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第4章 死が二人を分断つとも

17 泡まみれ

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 お風呂を沸かして、晴香に連れられるまま脱衣所にやってきた。
 するすると服を脱いでいく晴香に、何だか気後れしてしまう。

 別に女同士だし色々と今更だから、裸になることに抵抗があるわけじゃないけれど。
 でもなんというか、晴香の方が女の子っぽい体格をしているから。
 それを見せつけられると、自分の身体はまだまだ子供っぽい気がする。

 だからといっていつまでも突っ立ってるわけにもいかなくて、私もおずおずと服を脱いだ。
 いざ晴香を目の前にして肌を晒してみると、恥ずかしくないはずなのに、でもちょっぴり恥ずかしかった。

 晴香の丸みを帯びた膨らみと、程よい引き締まりを前に、私の平坦な身体を晒すのは少し勇気が必要だった。
 でも私がそんなことを気にしているなんて知るよしもない晴香は、私が服を脱ぎ切ったことを確認すると、私の手を引いて浴室へと連れ込んだ。

「さーて、私のアリスの発育はどうかなぁ?」

 私をぐいっと椅子に座らせた途端、晴香は不敵にそう言うと、後ろからガバッと手を伸ばしてきておもむろに私の胸を鷲掴みにした。
 あまりの不意打ちに私は思わず変な声を出してしまった。

「ほほう。これはなかなか。私の知らない間にこんなに成長してるなんて」
「ちょっと晴香! なにすんの……!」

 後ろから抱きつくようにして私を押さえつけて、晴香は手を這わせてくる。
 そんなに大きくない私の胸は、晴香の手のひらに包まれてふわふわと弄ばれる。
 晴香の手が私の肌に張り付くように馴染む感触が妙にこそばゆかった。

「もうやめてよ。変なことするなら私出るからね!」
「ごめんごめん。なかなかない機会だからさぁ、アリスのこと知りたいなぁと思ってぇ」

 私が手を振り払って嗜めると、晴香はえへへと笑って私の肩に顎を乗せた。
 胸から放した手を私のお腹の辺りで組む。

「私のことならもう十分過ぎるくらい知ってるでしょ? もう何年の付き合いだと思ってるの?」
「そういうこと言ってるんじゃないんだけどなぁ。もう、アリスは鈍感だなぁ」

 意地悪く笑いながら、今度は私のお臍の辺りをさわりと撫でてくる。
 晴香の細い指先が、お臍の辺りからウエストをなぞるようにすぅーっと伝う。
 後ろから抱きつかれているせいか、まるで絡みつかれているような気分になった。

 触れるか触れないかの瀬戸際で、まるで繊細なものを転がすように晴香の指先が私を弄ぶ。
 肋骨を沿って撫で上げる指が脇の下を伝って、曲線を描くようにまたゆっくりと胸の縁をなぞった。

「アリスのこと、もっと教えて」

 耳元で囁かれる。暖かい吐息とその声は脳をとろかそうとしているようだった。
 ただそれだけのことなのに、まるで甘露な言葉を囁かれたかのように頭がポッとした。
 晴香の淡い声と甘い吐息。弱い力で肌を這う指先。
 なんだか、妙な気分になりそうだった。

 けれど頭をぶるりと振ってボヤけた思考を覚醒させる。
 私はさっと腕を伸ばして蛇口をひねった。
 壁にかけられてるシャワーからまだ冷たい水が私もろとも晴香に降り注いだ。

 晴香は悲鳴をあげて飛び退いた。
 反撃に成功したことにほくそ笑みながら、私はシャワーを弱めて振り返る。
 晴香はちぇっとつまらなそうに口を尖らせていた。

「悪い子にはお仕置きが必要だよね?」
「えーっと、一応私病み上がりなんだけどなぁ~」

 シャワーという武器を手にした私に、形勢が不利だと判断した晴香は頰を掻きながら言った。
 けれど、そんなことで見逃すわけもなく、私は強気に出ることにした。

「もう一度冷たいシャワーを浴びるか、お仕置きを受けるかの二つに一つだよ」
「もうわかったよー。降参しまーす」

 観念した晴香は私の促すままに交代で椅子に座った。今度は私が後ろに回る。
 今の私のシャワー攻撃で少し水を含んだ長い栗毛を、簡単に結わいて髪を上げてあげる。
 それによって露わになったうなじが、なんともいえず扇情的だった。

 すっと通った綺麗な首筋と、そこからなる白い肩と背中は、こうして後ろから見ていると思わず抱きしめてしまいそうになるほどに色っぽい。
 私がもし吸血鬼だったとしたら、この細い首筋にかぶりつきたくて堪らなかったかもしれない。

 ボディーソープを手に出して泡立ててから、私もさっきの晴香を真似て後ろから手を回した。
 まるで抱きしめるように腕を回して、泡のついた手で晴香の形のはっきりした胸を押しつけるように撫でた。
 私のものとは違って、晴香の胸は私の手が力を与える通りにその形を歪め、程よく指を沈みこませる。
 ぬるっとトロンと、でもふんわりと、柔い感触になんとも言えない心地良さを感じていると、晴香も僅かに身をよじった。

「ねぇ、アリスの方がよっぽどやらしくない?」
「そう? 私は身体を洗ってあげてるだけだよ?」

 体に力を入れて非難の声を上げる晴香を無視して、私はその体に泡を擦り付けた。
 私の胸と違って押すと跳ね返す弾力と質量がある。
 その形をなぞるように手を這わせて下の方を包むようにすると、手に乗ってほのかな重みを感じさせた。
 これは、私じゃできないんですけど。

 私だって別に、特別無いわけじゃないのに。平均だ。
 晴香だって平均より少しあるくらいで、特別大きいわけじゃない。
 でもこうやって直に触れてみると、私なんかよりもよっぽど存在感があった。

 すべすべとした肌にボディーソープのぬるぬるが相まって、形がありつつも柔らかな晴香の胸はとろとろと揺蕩たゆたう。
 自分にも同じものが付いているはずなのに、これが本当に人の柔らかさなのかと疑ってしまう自分がいた。
 挟むように押しても支えるように持ち上げても、するんと手から溢れていってしまうほどに柔軟性に富んでいる。
 その感触を楽しむ反面、少なからず嫉妬があることは否定できない。

 それからしばらく時間をかけて、私はボディーソープの泡を晴香の身体にくまなく塗りたくった。
 別に晴香の身体を舐め回すように触りたかったわけじゃなくて、飽くまで洗ってあげただけ。
 程よくきゅっと引き締まった腰回りとか、白く張りのある太腿とか。晴香がもがく所を特に丁寧に洗ったのは事実だけれど。

 こうしていると、晴香が私にそうした気持ちが少しわかってしまうけれど、飽くまでこれは仕返しのお仕置きだから。
 身体を洗うという名目で、目一杯晴香の身体を撫で回してあげた。

 後ろから手を回している私も、いつのまにか泡まみれになっていた。
 最後の方は晴香も反撃してきて、二人で泡だらけになってお互いを触り合う、というカオスな状況になってしまった。

 体を洗い合っているのか取っ組み合っているのかわからないほどにもつれ合って、何だかお風呂に入っているのに疲れてしまって。
 適当な所で飽きた私たちは、その後仲良く温かいシャワーで泡を流した。
 高校生にもなって何をやっているんだ私たちは。
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