188 / 984
第4章 死が二人を分断つとも
26 欲求的な要求
しおりを挟む
「ところで、アリスちゃんも僕に何か用事があったんじゃないの?」
「え? まぁ、うん」
レイくんがわざとらしく聞いてきて、私はとりあえず頷いた。
私が聞きたいことがあったからこそこうしてついてきていることを、レイくんはお見通しだったみたいだ。
「何でも言ってごらんよ。アリスちゃんの話なら、僕は何だって聞いてあげるよ」
悪意のない笑顔で優しく促してくるレイくん。
私が言い出しやすいような雰囲気を作ってくれていた。
そういう細やかさもレイくんの女ったらしさが垣間見えて、何だか気分は良くなかった。
でもそんなことを言っている場合じゃない。
「じゃあ単刀直入に聞くけど。レイくんは、ワルプルギスは、『魔女ウィルス』で死なない方法を知っているんだよね? それを教えて欲しいの」
「……なるほど。そうきたか」
レイくんの手をぎゅっと握って、その少しだけ高い位置にある瞳をまっすぐ見つめる。
レイくんはキリッとした目を少し細めて、私を見定めるような薄い笑みを浮かべた。
「ちなみに、どうしてそんなことが知りたいのか聞いてもいいかな?」
「それは……言いたくない」
晴香のことを説明したくはないし、その必要もない。
それに私も一応魔女ってことになっているんだし、みんなからしてみればそれを聞く理由がないわけじゃないし。
レイくんは私の返答に特に追求をしてこなかった。
はじめから聞けるとも思っていなかったのかもしれない。
「アゲハさんは、既に死を乗り越えたって言ってた。レイくんたちワルプルギスは、『魔女ウィルス』による死を克服する方法を知っているんでしょ?」
「転臨のことかな。まぁそういうことになるけれど。でもあんまりおすすめはできないなぁ」
優しく、まるで子供を諭すような口調でレイくんは言った。
眉を寄せて、少し困っているようにも見える。
「教えては、もらえないの?」
「うーん。僕としては、あんまり進んで教えてあげるようなものではないかな。でも、他でもないアリスちゃんの頼みだから、聞いてあげたい気持ちもあるし……」
レイくんは自らの顎に手を添えて考える素振りを見せた。
その仕草は少しわざとっぽくて、そう見せているのが見え見えだった。
伏せ目でそんなポーズをとって、やがて目をぱちっと開いた。
まるで名案が浮かんだとでもいうように、明るい顔をして私を見る。
その顔には機嫌の良さそうな満面の笑みが浮かべられていた。
私はなんとなく、嫌な予感がした。
「じゃあこうしよう。アリスちゃんが僕のお願いを聞いてくれたら、アリスちゃんのお願いも聞いてあげる」
「……お願いって?」
全くもって良い予感はしない。
レイくんの提案はきっと、私にとって碌でもないものだという気がしてならなかった。
でも仕方なく聞くしかなかった。
「僕にキスしてくれたら、アリスちゃんが聞きたいことを教えてあげるよ」
「キ、キス!?」
予想外の要求に、私はとっさにレイくんの手を振り払ってしまった。
いや、レイくんなんだからそれは予想できたことかもしれないけれど、いやでもなぁ。
私はてっきり、お姫様関係のこととか、そういう要求をされると思っていた。
まさかこんなストレートな欲求をぶつけられるなんて思ってもみなかった。
自分の顔が一瞬で赤くなったのを感じた。
「レ、レイくん。私、真面目な話してるんだけど……!」
「僕だって至って真面目だよ。僕はアリスちゃんとキスがしたい」
語気を強めて睨みつけながら言ってみるも、レイくんは気にせずにクールな声色で返してきた。
調子が狂っているのは私だけで、レイくんは完全に余裕な面持ちだった。
「なんでそんな……私なんかとキスしたって……」
「何を言っているさ。好きな女の子とキスがしたいなんて、当たり前のことじゃないか」
もう一周も二周も通り越してムカついてきた。
なんでこういう言葉を息を吸うように言うんだろうか。
別にときめいたりはしないけれど、何とも言えないもやもやが渦巻く。
とりあえずパンチの一つでも入れたい気分だった。
「もちろんフレンチなもので構わないよ。まぁ、僕としてはもっと濃厚なものでも大歓迎だけどね」
「なっ…………」
濃厚な、とは一体何を言ってるのか。
いや、それが意味することはわかってはいるけれど、でも私とレイくんが濃厚なそれを……。
ダメだ。頭がパンクしそうになる。
「しなきゃ、ダメなの?」
「ダメじゃないさ。けれどこれは取引だからね。してくれないと、僕もアリスちゃんの聞きたいことを教えてあげられないよ」
「……卑怯だ」
完全に弱みに付け込まれた。
何故私がそれを知りたいのか、その実をレイくんは知らないけれど、でもそれが私にとって大事なことだと見抜いているんだ。
だからこそレイくんはこんなことを言い出してくる。
でも実際問題、それだけのことで晴香が助かる糸口が掴めるのなら安いものかもしれない。
いや、女の子として唇を安売りするのは良くないとは思うけれど。
でも何がより大事かと言えば、私なんかのファーストキスより晴香の命だ。
そう考えれば、これは決して安いことではない。
レイくんとキスをする。
それでそのことを教えてもらえるのなら、私は……。
「わかったよ」
私が一歩踏み出すと、レイくんは少し驚いたように微笑んだ。
身を寄せる私の背中にそっと手を回して優しく包んでくる。
なんだか、とてもいけないことをするような気分になってきた。
「え? まぁ、うん」
レイくんがわざとらしく聞いてきて、私はとりあえず頷いた。
私が聞きたいことがあったからこそこうしてついてきていることを、レイくんはお見通しだったみたいだ。
「何でも言ってごらんよ。アリスちゃんの話なら、僕は何だって聞いてあげるよ」
悪意のない笑顔で優しく促してくるレイくん。
私が言い出しやすいような雰囲気を作ってくれていた。
そういう細やかさもレイくんの女ったらしさが垣間見えて、何だか気分は良くなかった。
でもそんなことを言っている場合じゃない。
「じゃあ単刀直入に聞くけど。レイくんは、ワルプルギスは、『魔女ウィルス』で死なない方法を知っているんだよね? それを教えて欲しいの」
「……なるほど。そうきたか」
レイくんの手をぎゅっと握って、その少しだけ高い位置にある瞳をまっすぐ見つめる。
レイくんはキリッとした目を少し細めて、私を見定めるような薄い笑みを浮かべた。
「ちなみに、どうしてそんなことが知りたいのか聞いてもいいかな?」
「それは……言いたくない」
晴香のことを説明したくはないし、その必要もない。
それに私も一応魔女ってことになっているんだし、みんなからしてみればそれを聞く理由がないわけじゃないし。
レイくんは私の返答に特に追求をしてこなかった。
はじめから聞けるとも思っていなかったのかもしれない。
「アゲハさんは、既に死を乗り越えたって言ってた。レイくんたちワルプルギスは、『魔女ウィルス』による死を克服する方法を知っているんでしょ?」
「転臨のことかな。まぁそういうことになるけれど。でもあんまりおすすめはできないなぁ」
優しく、まるで子供を諭すような口調でレイくんは言った。
眉を寄せて、少し困っているようにも見える。
「教えては、もらえないの?」
「うーん。僕としては、あんまり進んで教えてあげるようなものではないかな。でも、他でもないアリスちゃんの頼みだから、聞いてあげたい気持ちもあるし……」
レイくんは自らの顎に手を添えて考える素振りを見せた。
その仕草は少しわざとっぽくて、そう見せているのが見え見えだった。
伏せ目でそんなポーズをとって、やがて目をぱちっと開いた。
まるで名案が浮かんだとでもいうように、明るい顔をして私を見る。
その顔には機嫌の良さそうな満面の笑みが浮かべられていた。
私はなんとなく、嫌な予感がした。
「じゃあこうしよう。アリスちゃんが僕のお願いを聞いてくれたら、アリスちゃんのお願いも聞いてあげる」
「……お願いって?」
全くもって良い予感はしない。
レイくんの提案はきっと、私にとって碌でもないものだという気がしてならなかった。
でも仕方なく聞くしかなかった。
「僕にキスしてくれたら、アリスちゃんが聞きたいことを教えてあげるよ」
「キ、キス!?」
予想外の要求に、私はとっさにレイくんの手を振り払ってしまった。
いや、レイくんなんだからそれは予想できたことかもしれないけれど、いやでもなぁ。
私はてっきり、お姫様関係のこととか、そういう要求をされると思っていた。
まさかこんなストレートな欲求をぶつけられるなんて思ってもみなかった。
自分の顔が一瞬で赤くなったのを感じた。
「レ、レイくん。私、真面目な話してるんだけど……!」
「僕だって至って真面目だよ。僕はアリスちゃんとキスがしたい」
語気を強めて睨みつけながら言ってみるも、レイくんは気にせずにクールな声色で返してきた。
調子が狂っているのは私だけで、レイくんは完全に余裕な面持ちだった。
「なんでそんな……私なんかとキスしたって……」
「何を言っているさ。好きな女の子とキスがしたいなんて、当たり前のことじゃないか」
もう一周も二周も通り越してムカついてきた。
なんでこういう言葉を息を吸うように言うんだろうか。
別にときめいたりはしないけれど、何とも言えないもやもやが渦巻く。
とりあえずパンチの一つでも入れたい気分だった。
「もちろんフレンチなもので構わないよ。まぁ、僕としてはもっと濃厚なものでも大歓迎だけどね」
「なっ…………」
濃厚な、とは一体何を言ってるのか。
いや、それが意味することはわかってはいるけれど、でも私とレイくんが濃厚なそれを……。
ダメだ。頭がパンクしそうになる。
「しなきゃ、ダメなの?」
「ダメじゃないさ。けれどこれは取引だからね。してくれないと、僕もアリスちゃんの聞きたいことを教えてあげられないよ」
「……卑怯だ」
完全に弱みに付け込まれた。
何故私がそれを知りたいのか、その実をレイくんは知らないけれど、でもそれが私にとって大事なことだと見抜いているんだ。
だからこそレイくんはこんなことを言い出してくる。
でも実際問題、それだけのことで晴香が助かる糸口が掴めるのなら安いものかもしれない。
いや、女の子として唇を安売りするのは良くないとは思うけれど。
でも何がより大事かと言えば、私なんかのファーストキスより晴香の命だ。
そう考えれば、これは決して安いことではない。
レイくんとキスをする。
それでそのことを教えてもらえるのなら、私は……。
「わかったよ」
私が一歩踏み出すと、レイくんは少し驚いたように微笑んだ。
身を寄せる私の背中にそっと手を回して優しく包んでくる。
なんだか、とてもいけないことをするような気分になってきた。
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
美少女だらけの姫騎士学園に、俺だけ男。~神騎士LV99から始める強くてニューゲーム~
マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
ファンタジー
異世界💞推し活💞ファンタジー、開幕!
人気ソーシャルゲーム『ゴッド・オブ・ブレイビア』。
古参プレイヤー・加賀谷裕太(かがや・ゆうた)は、学校の階段を踏み外したと思ったら、なぜか大浴場にドボンし、ゲームに出てくるツンデレ美少女アリエッタ(俺の推し)の胸を鷲掴みしていた。
ふにょんっ♪
「ひあんっ!」
ふにょん♪ ふにょふにょん♪
「あんっ、んっ、ひゃん! って、いつまで胸を揉んでるのよこの変態!」
「ご、ごめん!」
「このっ、男子禁制の大浴場に忍び込むだけでなく、この私のむ、む、胸を! 胸を揉むだなんて!」
「ちょっと待って、俺も何が何だか分からなくて――」
「問答無用! もはやその行い、許し難し! かくなる上は、あなたに決闘を申し込むわ!」
ビシィッ!
どうやら俺はゲームの中に入り込んでしまったようで、ラッキースケベのせいでアリエッタと決闘することになってしまったのだが。
なんと俺は最高位職のLv99神騎士だったのだ!
この世界で俺は最強だ。
現実世界には未練もないし、俺はこの世界で推しの子アリエッタにリアル推し活をする!
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
よろしくお願いいたします。
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話
赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。
前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜
赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。
これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。
友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!
【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~
泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。
女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。
そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。
冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。
・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。
・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる