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第4章 死が二人を分断つとも
30 アクの強い三人
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「そんで、何でアンタこんなとこ来たの?」
バスローブを羽織りながらアゲハさんが聞いてきた。
本当に羽織っているだけだから露出度的には相当だし、寧ろ全裸よりも扇情的な気はするけれど、でも一応隠すべき所は隠されている。
クロアさんがお茶の用意をして戻ってきた時もまだアゲハさんは全裸のままで、はしたないとクロアさんに叱られたからだ。
はじめは適当に聞き流していたアゲハさんだったけれど、親のお小言の様に懇々と指摘するクロアさんに根負けして、仕方なく手近なバスローブを羽織った。
ちゃんと着ずに羽織るだけにしたのはささやかな抵抗なのかもしれない。
「アリスちゃんが僕たちに聞きたいことがあるんだってさ」
「ふーん」
私の代わりに答えたレイくんの言葉に、アゲハさんは適当な相槌を打つ。あんまり興味がなさそうだ。
私としてはアゲハさんが一番の証人だから、そういう意味では一番話を聞いてみたくはあるんだけれど。
私は部屋の真ん中にある大きなソファーに座らされた。
大きなテーブルを挟む様に、座り心地の良さそうなふわふわの二人がけのソファーが二つ置かれている。
その片方に座らされて、クロアさんが私の隣を陣取ってお茶を淹れはじめた。
もちろん私はラブホテルなんて建物に入るのは産まれて初めてで、中がどんな風になっているのかなんて知らなかった。
なんとなくビジネスホテルのようなものを想像していた。
けれどここはパーティールームというくらいだからか、とても広くて豪華だった。
さっきアゲハさんが寝転んでいたベッドは、数人で寝転んでも余裕がありそうなほどに大きい。
奥の方に見える浴室だって家庭のものと比べれば倍以上はありそうだし、きっと湯船も大きいんだろう。
ラブホテルというから、全体的にいかがわしいピンクっぽい雰囲気なのかと勝手に想像していたけれど、どちらかといえば少し落ち着いていてお洒落だ。
壁の色合いや椅子や机などの備品も全て、綺麗に洗礼されていてちょっとリッチな気分にさせられる。
もしプライベートで来ていたらきっとワクワクしてしまうんだろうな、と思わず考えたら顔が少し熱くなった。何を考えているんだ私は。
「お砂糖とミルクはお入れしますか?」
「あ、それは自分で……」
持参したのか、部屋の雰囲気とはやや違うゴシックなティーセットで紅茶を淹れたクロアさんに問われて、私は慌てて手を伸ばした。
けれどその手をやんわりと遮って、クロアさんは首を横に振った。
「お任せくださいな。お手を煩わせることでもございません」
「じゃ、じゃあ、お願いします……」
ニコリと微笑んで優しくそう言われるとなんだか断れなくて、私はもぞもぞと答えた。
そんな私を見てもう一度ニコッと微笑むと、クロアさんは丁寧な所作でカップに砂糖とミルクを加えた。
それを私に手渡す時にまたニコリと微笑みかけてきて、その柔らかさになんだか気恥ずかしくなってしまった。
レイくんとアゲハさんにも同じようにカップを渡してから、クロアさんはようやく腰を落ち着けた。
余裕のある大きめのソファーだけれど、私にぴったりと身を寄せて座るクロアさん。
何故、こんなにも気に入られているんだろう。
そんなクロアさんの様子を、私の向かいに座るレイくんはニコニコと眺めていた。
そしてその隣に座るアゲハさんはやれやれと言った風に溜息をついていた。
「で、何が聞きたいわけ?」
口火を切ったのは意外なことにアゲハさんだった。
興味なさそうにしていたけれど、だからといって無関心ということではなかったらしい。
「アリスちゃんは転臨について知りたいみたいだよ。どうせその話をするなら、ここでみんなで話した方がいいかなと思って連れてきたんだ」
何て説明しようか迷っていると、レイくんが簡単にまとめてくれた。
「転臨? 何でまた?」
「『魔女ウィルス』による死の克服の仕方を、知りたいんです」
眉をぐっと上げて驚きを示すアゲハさんに私はおずおずと答えた。
するとアゲハさんは面相くさそうな、苦々しい顔をした。
「なーんだそういう小難しい話? 私そういうのパース」
「こらアゲハさん。姫様に対して失礼でしょう」
天を仰いで脱力するアゲハさんに、クロアさんは眉を吊り上げて言った。
けれどアゲハさんは聞く耳持たずという感じで、自分のカップの紅茶をぐびっと一気飲みして立ち上がった。
「そこら辺の難しい話はレイとクロアが得意でしょ? 後はよろしくー」
言うが早いか、アゲハさんは手をひらひらと振りながらベッドまでスタスタと歩いていって寝転んでしまった。
羽織っただけのバスローブは思いっきりはだけてしまっている。
でもそんなことお構いなしで、だらしなくぐでんと寝転んでいた。
「アゲハさんったら、まったく。困ったものですね」
「まぁまぁクロア。アリスちゃんの知りたいことについては僕たちからでも説明できるからね」
ムッと眉を寄せるクロアさんと、それをやんわりと宥めるレイくん。
クロアさんは大分しっかりしている、というか真面目な人みたいだ。
雰囲気が落ち着いているのもそうだけれど、一番の年上だからかちょっと保護者のようにも見える。
アゲハさんは自由奔放だし、レイくんはレイくんで何を考えているかわからない。
そういう意味では、この三人な中でしっかりと構えられるのはクロアさんだけなのかもしれない。
こんな感じでちゃんと教えてもらえるのかなぁ。
その不安が顔に出てしまっていたのか、クロアさんが既に寄せている体を更にくっつけてきた。
「ご安心ください。わたくしたちできちんとお話いたしますので」
そう言って、子供にするように優しく頭を撫でてくるクロアさん。
ここまで子供扱いされると、なんだか自分が小さな子になってしまったような気になってしまう。
気をしっかり持たないと。この人たちは大分アクが強いから、ちゃんと意思を持って接しないとこっちが飲み込まれてしまう。
私はここに死の克服の仕方を聞きにきたんだから。
飲まれちゃいけない。晴香のためのことなんだから。
私は気持ちをぐっと引き締めて、二人を順繰りと見た。
バスローブを羽織りながらアゲハさんが聞いてきた。
本当に羽織っているだけだから露出度的には相当だし、寧ろ全裸よりも扇情的な気はするけれど、でも一応隠すべき所は隠されている。
クロアさんがお茶の用意をして戻ってきた時もまだアゲハさんは全裸のままで、はしたないとクロアさんに叱られたからだ。
はじめは適当に聞き流していたアゲハさんだったけれど、親のお小言の様に懇々と指摘するクロアさんに根負けして、仕方なく手近なバスローブを羽織った。
ちゃんと着ずに羽織るだけにしたのはささやかな抵抗なのかもしれない。
「アリスちゃんが僕たちに聞きたいことがあるんだってさ」
「ふーん」
私の代わりに答えたレイくんの言葉に、アゲハさんは適当な相槌を打つ。あんまり興味がなさそうだ。
私としてはアゲハさんが一番の証人だから、そういう意味では一番話を聞いてみたくはあるんだけれど。
私は部屋の真ん中にある大きなソファーに座らされた。
大きなテーブルを挟む様に、座り心地の良さそうなふわふわの二人がけのソファーが二つ置かれている。
その片方に座らされて、クロアさんが私の隣を陣取ってお茶を淹れはじめた。
もちろん私はラブホテルなんて建物に入るのは産まれて初めてで、中がどんな風になっているのかなんて知らなかった。
なんとなくビジネスホテルのようなものを想像していた。
けれどここはパーティールームというくらいだからか、とても広くて豪華だった。
さっきアゲハさんが寝転んでいたベッドは、数人で寝転んでも余裕がありそうなほどに大きい。
奥の方に見える浴室だって家庭のものと比べれば倍以上はありそうだし、きっと湯船も大きいんだろう。
ラブホテルというから、全体的にいかがわしいピンクっぽい雰囲気なのかと勝手に想像していたけれど、どちらかといえば少し落ち着いていてお洒落だ。
壁の色合いや椅子や机などの備品も全て、綺麗に洗礼されていてちょっとリッチな気分にさせられる。
もしプライベートで来ていたらきっとワクワクしてしまうんだろうな、と思わず考えたら顔が少し熱くなった。何を考えているんだ私は。
「お砂糖とミルクはお入れしますか?」
「あ、それは自分で……」
持参したのか、部屋の雰囲気とはやや違うゴシックなティーセットで紅茶を淹れたクロアさんに問われて、私は慌てて手を伸ばした。
けれどその手をやんわりと遮って、クロアさんは首を横に振った。
「お任せくださいな。お手を煩わせることでもございません」
「じゃ、じゃあ、お願いします……」
ニコリと微笑んで優しくそう言われるとなんだか断れなくて、私はもぞもぞと答えた。
そんな私を見てもう一度ニコッと微笑むと、クロアさんは丁寧な所作でカップに砂糖とミルクを加えた。
それを私に手渡す時にまたニコリと微笑みかけてきて、その柔らかさになんだか気恥ずかしくなってしまった。
レイくんとアゲハさんにも同じようにカップを渡してから、クロアさんはようやく腰を落ち着けた。
余裕のある大きめのソファーだけれど、私にぴったりと身を寄せて座るクロアさん。
何故、こんなにも気に入られているんだろう。
そんなクロアさんの様子を、私の向かいに座るレイくんはニコニコと眺めていた。
そしてその隣に座るアゲハさんはやれやれと言った風に溜息をついていた。
「で、何が聞きたいわけ?」
口火を切ったのは意外なことにアゲハさんだった。
興味なさそうにしていたけれど、だからといって無関心ということではなかったらしい。
「アリスちゃんは転臨について知りたいみたいだよ。どうせその話をするなら、ここでみんなで話した方がいいかなと思って連れてきたんだ」
何て説明しようか迷っていると、レイくんが簡単にまとめてくれた。
「転臨? 何でまた?」
「『魔女ウィルス』による死の克服の仕方を、知りたいんです」
眉をぐっと上げて驚きを示すアゲハさんに私はおずおずと答えた。
するとアゲハさんは面相くさそうな、苦々しい顔をした。
「なーんだそういう小難しい話? 私そういうのパース」
「こらアゲハさん。姫様に対して失礼でしょう」
天を仰いで脱力するアゲハさんに、クロアさんは眉を吊り上げて言った。
けれどアゲハさんは聞く耳持たずという感じで、自分のカップの紅茶をぐびっと一気飲みして立ち上がった。
「そこら辺の難しい話はレイとクロアが得意でしょ? 後はよろしくー」
言うが早いか、アゲハさんは手をひらひらと振りながらベッドまでスタスタと歩いていって寝転んでしまった。
羽織っただけのバスローブは思いっきりはだけてしまっている。
でもそんなことお構いなしで、だらしなくぐでんと寝転んでいた。
「アゲハさんったら、まったく。困ったものですね」
「まぁまぁクロア。アリスちゃんの知りたいことについては僕たちからでも説明できるからね」
ムッと眉を寄せるクロアさんと、それをやんわりと宥めるレイくん。
クロアさんは大分しっかりしている、というか真面目な人みたいだ。
雰囲気が落ち着いているのもそうだけれど、一番の年上だからかちょっと保護者のようにも見える。
アゲハさんは自由奔放だし、レイくんはレイくんで何を考えているかわからない。
そういう意味では、この三人な中でしっかりと構えられるのはクロアさんだけなのかもしれない。
こんな感じでちゃんと教えてもらえるのかなぁ。
その不安が顔に出てしまっていたのか、クロアさんが既に寄せている体を更にくっつけてきた。
「ご安心ください。わたくしたちできちんとお話いたしますので」
そう言って、子供にするように優しく頭を撫でてくるクロアさん。
ここまで子供扱いされると、なんだか自分が小さな子になってしまったような気になってしまう。
気をしっかり持たないと。この人たちは大分アクが強いから、ちゃんと意思を持って接しないとこっちが飲み込まれてしまう。
私はここに死の克服の仕方を聞きにきたんだから。
飲まれちゃいけない。晴香のためのことなんだから。
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