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第4章 死が二人を分断つとも
39 静寂の夕暮れ
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教室の外に創がいると思っていたけれど、廊下にその姿はなかった。それどころか誰もいない。
確かに放課後はみんな帰るか部活に行くかだから、校舎に人がいなくなるのは当たり前といえばそうだけれど。
でも流石に静かすぎた。校舎内に人がいなくても学校内にはまだ大勢人がいるだろうし、気配や喧騒があってもおかしくない。
けれど廊下を含め、全てが静まり返っていた。
まるでこの学校の中には、もう誰もいないんじゃないかと思うほどに。
「…………!」
私たちの後について教室を出てきた氷室さんが、静かに息を飲んだ。
思わずその顔を見ると、そのポーカーフェイスには僅かに不安の色があった。
「人払いの魔法が使われている」
「え、それって……」
その言葉には聞き覚えがあった。確か以前にも似たようなことがあった。
正くんと一悶着あった後も、学校は閑散としていた。確かあの時は、D7がそれをして現れたんだっけ。
「もしかして、魔女狩りが私を狙って……?」
「わからない。けれど、何者かがこの学校にやってきたことは、確か……」
それが誰かはわからないけれど、私たちにとって穏やかじゃないことは確かだ。
もし友好的な人ならば、わざわざ学校に人払いをしてまでやって来ない。
とにかく弱った晴香をこのままにはできないから、早く家に帰らないと。
そう思って晴香を労わりながらも足を早めようとした時、晴香が大きな呻き声を上げてうずくまった。
その瞬間、なんだかとても気持ちの悪い気配というか、圧力のようなものが私の感覚を揺さぶった。
「っ…………!」
汗をだらだらと流して必死で声を押し殺す晴香。
私はそんな晴香に寄り添って、背中をさする。けれど晴香に触れると、更に強いその重い圧力が伝わってきた。
その禍々しいとも言えるなんとも不気味な気配は、晴香から発せられているようだった。
「晴香、大丈夫? 歩けないんだったら、私負ぶって行くから」
「……ごめんね、アリス。だい、じょうぶ、だから……」
無理をして笑顔を作る晴香。
顔を赤くして汗を流す晴香は、とても大丈夫そうには見えなかったけれど、晴香は私に掴まりながらも立ち上がった。
氷室さんも手を伸ばして、晴香は少し複雑そうにしながらもその手を借りてゆっくり歩き出した。
昨日見せた辛そうな顔とは明らかに規模が違った。
気を抜いたら倒れてしまうんじゃないかってくらいに、晴香はギリギリの顔をしている。
身体の熱さも尋常じゃない。これがただの病気なら、今すぐ救急車を呼ぶレベルだ。
終わりが近づいている。その実感が私の胸を締め付けた。
何か方法はないのか。どうすることもできないのか。
必死で頭を巡らせても、何も思いつかないばかりかただただ虚しく空回りするばかりだった。
しばらく廊下を歩いていると、少し晴香の顔色が落ち着いた。
荒かった息も少しずつ整っていって、私たちの手を借りなくても一人で歩けるようになった。
晴香の身体から感じる不気味な気配は依然消えないけれど、その表情には少し余裕が戻った。
「二人共ありがとう。ちょっと楽になったから。心配かけてごめんね」
「それはいいけど。でも無理しちゃダメだよ。とりあえず早く帰ろう」
にっこりと笑みを浮かべる晴香に、私はまだ心配が拭えないままに言った。
少し楽になったとはいえ、それはきっと我慢できるほどに辛くなくなったというだけだ。
根本的に解決したわけじゃない。現に晴香の汗は引いていない。
こんなの時でさえ、晴香は私たちに心配をかけまいとしている。
どちらにしても早く学校を去らないといけない。
ここに人払いの魔法をかけた何者かがやってきている。
もしそれが過激な人だったら、晴香を巻き込むことになってしまう。
それどころじゃないっていうのに。
晴香の身体を労わりながらも、できるだけ早く校舎を出ようとしている時だった。
誰かが走ってこちらに向かってくる音がして、私たちは慌ててそちらに顔を向けた。
「おーいアリスちゃーん」
大手を振って駆けてきたのは善子さんだった。
誰もいないと思っていた校舎の中で、善子さんは慌てた様子でこちらにやってきた。
「大丈夫!? 急に学校からみんな出ていっちゃうし。それに、今なんだかものすごい気配が────」
息を切らせながら善子さんはそう言って、そして晴香のことを見て固まった。
善子さんが言ったものすごい気配というのは、先程から晴香から感じるこの不穏な圧力のようなもののことなんだろう。
それを間近に、そしてそれが晴香から出ているものだと感じて言葉を失っていた。
そして私たちのことを順繰りと見やった。
「善子さん。私、いよいよダメみたいで……」
「晴香ちゃん、それって……」
眉をひそめて笑顔を作る晴香の言葉に、善子さんは全てを悟ったようだった。
晴香の身体がもう『魔女ウィルス』に負けそうになっていること。そして、私がそれを知っていることも。
「善子さん。誰かが学校に人払いの魔法をかけたみたいなんです。晴香はこんな状態だし、早く帰らなきゃって」
「あ、うん。そうだね。そうしないと……」
晴香の状態に言葉を失っていた善子さんは、つっかえながら頷いた。
心配そうに晴香の顔を見ながら、苦い顔をしていた。
「まだ何者の気配も感じなけれど、急いだ方がいい」
氷室さんがそう言って、私たちは連れ立って歩き出した。
この学校に人払いの魔法をかけられた以上、その誰かはもう私たちに狙いを定めているんだろうけれど、せめて晴香だけでも学校から出したい。
狙いは私だろうから、もしもの時は善子さんに晴香のことを頼んで逃がしてもらった方がいいかもしれない。
けれど誰にも遭遇しないまま、昇降口から校舎の外へ出られた。
広い校庭には誰の姿もない。沈みかけた夕日に照らされた校庭は、閑散としていてとても静かだった。
人払いの魔法さえかかっていなければ、何も警戒をする必要の無いような静かな光景だ。
氷室さんも善子さんも、敵の気配は一切感じていないようだった。
魔法使いも魔女も、誰もいる様子はないらしかった。
誰がやったのかはわからないけれど、この魔法をかけた人の意図が全くわからない。
けれど危険がないのなら、後はまっすぐ帰るだけだ。
今は少し落ち着いているけれど、少しでも早く晴香を休ませた方がいい。
休ませてどうにかなるものでもないのかもしれないけれど、でも少しでも楽な方がいい。
そう思いながら足を進めていたその時だった。
「やぁアリスちゃん。それにみんなも仲良くお揃いで。これからどこかにお出掛けするのかな? 青春だよねぇ。いいねぇ女子高生って。それだけでなんだか花があるもんね。私もそんなぴちぴち時代が懐かしいよ」
やけに呑気な声が私たちを呼び止めた。
校門からゆっくりとした歩調で入ってくる女性。
ふわっとした茶髪を乱雑に伸ばして、全身オーバーサイズなだぼだぼ服に身を包んだ、少しだらしない格好。
それは、私がもう何度もお世話になった魔女、夜子さんだった。
そしてその後ろには、金髪ツインテールを揺らしながら千鳥ちゃんがくっついていた。
まるで夜子さんの背中に隠れるように、控えめにこちらを覗いている。
「夜子さんに、千鳥ちゃん……どうして、ここに」
相変わらずの飄々とした緩い笑みを浮かべている夜子さんに、私は驚きを隠せずに言った。
そんな私に夜子さんは特に答えようとせず、呑気な笑みを浮かべるだけだった。
わけがわからず混乱するばかりだったけれど、夜子さんの顔を見てふと思いついた。
魔女としての経験が長く、色んなことを知っている夜子さんなら、この状況を打開する何かを知っているかもしれない。
夜子さんは魔法使いでも難しいことをしてしまう、色々と規格外な人みたいだし。
ワルプルギスでも知らないようなことを、何か知っているかもしれない。
「あの、夜子さん! 実は────」
「いやアリスちゃん。皆まで言う必要はない。私は全部知ってるよ」
私の言葉を遮って、夜子さんはゆったりと言った。
「晴香ちゃんが鍵の守り手だっていうことも、そしてその晴香ちゃんが魔女として限界を迎えつつあるってこともね」
「どうして、それを……」
夜子さんはこの街の魔女に知り合いが多いと言っていたから、晴香が魔女だということを知っていること自体はおかしくないけれど。
でも鍵のことや、晴香がそれを守っていることまで知っているなんて。
「そんなに驚くことじゃないだろう。五年前、この街に鍵が持ち込まれた時だって私はここにいたんだ。それを巡ってみんなが騒いでいたのだって知っている。ホーリーが手ずからアリスちゃんの近辺に鍵を封じるなら、それは身近な人間の中だろうと当たりをつけていたのさ。そして案の定、君の幼馴染は魔女だ。晴香ちゃんが守り手なのは確定的だろうさ」
ロード・ホーリーのことも夜子さんは知っている。
つくづくこの人は何者なんだろう。
「夜子さんとは、魔女になったばかりの時に少し話したことがあるの。魔女の身での普通の生活の仕方なんかを、教えてくれたりして。でももちろん、鍵を守ってることは言ってなかったけれど……」
晴香も少し驚いたように言った。
夜子さんはそうやって、この街で魔女になった人たちに少なからず接触して、力を貸すようなことをしているのかもしれない。
善子さんも夜子さんのことは知っている様子だった。
「夜子さん。今晴香は────」
「だから皆まで言わなくていいって。言っただろう? 晴香ちゃんが限界を迎えつつあることは知ってるって。だから私はここに来たんだよ」
「それ、どういう……」
夜子さんの言わんとしていることがわからないかった。
そもそもどうして夜子さんがここにいるのかさえわからなかった。
「考えればわかるよアリスちゃん。ここに人払いの魔法をかけたのは誰か。そのくらいさ」
「まさか、夜子さんが……? でもどうして?」
「どうして? そんなの簡単だよ」
夜子さんはいつも通りの気の抜けた笑みを浮かべた。
いつも通りの人を少し小馬鹿にしたような、けれどなんだかんだと手を貸してくれる時の、ゆるい笑み。
そんないつも通りの表情で、あっけらかんと言った。
「晴香ちゃんを殺すためさ」
確かに放課後はみんな帰るか部活に行くかだから、校舎に人がいなくなるのは当たり前といえばそうだけれど。
でも流石に静かすぎた。校舎内に人がいなくても学校内にはまだ大勢人がいるだろうし、気配や喧騒があってもおかしくない。
けれど廊下を含め、全てが静まり返っていた。
まるでこの学校の中には、もう誰もいないんじゃないかと思うほどに。
「…………!」
私たちの後について教室を出てきた氷室さんが、静かに息を飲んだ。
思わずその顔を見ると、そのポーカーフェイスには僅かに不安の色があった。
「人払いの魔法が使われている」
「え、それって……」
その言葉には聞き覚えがあった。確か以前にも似たようなことがあった。
正くんと一悶着あった後も、学校は閑散としていた。確かあの時は、D7がそれをして現れたんだっけ。
「もしかして、魔女狩りが私を狙って……?」
「わからない。けれど、何者かがこの学校にやってきたことは、確か……」
それが誰かはわからないけれど、私たちにとって穏やかじゃないことは確かだ。
もし友好的な人ならば、わざわざ学校に人払いをしてまでやって来ない。
とにかく弱った晴香をこのままにはできないから、早く家に帰らないと。
そう思って晴香を労わりながらも足を早めようとした時、晴香が大きな呻き声を上げてうずくまった。
その瞬間、なんだかとても気持ちの悪い気配というか、圧力のようなものが私の感覚を揺さぶった。
「っ…………!」
汗をだらだらと流して必死で声を押し殺す晴香。
私はそんな晴香に寄り添って、背中をさする。けれど晴香に触れると、更に強いその重い圧力が伝わってきた。
その禍々しいとも言えるなんとも不気味な気配は、晴香から発せられているようだった。
「晴香、大丈夫? 歩けないんだったら、私負ぶって行くから」
「……ごめんね、アリス。だい、じょうぶ、だから……」
無理をして笑顔を作る晴香。
顔を赤くして汗を流す晴香は、とても大丈夫そうには見えなかったけれど、晴香は私に掴まりながらも立ち上がった。
氷室さんも手を伸ばして、晴香は少し複雑そうにしながらもその手を借りてゆっくり歩き出した。
昨日見せた辛そうな顔とは明らかに規模が違った。
気を抜いたら倒れてしまうんじゃないかってくらいに、晴香はギリギリの顔をしている。
身体の熱さも尋常じゃない。これがただの病気なら、今すぐ救急車を呼ぶレベルだ。
終わりが近づいている。その実感が私の胸を締め付けた。
何か方法はないのか。どうすることもできないのか。
必死で頭を巡らせても、何も思いつかないばかりかただただ虚しく空回りするばかりだった。
しばらく廊下を歩いていると、少し晴香の顔色が落ち着いた。
荒かった息も少しずつ整っていって、私たちの手を借りなくても一人で歩けるようになった。
晴香の身体から感じる不気味な気配は依然消えないけれど、その表情には少し余裕が戻った。
「二人共ありがとう。ちょっと楽になったから。心配かけてごめんね」
「それはいいけど。でも無理しちゃダメだよ。とりあえず早く帰ろう」
にっこりと笑みを浮かべる晴香に、私はまだ心配が拭えないままに言った。
少し楽になったとはいえ、それはきっと我慢できるほどに辛くなくなったというだけだ。
根本的に解決したわけじゃない。現に晴香の汗は引いていない。
こんなの時でさえ、晴香は私たちに心配をかけまいとしている。
どちらにしても早く学校を去らないといけない。
ここに人払いの魔法をかけた何者かがやってきている。
もしそれが過激な人だったら、晴香を巻き込むことになってしまう。
それどころじゃないっていうのに。
晴香の身体を労わりながらも、できるだけ早く校舎を出ようとしている時だった。
誰かが走ってこちらに向かってくる音がして、私たちは慌ててそちらに顔を向けた。
「おーいアリスちゃーん」
大手を振って駆けてきたのは善子さんだった。
誰もいないと思っていた校舎の中で、善子さんは慌てた様子でこちらにやってきた。
「大丈夫!? 急に学校からみんな出ていっちゃうし。それに、今なんだかものすごい気配が────」
息を切らせながら善子さんはそう言って、そして晴香のことを見て固まった。
善子さんが言ったものすごい気配というのは、先程から晴香から感じるこの不穏な圧力のようなもののことなんだろう。
それを間近に、そしてそれが晴香から出ているものだと感じて言葉を失っていた。
そして私たちのことを順繰りと見やった。
「善子さん。私、いよいよダメみたいで……」
「晴香ちゃん、それって……」
眉をひそめて笑顔を作る晴香の言葉に、善子さんは全てを悟ったようだった。
晴香の身体がもう『魔女ウィルス』に負けそうになっていること。そして、私がそれを知っていることも。
「善子さん。誰かが学校に人払いの魔法をかけたみたいなんです。晴香はこんな状態だし、早く帰らなきゃって」
「あ、うん。そうだね。そうしないと……」
晴香の状態に言葉を失っていた善子さんは、つっかえながら頷いた。
心配そうに晴香の顔を見ながら、苦い顔をしていた。
「まだ何者の気配も感じなけれど、急いだ方がいい」
氷室さんがそう言って、私たちは連れ立って歩き出した。
この学校に人払いの魔法をかけられた以上、その誰かはもう私たちに狙いを定めているんだろうけれど、せめて晴香だけでも学校から出したい。
狙いは私だろうから、もしもの時は善子さんに晴香のことを頼んで逃がしてもらった方がいいかもしれない。
けれど誰にも遭遇しないまま、昇降口から校舎の外へ出られた。
広い校庭には誰の姿もない。沈みかけた夕日に照らされた校庭は、閑散としていてとても静かだった。
人払いの魔法さえかかっていなければ、何も警戒をする必要の無いような静かな光景だ。
氷室さんも善子さんも、敵の気配は一切感じていないようだった。
魔法使いも魔女も、誰もいる様子はないらしかった。
誰がやったのかはわからないけれど、この魔法をかけた人の意図が全くわからない。
けれど危険がないのなら、後はまっすぐ帰るだけだ。
今は少し落ち着いているけれど、少しでも早く晴香を休ませた方がいい。
休ませてどうにかなるものでもないのかもしれないけれど、でも少しでも楽な方がいい。
そう思いながら足を進めていたその時だった。
「やぁアリスちゃん。それにみんなも仲良くお揃いで。これからどこかにお出掛けするのかな? 青春だよねぇ。いいねぇ女子高生って。それだけでなんだか花があるもんね。私もそんなぴちぴち時代が懐かしいよ」
やけに呑気な声が私たちを呼び止めた。
校門からゆっくりとした歩調で入ってくる女性。
ふわっとした茶髪を乱雑に伸ばして、全身オーバーサイズなだぼだぼ服に身を包んだ、少しだらしない格好。
それは、私がもう何度もお世話になった魔女、夜子さんだった。
そしてその後ろには、金髪ツインテールを揺らしながら千鳥ちゃんがくっついていた。
まるで夜子さんの背中に隠れるように、控えめにこちらを覗いている。
「夜子さんに、千鳥ちゃん……どうして、ここに」
相変わらずの飄々とした緩い笑みを浮かべている夜子さんに、私は驚きを隠せずに言った。
そんな私に夜子さんは特に答えようとせず、呑気な笑みを浮かべるだけだった。
わけがわからず混乱するばかりだったけれど、夜子さんの顔を見てふと思いついた。
魔女としての経験が長く、色んなことを知っている夜子さんなら、この状況を打開する何かを知っているかもしれない。
夜子さんは魔法使いでも難しいことをしてしまう、色々と規格外な人みたいだし。
ワルプルギスでも知らないようなことを、何か知っているかもしれない。
「あの、夜子さん! 実は────」
「いやアリスちゃん。皆まで言う必要はない。私は全部知ってるよ」
私の言葉を遮って、夜子さんはゆったりと言った。
「晴香ちゃんが鍵の守り手だっていうことも、そしてその晴香ちゃんが魔女として限界を迎えつつあるってこともね」
「どうして、それを……」
夜子さんはこの街の魔女に知り合いが多いと言っていたから、晴香が魔女だということを知っていること自体はおかしくないけれど。
でも鍵のことや、晴香がそれを守っていることまで知っているなんて。
「そんなに驚くことじゃないだろう。五年前、この街に鍵が持ち込まれた時だって私はここにいたんだ。それを巡ってみんなが騒いでいたのだって知っている。ホーリーが手ずからアリスちゃんの近辺に鍵を封じるなら、それは身近な人間の中だろうと当たりをつけていたのさ。そして案の定、君の幼馴染は魔女だ。晴香ちゃんが守り手なのは確定的だろうさ」
ロード・ホーリーのことも夜子さんは知っている。
つくづくこの人は何者なんだろう。
「夜子さんとは、魔女になったばかりの時に少し話したことがあるの。魔女の身での普通の生活の仕方なんかを、教えてくれたりして。でももちろん、鍵を守ってることは言ってなかったけれど……」
晴香も少し驚いたように言った。
夜子さんはそうやって、この街で魔女になった人たちに少なからず接触して、力を貸すようなことをしているのかもしれない。
善子さんも夜子さんのことは知っている様子だった。
「夜子さん。今晴香は────」
「だから皆まで言わなくていいって。言っただろう? 晴香ちゃんが限界を迎えつつあることは知ってるって。だから私はここに来たんだよ」
「それ、どういう……」
夜子さんの言わんとしていることがわからないかった。
そもそもどうして夜子さんがここにいるのかさえわからなかった。
「考えればわかるよアリスちゃん。ここに人払いの魔法をかけたのは誰か。そのくらいさ」
「まさか、夜子さんが……? でもどうして?」
「どうして? そんなの簡単だよ」
夜子さんはいつも通りの気の抜けた笑みを浮かべた。
いつも通りの人を少し小馬鹿にしたような、けれどなんだかんだと手を貸してくれる時の、ゆるい笑み。
そんないつも通りの表情で、あっけらかんと言った。
「晴香ちゃんを殺すためさ」
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