨てるように言った。
それは氷室個人に向けた言葉というよりは、姫君が魔女と繋がりを持つものであるという、摂理そのものに向けられているようだった。
「……ヘイル。しばらく見ないうちにお前は変わったな」
「…………」
「孤独こそがお前だった。心を閉ざし、感情を潜めて生きていた。今のような激情など、想像もできなかった」
スクルドは薄っすらと笑みを浮かべ、淡々と口にした。
対する氷室は表情を変えることはなく、しかし薄く唇を噛んだ。
「他人を頼り、繋がりに縋る。昔のお前からは想像ができない。まぁ、私に言わせればそんなものは何の役にも立たない。他人に寄せる感情など無駄だ。そんなものに惑わされているようでは、お前は私に敵わないさ」
「……あなたには、わからない。人と共にあれるという、喜びは」
氷室は力を振り絞って立ち上がり、吐き出すように言葉を述べた。
強い意志を持ってスクルドを見て、足に力を入れて地面を踏みしめる。
「孤独に生きるよりも、誰かを想っていた方が、幸せ。誰かに想ってもらえれば、それは力になる。けれど……あなたはそれを知らない。だからあなたには、わからない」
「わからなくていい。わかる必要もない。私は、我が家は代々魔女狩りの頂に立つ者だ。強者には他者など必要ない。不要なものに向ける感情はなく、害するものは切り捨てる。群れる必要などなく、私は独りで完成しているのだから」
スクルドの落ち着いた言葉に揺らぎはない。
冷徹な暗い瞳も、淡々と語られる平坦な言葉も、全てを無駄だと卑下しているようだ。
強き者に、優秀な者に、余計なものは必要ないと。不要なものは、ただ切り捨てればいいと。
その佇まいが、彼の在り方を表していた。
「……あなたはそれで良くても、私はそれを良しとは思わない。不要とされたものの想いが、私はわかるから。そして、誰かに必要とされる喜びを、私は知ったから」
「この問答も意味はない。ヘイル、お前が何を言おうと、お前は私には敵わないのだから」
「…………」
決定的に考え方が違う相手とは、どうしたってわかりあえない。
それはわかりきっていて、だから氷室は、もうわかり合おうとも思ってはいなかった。
でも、ただ目をそらすだけでは駄目だと思ったから。逃げているだけでは、駄目だと思ったから。
アリスは、目を逸らしてもいいと言ったけれど。逃げてもいいと言ったけれど。
スクルドの在り方はアリスとの友情を拒絶するものだから。新しい自分の在り方を否定するものだから。
それには、立ち向かわなければいけないと思った。
過去の出来事や、それによる因縁は、この心と身体に恐怖として刻み込まれている。
今にも逃げ出してしまいたいけれど、それでも立ち向かうのは、アリスとの繋がりがあるから。
想い合うこの心の繋がりがあれば、目の前の恐怖に打ち勝てると思ったから。
だから、氷室は最後の瞬間まで諦めない。
「……私は諦めない。あなたに何を言われても、あなたに手が届かなくても。生きることだけは、決して諦めない……!」
力の限り魔力を膨れ上がらせる。
自身が持てる限りの力を引き寄せて、心の繋がりを持ってアリスの力を借りる。
涼やかなスカイブルーの瞳に強く熱い炎が灯り、スクルドを射殺すかのごとく睨んだ。
「……ヘイル。お前はやっぱり、変わったな」
そんな氷室を冷ややかな目で見つめ、スクルドはポツリと言った。
冷静な表情は、力を凝縮させた氷室を前にしても揺るがず、あくまで淡々とその様子を眺めている。
しかし、そんな氷室の瞳を見据えて、ほんの少しだけ訝しげに眉を寄せた。
「私の知るお前は、そこまで生き汚くはなかった。心を閉ざし、孤独を友としていたお前は、生に無頓着だった。そこまで生に執着している姿は……奴を思い出す。姫君が、お前を変えたのか……」
スクルドは独言る。
生きることに執着し、最後の瞬間まで諦めることをしない氷室を見て、かつてに想いを馳せる。
目の前で力の限りを振り絞る姿を目にしても、その力に焦りを見せることはなかった。
ロード・スクルドはあくまで冷静に、強者然として不動の姿勢で構えている。
「……まぁ今となってはなんでも構わない。今度こそ私の手でお前の息の根を止めよう。ヘイル」
「私は……ヘイルじゃない。私は────氷室 霰……!!!」
友がくれた名を叫ぶ。
かつての名は、捨てられ不必要とされた時の名は、もう自分ではないと。
今自分を必要としてくれる、掛け替えのない友達が呼んでくれる名前こそが、自分だと。
力の限り、自分自身を証明するように叫んで、氷室は魔法を繰り出した。
氷室が大きく手を振り上げると、彼女を中心に極寒の冷気が渦まいた。
天高く突き上げた手の先に向かって、嵐のような力の渦が寒気を伴って蠢く。
舞い上がる風は凍てつく刃のごとく鋭さを持ち、可視化された冷気と魔力の渦が氷室を包み込む。
小型のハリケーンのように渦巻いた冷気の奔流は、やがて片腕に凝縮し、氷室をはその腕を大きく引いた。
触れたものを飲み込む災害を片腕にまとい、その腕を中心に冷気の波動が周囲に波打つ。
その渦に更に業火を走らせ、冷気と灼熱が入り混じったエレルギーは腕の中ではち切れんばかりに轟音をあげる。
一瞬でも気を抜けば暴発してしまうであろう矛盾した力の渦を、氷室は根気で押し込めていた。
「私はもう過去に囚われない。彼女が求める私こそが、私だから────!!!」
力の限り腕を突き出し、その瞬間に押さえ込んでいた力を解放する。
一点に集中していた嵐のごとき力の渦が炸裂し、凍てつく冷気と燃え上がる炎が共存するトルネードが放たれた。
地面を抉り空気を引き裂き、触れるものを凍らせながら燃やし尽くして、大渦がスクルドを襲った。
「────────!!!」
人が触れれば跡形もなく滅ぼされるであろう力の塊。
災害のごとく押し寄せる圧倒的な暴力の渦。
スクルドはその渾身の一撃に思わず目を見開いた。
できの悪い、力のない妹だと見くびっていた氷室から放たれた強大な魔法。
それをまともに受ければ、ただでは済まないことは明白だった。
入り混じり乱れる氷結と灼熱の渦は、押さえ込まれていた力の炸裂により瞬く間に眼前に迫る。
「ヘイル、お前は────」
トルネードがスクルドを飲み込まんと迫った瞬間、時が止まったかのように全てが停止した。
「私には、勝てないよ」
時が止まったのではない。全てのものが凍りつき、停止しただけだった。
スクルドに迫る力の渦も、全て圧倒的な冷却によって凍り付いていた。
形あるものも、ないものも。そこに存在しているのならば凍てつき停止する。
冷気も、炎も、風も、力も。スクルドの手によって、全て凍結した。
「っ……………………!?」
渾身の力で放った魔法をいとも簡単に打ち破られた氷室は、力なく膝を折った。
実力差が圧倒的すぎた。ロード・スクルドが扱う氷の魔法に、凍てつかせることのできないものなどなかった。
凍てついたトルネードが砕け散り、ただの力となって霧散する。
スクルドはその脇を静かに歩いて、地に膝をついて項垂れる氷室の眼前までやってくる。
絶望の色に染まった氷室は、それでも抵抗しようと顔をあげた。
しかしたった今見せつけられた越えられない壁に、指一本動かすことが出来ず、ただ力なく睨みあげることしかできなかった。
「助けて、アリスちゃん…………!」
静かに伸ばされるスクルドの手を恐怖の色で見つめながら、氷室の口は無意識に愛しき友の名を呼んだ。
────────────
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
憧れのあの子はダンジョンシーカー〜僕は彼女を追い描ける?〜
マニアックパンダ
ファンタジー
憧れのあの子はダンジョンシーカー。
職業は全てステータスに表示される世界。何かになりたくとも、その職業が出なければなれない、そんな世界。
ダンジョンで赤ん坊の頃拾われた主人公の横川一太は孤児院で育つ。同じ孤児の親友と楽しく生活しているが、それをバカにしたり蔑むクラスメイトがいたりする。
そんな中無事16歳の高校2年生となり初めてのステータス表示で出たのは、世界初職業であるNINJA……憧れのあの子と同じシーカー職だ。親友2人は生産職の稀少ジョブだった。お互い無事ジョブが出た事に喜ぶが、教育をかってでたのは職の壁を超越したリアルチートな師匠だった。
始まる過酷な訓練……それに応えどんどんチートじみたスキルを発現させていく主人公だが、師匠たちのリアルチートは圧倒的すぎてなかなか追い付けない。
憧れのあの子といつかパーティーを組むためと思いつつ、妖艶なくノ一やらの誘惑についつい目がいってしまう……だって高校2年生、そんな所に興味を抱いてしまうのは仕方がないよね!?
*この物語はフィクションです、登場する個人名・団体名は一切関係ありません。
悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活
束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。
初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。
ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。
それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。
【完結】公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる