180 / 984
第4章 死が二人を分断つとも
18 赤裸々
しおりを挟む
二人で一緒に湯船に浸かる。
普通の一般家庭用の湯船だからそんなに大きくはないんだけれど、女の子二人で脚を曲げて向かい合えば入れないこともない。
水面の境が、晴香の丸い輪郭をなぞっている。
特に胸元の曲線をゆらゆらと描いている様は、羨望の眼差しを向けずにはいられなかった。
お湯に浸かっているだけなのに、この色気の差はいかがなものか。
「ねぇアリス、そっち行ってもいい?」
しばらくたわいもないお喋りをしていたら、晴香が不意にそう言った。
その意味するところがいまいちわからなかったけど、取り敢えずうんと頷いてみると、晴香はニコッと笑っておもむろに立ち上がった。
特に何を隠すこともなく、浴槽の縁に手をついて屈み気味に立ち上がるものだから、支えるものも遮るものもない胸が重力に伴って下を向いた。
それと共に見える無駄のない腰回りと、そこからなる大きすぎないお尻回り。そしてその先にはもちっと引き締まった太腿の隙間の奥が────
これはある種の暴力だ。
「よいしょっと」
私が幼馴染の裸体をまじまじと観察している間に、晴香はこちらに背を向けて、私の脚の間に挟まるように腰を落としてきた。
そういうことかと慌てて脚を広げて伸ばすと、狭い浴槽の中の狭い脚の間に晴香はすっぽりと収まって、その背中を私に預けてきた。
仕方ないから腕を回してやんわりと抱きしめてあげる。
もちもちとした感触とお湯の感触が相まって、晴香の抱き心地はだいぶ良かった。
ふわふわでとろとろだ。肌に吸い付くような感触を堪能するように、私は腕に少し力を入れて晴香の肩に顎を乗せた。
「…………」
しばらくは無言が続いた。
別に気まずさがあるわけでも恥じらいがあるわけでもない。
なんとなく、こうやって身を寄せ合ってそれに浸りたいと思っただけ。
晴香もきっと同じように思っているに違いなかった。
結局、ここまで晴香は特に話をしてこなかったな。
私に話があるはずなのに、切り出してくる気配がない。
私から聞いてもいいんだけれど、でもきっと晴香のペースの方がいいだろうし。
こういうのって難しい。気心知れた仲だけれど、でもやっぱりこういう時は気を使う。
今日はお泊まりだし、まだまだ話す機会はある。
晴香のタイミングで自分から話をしてくるまで待ってあげるのが一番かな。
今は、この呑気なひと時を楽しんでいればいいのかもしれない。
「ねぇアリス」
けれど、そんな私の気持ちを読んでいたかのように、晴香はいつもよりも少し暗めのトーンで口を開いた。
晴香のお腹の辺りで組む私の手に、そっと自らの手を乗せて。
肩に顎を預けたまま晴香の横顔を覗いてみれば、その面持ちには迷いが見えた。
「アリスに、話したいことがあるんだ」
「どうしたの? 何でも言ってごらん?」
眉を寄せておっかなびっくり口を動かす晴香に、私はわざと明るめに返した。
お風呂のせいで少し赤みが増した頰に反して、その瞳は弱々しかった。
「でも、アリス怒るかなって思って」
「え? 怒らないよ。多分」
「多分って、頼りないなぁ」
「だってまだ聞いてないもん。それとも、そんなに私を怒らせそうなことを告白するつもり?」
晴香は眉を寄せて困ったように笑う。
私は努めておどけて見せて、なるべく晴香が話しやすいように促した。
こうして裸の付き合いをしている時っていうのは色々話しやすくなるものだし、まさに赤裸々トークに持ってこいだ。
迷っているなら尚更、この機会を逃したらますます話しにくくなってしまう。
「うーん。多分怒るかなぁ。何でもっと早く言わなかったのって」
「そういう感じ? じゃあ先に怒っとく。何でもっと早く言わなかったの!?」
「ちょっとなにそれー」
ぎゅっと腕でその体を締め付けて語気を強めて言ってみると、晴香はケラケラと笑った。
それにつられて私も声を出して笑う。
「ほれほれ、早く言って楽になっちゃいなよ。何でも聞くよ?」
「うん。そうだね……」
ひとしきり笑ってから私が改めて促すと、晴香は静かに頷いた。
私の両手に被さるように手を重ねて、指を絡めてぎゅっと握ってくる。
その手は確実に震えていた。私の手を握っていても、その震えは収まっていない。
私は顎を乗せたまま晴香の顔に改めて目を向けた。
その表情には不安の色が差している。
赤く火照っていた頰からは赤みが抜け、どこか白みがかっている。
ぷくっとした唇をゆるく噛み締めた口元は、微かに戦慄いていた。
私は抱きしめることしか出来なくて、ただただその腕に力を込めた。
私の手を覆うその手の指の絡まりをしっかりと捕らえながら、それでいて晴香の身体を強く包む。
今は、これしか出来なかった。
少しの間迷うように口をパクパクさせて、けれど意を決したのかその瞳の揺れは止まった。
「アリス、私ね────」
ぴちゃんと水滴の垂れる小さな音以外ここにはない。
弱々しくも意思を固めた晴香の声だけが、この狭い浴室に響いた。
「私多分……近いうちに、死んじゃうんだ」
普通の一般家庭用の湯船だからそんなに大きくはないんだけれど、女の子二人で脚を曲げて向かい合えば入れないこともない。
水面の境が、晴香の丸い輪郭をなぞっている。
特に胸元の曲線をゆらゆらと描いている様は、羨望の眼差しを向けずにはいられなかった。
お湯に浸かっているだけなのに、この色気の差はいかがなものか。
「ねぇアリス、そっち行ってもいい?」
しばらくたわいもないお喋りをしていたら、晴香が不意にそう言った。
その意味するところがいまいちわからなかったけど、取り敢えずうんと頷いてみると、晴香はニコッと笑っておもむろに立ち上がった。
特に何を隠すこともなく、浴槽の縁に手をついて屈み気味に立ち上がるものだから、支えるものも遮るものもない胸が重力に伴って下を向いた。
それと共に見える無駄のない腰回りと、そこからなる大きすぎないお尻回り。そしてその先にはもちっと引き締まった太腿の隙間の奥が────
これはある種の暴力だ。
「よいしょっと」
私が幼馴染の裸体をまじまじと観察している間に、晴香はこちらに背を向けて、私の脚の間に挟まるように腰を落としてきた。
そういうことかと慌てて脚を広げて伸ばすと、狭い浴槽の中の狭い脚の間に晴香はすっぽりと収まって、その背中を私に預けてきた。
仕方ないから腕を回してやんわりと抱きしめてあげる。
もちもちとした感触とお湯の感触が相まって、晴香の抱き心地はだいぶ良かった。
ふわふわでとろとろだ。肌に吸い付くような感触を堪能するように、私は腕に少し力を入れて晴香の肩に顎を乗せた。
「…………」
しばらくは無言が続いた。
別に気まずさがあるわけでも恥じらいがあるわけでもない。
なんとなく、こうやって身を寄せ合ってそれに浸りたいと思っただけ。
晴香もきっと同じように思っているに違いなかった。
結局、ここまで晴香は特に話をしてこなかったな。
私に話があるはずなのに、切り出してくる気配がない。
私から聞いてもいいんだけれど、でもきっと晴香のペースの方がいいだろうし。
こういうのって難しい。気心知れた仲だけれど、でもやっぱりこういう時は気を使う。
今日はお泊まりだし、まだまだ話す機会はある。
晴香のタイミングで自分から話をしてくるまで待ってあげるのが一番かな。
今は、この呑気なひと時を楽しんでいればいいのかもしれない。
「ねぇアリス」
けれど、そんな私の気持ちを読んでいたかのように、晴香はいつもよりも少し暗めのトーンで口を開いた。
晴香のお腹の辺りで組む私の手に、そっと自らの手を乗せて。
肩に顎を預けたまま晴香の横顔を覗いてみれば、その面持ちには迷いが見えた。
「アリスに、話したいことがあるんだ」
「どうしたの? 何でも言ってごらん?」
眉を寄せておっかなびっくり口を動かす晴香に、私はわざと明るめに返した。
お風呂のせいで少し赤みが増した頰に反して、その瞳は弱々しかった。
「でも、アリス怒るかなって思って」
「え? 怒らないよ。多分」
「多分って、頼りないなぁ」
「だってまだ聞いてないもん。それとも、そんなに私を怒らせそうなことを告白するつもり?」
晴香は眉を寄せて困ったように笑う。
私は努めておどけて見せて、なるべく晴香が話しやすいように促した。
こうして裸の付き合いをしている時っていうのは色々話しやすくなるものだし、まさに赤裸々トークに持ってこいだ。
迷っているなら尚更、この機会を逃したらますます話しにくくなってしまう。
「うーん。多分怒るかなぁ。何でもっと早く言わなかったのって」
「そういう感じ? じゃあ先に怒っとく。何でもっと早く言わなかったの!?」
「ちょっとなにそれー」
ぎゅっと腕でその体を締め付けて語気を強めて言ってみると、晴香はケラケラと笑った。
それにつられて私も声を出して笑う。
「ほれほれ、早く言って楽になっちゃいなよ。何でも聞くよ?」
「うん。そうだね……」
ひとしきり笑ってから私が改めて促すと、晴香は静かに頷いた。
私の両手に被さるように手を重ねて、指を絡めてぎゅっと握ってくる。
その手は確実に震えていた。私の手を握っていても、その震えは収まっていない。
私は顎を乗せたまま晴香の顔に改めて目を向けた。
その表情には不安の色が差している。
赤く火照っていた頰からは赤みが抜け、どこか白みがかっている。
ぷくっとした唇をゆるく噛み締めた口元は、微かに戦慄いていた。
私は抱きしめることしか出来なくて、ただただその腕に力を込めた。
私の手を覆うその手の指の絡まりをしっかりと捕らえながら、それでいて晴香の身体を強く包む。
今は、これしか出来なかった。
少しの間迷うように口をパクパクさせて、けれど意を決したのかその瞳の揺れは止まった。
「アリス、私ね────」
ぴちゃんと水滴の垂れる小さな音以外ここにはない。
弱々しくも意思を固めた晴香の声だけが、この狭い浴室に響いた。
「私多分……近いうちに、死んじゃうんだ」
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
美少女だらけの姫騎士学園に、俺だけ男。~神騎士LV99から始める強くてニューゲーム~
マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
ファンタジー
異世界💞推し活💞ファンタジー、開幕!
人気ソーシャルゲーム『ゴッド・オブ・ブレイビア』。
古参プレイヤー・加賀谷裕太(かがや・ゆうた)は、学校の階段を踏み外したと思ったら、なぜか大浴場にドボンし、ゲームに出てくるツンデレ美少女アリエッタ(俺の推し)の胸を鷲掴みしていた。
ふにょんっ♪
「ひあんっ!」
ふにょん♪ ふにょふにょん♪
「あんっ、んっ、ひゃん! って、いつまで胸を揉んでるのよこの変態!」
「ご、ごめん!」
「このっ、男子禁制の大浴場に忍び込むだけでなく、この私のむ、む、胸を! 胸を揉むだなんて!」
「ちょっと待って、俺も何が何だか分からなくて――」
「問答無用! もはやその行い、許し難し! かくなる上は、あなたに決闘を申し込むわ!」
ビシィッ!
どうやら俺はゲームの中に入り込んでしまったようで、ラッキースケベのせいでアリエッタと決闘することになってしまったのだが。
なんと俺は最高位職のLv99神騎士だったのだ!
この世界で俺は最強だ。
現実世界には未練もないし、俺はこの世界で推しの子アリエッタにリアル推し活をする!
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話
赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。
前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜
赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。
これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。
友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!
【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~
泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。
女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。
そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。
冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。
・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。
・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる