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第3章 オード・トゥ・フレンドシップ
31 面倒臭い性格
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千鳥ちゃんの真似をして、私も体育座りをしてみる。
そんな私を横目でチラリと流し見ながら、千鳥ちゃんはしばらく黙っていた。
話相手になれと言ってみたものの話題がなかったのか、それとも話の切り出し方を迷っているのか。
別に気まずくはないけれど、しばらく静かな時間が流れる。
こっちから何か話題を振ったほうがいいかなと思い始めた頃、ようやく千鳥ちゃんが口を開いた。
「それにしてもアンタ、厄介なもの連れ込んできたわね」
「ごめん。迷惑だよね」
「別にそういうわけじゃないわ。ただなんていうか、普通の魔女じゃ考えられないっていうか……」
何とも歯切れの悪い言い方をする千鳥ちゃん。
確かに、私たちはカルマちゃんがいつ襲いかかってくるかわからない、というトラブルを抱えてきてしまった。他人からしてみれば迷惑以外の何物でもない。
でも千鳥ちゃんが言いたのはそこじゃないのかな。
「魔女は助け合うものって教わったから、ついつい甘えちゃったよ」
「まぁそれは間違ってないけどさ。魔女同士なら」
千鳥ちゃんは膝を抱えたまま難しい顔をする。
伝えたいことがうまく言葉にできないのかもしれない。
私も汲み取ってあげられたらいいんだけれど、千鳥ちゃんが言わんとしていることがわからなかった。
「まぁいいわよ。みんなアンタだからこそ何も言わないだろうし。私が口出すことじゃないもん」
「よくわかんないけど、なんかごめんね」
「何でアンタが謝んのよ」
「だってそれは千鳥ちゃんが……」
理由もわからず謝ったって仕方がないことくらいはわかっているけれど、でもごめんと言葉は出てしまう。
私が常にみんなに迷惑をかけているのは事実だし。何が厄介ごとだと思われても仕方ない。
少ししょぼんとすると、そんな私を見て千鳥ちゃんはクスリと笑った。
「アンタって変わってる」
「え、そうかな? 千鳥ちゃんの方が変わってるよ」
「……アンタ、案外発言に躊躇いがないわね」
千鳥ちゃんがブスッと口を尖らせる。
あんなに単純でチョロい子はそうそういないし、千鳥ちゃんは十分変わっていると思うんだけど。
「そうやってすぐ友達作ってさ、面倒ごとに巻き込まれて。私からしてみたらアンタだって十分変わってる。私は他人に関わろうなんて……思わないから」
「でも、千鳥ちゃんも私の友達でしょ?」
「は、はぁ!? いつ、どこでどうして私がアンタの友達になったのよ!?」
ガバッと顔を上げて身を乗り出す千鳥ちゃん。
私そんなに変なこと言ったつもりはないんだけれど。
「だって千鳥ちゃん、困った時は頼っていいっって前に言ってくれたよ? それにこうして今お喋りしてる。昨日の昼間は一緒にかき氷食べたしね」
「それは……そんなこともあったけど。でもそれだけで友達って呼べるの? 私はアンタのこと何にも知らないし、アンタも私のこと何にも知らないのに」
「うん。だからこれからもっと知りたいんだ。千鳥ちゃんのこと」
「…………!」
千鳥ちゃんの顔が茹で蛸のように真っ赤になった。それはもう、見ていて面白いくらいの赤くなり方だった。
瞬間的にそっぽを向いて、おまけに膝に顔を埋めてしまった。
「何で私なんか……」
「だって知り合ったし、同じ魔女だし、同じ夜子さんのお世話になったもの同士だし……うーん。理由をあげたら数えきれないけど。でも友達にならない理由は一つもないでしょ?」
「友達に、ならない理由……?」
「そ。別に敵対しているわけでもお互いのことが嫌いなわけでもない。友達になる理由はいっぱいあっても、ならない理由一つもない。なら、私たちは友達でいいんじゃないかな」
「……なにそれ。意味わかんない」
拗ねるように呟く千鳥ちゃん。
やっぱり千鳥ちゃんはこういうことに慣れていないんだ。
私にとっては何気ないことでも、千鳥ちゃんにとってはとても不慣れで、どうしていいのかわからないことなのかもしれない。
「私なんて友達になっても何の得もないわよ」
「どうして?」
「だって……私は別に何の取り柄もないし、面倒ごとは嫌いだし、自分のことしか考えられないし。私には何にもないから。友達にしてあげられることなんてない。私と友達になったって、いいことなんてないわよ」
「まぁ確かに、千鳥ちゃんは意地っ張りで強気でプライド高くて、そのくせすぐに言いくるめられちゃって、控えめに言っても面倒臭い性格してるよねー」
「アンタ喧嘩売ってんの!?」
ベシッと肩を殴られる。でも全く痛くはなくて、笑いながらごめんと謝る。
千鳥ちゃんは、怒っているような泣きそうなような顔で私を睨んでいた。
「でも私は、そんな千鳥ちゃんのこと嫌いじゃないよ」
「どうせフォローするなら好きって言いなさいよ」
「だってまだ、千鳥ちゃんのこと全然知らないんだもーん」
千鳥ちゃんは呆れたような顔で笑みを浮かべた。
「だからさ、私に好きになって欲しかったら、もっと千鳥ちゃんのこともっと教えてもらわないと」
「アンタ言ってることめちゃくちゃなんだけど」
「だって誰かさんいわく、私変わってるから」
「うっさいばか」
「いたーい」
弱々しいパンチに大げさにリアクションする。
そんな私を見て千鳥ちゃんはまた笑った。
「仕方ないわねぇ。そこまで言うなら、アンタに友達って呼ばれてあげる」
「千鳥ちゃんは私のこと友達って呼んでくれないの?」
「……別にいいけど」
「わーい」
またもや大げさにリアクションしてみると、千鳥ちゃんは恥ずかしそうにまたそっぽを向いてしまった。
ホント、千鳥ちゃんはチョロいなぁ。これくらいのことで喜んでくれるのならいくらでもしてあげるよ。
「友達友達って、そんなに友達大事?」
「友達は大事だよ。一緒にいて楽しいし、辛い時は力を合わせることができる。友達はとっても心強いよ」
「私はアンタの力になれるとは限らないわよ」
「そうしたら私が千鳥ちゃんの力になるよ」
「ああ言えばこう言うわねアンタは」
千鳥ちゃんは呆れたように肩をすくめた。
でもその顔はとても嬉しそうだった。もしかしたら千鳥ちゃんには、本当に友達と呼べる人がほとんどいなかったのかもしれない。
「そんなこと言われたら、もしもの時私だけ逃げるわけにいかないじゃない」
「お、千鳥ちゃんもしもの時は私を助けてくれるつもりなんだ。優しいね」
「うっさい! 面倒事はお断りなんだからね。私はね、アンタと違って自分が一番大事なの!」
そう言いつつも、本当にもしもの時は助けてくれるつもりなんだろうなというのは伝わってきた。
面倒ごとを嫌って自分の保身を第一に考える、案外臆病なところのある千鳥ちゃん。
そんな千鳥ちゃんがそう思ってくれているということは、少しは心を開いてくれたってことなのかな。
強気で意地っ張りでプライドの高かい千鳥ちゃんだけれど、それでも優しいところがあるのはわかっている。
何だかんだ力を貸してくれるのは、もちろんチョロかったり夜子さんの命令だっていうのもあるだろうけれど、そこに優しさがあるからだ。
臆病で保身的で内向的なその殻を少しでも破ることができたのなら、魔女という同じ境遇に生きる同士、これからも助け合っていけるかもしれない。
もちろん、友達として。
そんな私を横目でチラリと流し見ながら、千鳥ちゃんはしばらく黙っていた。
話相手になれと言ってみたものの話題がなかったのか、それとも話の切り出し方を迷っているのか。
別に気まずくはないけれど、しばらく静かな時間が流れる。
こっちから何か話題を振ったほうがいいかなと思い始めた頃、ようやく千鳥ちゃんが口を開いた。
「それにしてもアンタ、厄介なもの連れ込んできたわね」
「ごめん。迷惑だよね」
「別にそういうわけじゃないわ。ただなんていうか、普通の魔女じゃ考えられないっていうか……」
何とも歯切れの悪い言い方をする千鳥ちゃん。
確かに、私たちはカルマちゃんがいつ襲いかかってくるかわからない、というトラブルを抱えてきてしまった。他人からしてみれば迷惑以外の何物でもない。
でも千鳥ちゃんが言いたのはそこじゃないのかな。
「魔女は助け合うものって教わったから、ついつい甘えちゃったよ」
「まぁそれは間違ってないけどさ。魔女同士なら」
千鳥ちゃんは膝を抱えたまま難しい顔をする。
伝えたいことがうまく言葉にできないのかもしれない。
私も汲み取ってあげられたらいいんだけれど、千鳥ちゃんが言わんとしていることがわからなかった。
「まぁいいわよ。みんなアンタだからこそ何も言わないだろうし。私が口出すことじゃないもん」
「よくわかんないけど、なんかごめんね」
「何でアンタが謝んのよ」
「だってそれは千鳥ちゃんが……」
理由もわからず謝ったって仕方がないことくらいはわかっているけれど、でもごめんと言葉は出てしまう。
私が常にみんなに迷惑をかけているのは事実だし。何が厄介ごとだと思われても仕方ない。
少ししょぼんとすると、そんな私を見て千鳥ちゃんはクスリと笑った。
「アンタって変わってる」
「え、そうかな? 千鳥ちゃんの方が変わってるよ」
「……アンタ、案外発言に躊躇いがないわね」
千鳥ちゃんがブスッと口を尖らせる。
あんなに単純でチョロい子はそうそういないし、千鳥ちゃんは十分変わっていると思うんだけど。
「そうやってすぐ友達作ってさ、面倒ごとに巻き込まれて。私からしてみたらアンタだって十分変わってる。私は他人に関わろうなんて……思わないから」
「でも、千鳥ちゃんも私の友達でしょ?」
「は、はぁ!? いつ、どこでどうして私がアンタの友達になったのよ!?」
ガバッと顔を上げて身を乗り出す千鳥ちゃん。
私そんなに変なこと言ったつもりはないんだけれど。
「だって千鳥ちゃん、困った時は頼っていいっって前に言ってくれたよ? それにこうして今お喋りしてる。昨日の昼間は一緒にかき氷食べたしね」
「それは……そんなこともあったけど。でもそれだけで友達って呼べるの? 私はアンタのこと何にも知らないし、アンタも私のこと何にも知らないのに」
「うん。だからこれからもっと知りたいんだ。千鳥ちゃんのこと」
「…………!」
千鳥ちゃんの顔が茹で蛸のように真っ赤になった。それはもう、見ていて面白いくらいの赤くなり方だった。
瞬間的にそっぽを向いて、おまけに膝に顔を埋めてしまった。
「何で私なんか……」
「だって知り合ったし、同じ魔女だし、同じ夜子さんのお世話になったもの同士だし……うーん。理由をあげたら数えきれないけど。でも友達にならない理由は一つもないでしょ?」
「友達に、ならない理由……?」
「そ。別に敵対しているわけでもお互いのことが嫌いなわけでもない。友達になる理由はいっぱいあっても、ならない理由一つもない。なら、私たちは友達でいいんじゃないかな」
「……なにそれ。意味わかんない」
拗ねるように呟く千鳥ちゃん。
やっぱり千鳥ちゃんはこういうことに慣れていないんだ。
私にとっては何気ないことでも、千鳥ちゃんにとってはとても不慣れで、どうしていいのかわからないことなのかもしれない。
「私なんて友達になっても何の得もないわよ」
「どうして?」
「だって……私は別に何の取り柄もないし、面倒ごとは嫌いだし、自分のことしか考えられないし。私には何にもないから。友達にしてあげられることなんてない。私と友達になったって、いいことなんてないわよ」
「まぁ確かに、千鳥ちゃんは意地っ張りで強気でプライド高くて、そのくせすぐに言いくるめられちゃって、控えめに言っても面倒臭い性格してるよねー」
「アンタ喧嘩売ってんの!?」
ベシッと肩を殴られる。でも全く痛くはなくて、笑いながらごめんと謝る。
千鳥ちゃんは、怒っているような泣きそうなような顔で私を睨んでいた。
「でも私は、そんな千鳥ちゃんのこと嫌いじゃないよ」
「どうせフォローするなら好きって言いなさいよ」
「だってまだ、千鳥ちゃんのこと全然知らないんだもーん」
千鳥ちゃんは呆れたような顔で笑みを浮かべた。
「だからさ、私に好きになって欲しかったら、もっと千鳥ちゃんのこともっと教えてもらわないと」
「アンタ言ってることめちゃくちゃなんだけど」
「だって誰かさんいわく、私変わってるから」
「うっさいばか」
「いたーい」
弱々しいパンチに大げさにリアクションする。
そんな私を見て千鳥ちゃんはまた笑った。
「仕方ないわねぇ。そこまで言うなら、アンタに友達って呼ばれてあげる」
「千鳥ちゃんは私のこと友達って呼んでくれないの?」
「……別にいいけど」
「わーい」
またもや大げさにリアクションしてみると、千鳥ちゃんは恥ずかしそうにまたそっぽを向いてしまった。
ホント、千鳥ちゃんはチョロいなぁ。これくらいのことで喜んでくれるのならいくらでもしてあげるよ。
「友達友達って、そんなに友達大事?」
「友達は大事だよ。一緒にいて楽しいし、辛い時は力を合わせることができる。友達はとっても心強いよ」
「私はアンタの力になれるとは限らないわよ」
「そうしたら私が千鳥ちゃんの力になるよ」
「ああ言えばこう言うわねアンタは」
千鳥ちゃんは呆れたように肩をすくめた。
でもその顔はとても嬉しそうだった。もしかしたら千鳥ちゃんには、本当に友達と呼べる人がほとんどいなかったのかもしれない。
「そんなこと言われたら、もしもの時私だけ逃げるわけにいかないじゃない」
「お、千鳥ちゃんもしもの時は私を助けてくれるつもりなんだ。優しいね」
「うっさい! 面倒事はお断りなんだからね。私はね、アンタと違って自分が一番大事なの!」
そう言いつつも、本当にもしもの時は助けてくれるつもりなんだろうなというのは伝わってきた。
面倒ごとを嫌って自分の保身を第一に考える、案外臆病なところのある千鳥ちゃん。
そんな千鳥ちゃんがそう思ってくれているということは、少しは心を開いてくれたってことなのかな。
強気で意地っ張りでプライドの高かい千鳥ちゃんだけれど、それでも優しいところがあるのはわかっている。
何だかんだ力を貸してくれるのは、もちろんチョロかったり夜子さんの命令だっていうのもあるだろうけれど、そこに優しさがあるからだ。
臆病で保身的で内向的なその殻を少しでも破ることができたのなら、魔女という同じ境遇に生きる同士、これからも助け合っていけるかもしれない。
もちろん、友達として。
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