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第2章 正しさの在り方
47 冷徹な選択
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空から突如として、ドールが滝のように流れてきた。それはD7が使う量産タイプのドール。
それが一面に溢れかえるほど現れたかと思うと、わらわらと集まって大きな塊を造った。
ドールとドールが重なり合い、混じり合い、その塊は大きの人の形を象る。
高く高くそびえ立つ。ドールが折り重なった、ドールの塊による巨大な人形。
五メートル近くはあろう巨大なドール。それを象るドール一つひとつが蠢きひしめき合う醜悪な巨人。
私を見下ろすようにそびえるドールの巨人。
触れられただけで潰されてしまいそうな圧倒的質量。
けれど、それが魔法の産物であるのなら、私の剣の前には何の意味もなさなかった。
ただ一振り。それだけでよかった。
力の限り振り下ろした一刀が、ドールの巨人を一瞬で切り裂く。
魔法によって形を成していたドールは、その一撃の元に呆気なく崩れ去る。
それはもう戦いではなくて。私たちはただその結果を目にしただけだった。
「……やっぱりな」
消え去るドールを見つめながらD7は力なく膝をついた。
まるでこの結末を知っていたかのように。
「アンタがその剣を取り出した時から、こうなることはわかってたさ。アンタがお姫様の力を使えば、俺なんか相手にもならねぇ。それなのに俺は、クリスティーンを止めなかった。止められなかった。それがいけなかったんだ」
止められなかった。止めたかったのに止められなかった。
戦わないわけにはいかなかったD7は、負け戦だとわかっていても、クリスティーンを止めて戦いから逃れることはできなかった。
「俺の負けだ。はじめから負けてたんだ。その上クリスティーンはいなくなって、力も及ばない。完全に俺の負けだ。さっさと殺せ」
「殺さないよ……」
私の言葉にD7は顔を歪めて見上げた。
そして私の顔をまじまじと見つめたから、呆れたように笑った。
「だよな。アンタに人が殺せるとは思えない。相手が誰であろうとな。アンタは優しいお姫様だから。でもよ……」
D7はわざとらしくあからさまに、醜悪な笑みを浮かべて私の目を見て言った。
「俺を殺さねぇってことは、アンタの大事なお友達を見殺しにするってことだぜ? 俺を見逃してみろ。俺はまた舞い戻って、アンタとアンタのお友達を絶対に殺してやる。俺は魔女狩りだ。何度だってやってきて、アンタら魔女を殺してやるさ! つまりアンタが俺を殺さなきゃ、これから死ぬ奴はみんなアンタのせいで死ぬってことだ!」
「やめて!」
耳を塞ぎたくなるような言葉に、私は叫んだ。
それでもD7は一層表情を歪めて言葉を続ける。まるで私の心を乱すように。
「一時の迷いが、一時の優しさが、アンタの大切なものを全て奪うぞ。甘ったれた考えは捨てろ! アンタは今やただの魔女。お姫様ごっこは終わったんだよ。もう生きるか死ぬかの世界なんだ! 守りたいものがあるなら、その手で何かを奪う覚悟をしろ!」
「いやだ! 私はそんなこと────」
そう言いかけて気が付いた。私はもうすでに奪っている。人の大切なものを奪っている。
我が身可愛さに、友達を守るためにと奪っている。
D7からクリスティーンを奪ったのは、私だ。
彼が正しくなかったとしても、彼が大切にしているものを一方的に奪ったのは私だ。
「もうアンタも後には引けねぇだろ。覚悟を決めろ。戦うと決めたなら、何かを奪う覚悟をな!」
「でも……でも……!」
「早くしろ! 早く殺せ! 迷えば誰かが死ぬぞ! 躊躇えば何かを失うぞ! アンタの弱さが誰かを殺すぞ!」
剣を握る手が震える。
私が守りたいもの。私が優先するもの。そのために私がしなければならない選択。
何を守り、何のために戦うのか。何かを守るためには、時に何かを犠牲にしなければいけないのか。
「殺せ! 殺せよ! お友達が死んでもいいのか!」
心がぐしゃぐしゃになる。何が正しいのかわからない。
友達を傷付けたくない。守りたい。生きていてほしい。そのためには────
「その剣で俺を切り殺せ! 今殺さなきゃ、俺がお前の大切な人間を全員ぶっ殺してやる!!!」
何が正しいのか、もうわからなくなっていた。
ただD7に煽られるがまま、恐怖が心に渦巻いていく。
友達を失う恐怖。友達が傷付く恐怖。自分の弱さが誰かを傷つけてしまうかもしれない恐怖。
そんなものが渦巻いて、それを否定したくなった。
私の勇気が、私の決断が友達を救うことができるのなら。
私がそれをすることで、少しでもみんなを危険から遠ざけることができるのなら。
私はここで、この剣を振り下ろすべきなのかもしれない。
「ぁぁぁああああああああああ!!!!!」
細いことを考える余裕はなくて、ただ必死だった。友達を守りたいって。
今ここでこの人を倒さないと、きっと沢山の魔女が苦しむことになるんだって、そう自分に言い聞かせて。
D7の口車に乗っているだけかもしれないと頭の片隅では思いながらも、私は友達を守りたい一心で剣を振り下ろした。
満足そうな笑みを浮かべるD7。
純白の剣が、今まさに彼を切り裂かんする。
────そう、思った瞬間。
はためくドレス。なびく髪。煌びやかな姿が私たちの間に飛び込んできて。
クリスティーンが、私の剣をその一身に受けた。
それが一面に溢れかえるほど現れたかと思うと、わらわらと集まって大きな塊を造った。
ドールとドールが重なり合い、混じり合い、その塊は大きの人の形を象る。
高く高くそびえ立つ。ドールが折り重なった、ドールの塊による巨大な人形。
五メートル近くはあろう巨大なドール。それを象るドール一つひとつが蠢きひしめき合う醜悪な巨人。
私を見下ろすようにそびえるドールの巨人。
触れられただけで潰されてしまいそうな圧倒的質量。
けれど、それが魔法の産物であるのなら、私の剣の前には何の意味もなさなかった。
ただ一振り。それだけでよかった。
力の限り振り下ろした一刀が、ドールの巨人を一瞬で切り裂く。
魔法によって形を成していたドールは、その一撃の元に呆気なく崩れ去る。
それはもう戦いではなくて。私たちはただその結果を目にしただけだった。
「……やっぱりな」
消え去るドールを見つめながらD7は力なく膝をついた。
まるでこの結末を知っていたかのように。
「アンタがその剣を取り出した時から、こうなることはわかってたさ。アンタがお姫様の力を使えば、俺なんか相手にもならねぇ。それなのに俺は、クリスティーンを止めなかった。止められなかった。それがいけなかったんだ」
止められなかった。止めたかったのに止められなかった。
戦わないわけにはいかなかったD7は、負け戦だとわかっていても、クリスティーンを止めて戦いから逃れることはできなかった。
「俺の負けだ。はじめから負けてたんだ。その上クリスティーンはいなくなって、力も及ばない。完全に俺の負けだ。さっさと殺せ」
「殺さないよ……」
私の言葉にD7は顔を歪めて見上げた。
そして私の顔をまじまじと見つめたから、呆れたように笑った。
「だよな。アンタに人が殺せるとは思えない。相手が誰であろうとな。アンタは優しいお姫様だから。でもよ……」
D7はわざとらしくあからさまに、醜悪な笑みを浮かべて私の目を見て言った。
「俺を殺さねぇってことは、アンタの大事なお友達を見殺しにするってことだぜ? 俺を見逃してみろ。俺はまた舞い戻って、アンタとアンタのお友達を絶対に殺してやる。俺は魔女狩りだ。何度だってやってきて、アンタら魔女を殺してやるさ! つまりアンタが俺を殺さなきゃ、これから死ぬ奴はみんなアンタのせいで死ぬってことだ!」
「やめて!」
耳を塞ぎたくなるような言葉に、私は叫んだ。
それでもD7は一層表情を歪めて言葉を続ける。まるで私の心を乱すように。
「一時の迷いが、一時の優しさが、アンタの大切なものを全て奪うぞ。甘ったれた考えは捨てろ! アンタは今やただの魔女。お姫様ごっこは終わったんだよ。もう生きるか死ぬかの世界なんだ! 守りたいものがあるなら、その手で何かを奪う覚悟をしろ!」
「いやだ! 私はそんなこと────」
そう言いかけて気が付いた。私はもうすでに奪っている。人の大切なものを奪っている。
我が身可愛さに、友達を守るためにと奪っている。
D7からクリスティーンを奪ったのは、私だ。
彼が正しくなかったとしても、彼が大切にしているものを一方的に奪ったのは私だ。
「もうアンタも後には引けねぇだろ。覚悟を決めろ。戦うと決めたなら、何かを奪う覚悟をな!」
「でも……でも……!」
「早くしろ! 早く殺せ! 迷えば誰かが死ぬぞ! 躊躇えば何かを失うぞ! アンタの弱さが誰かを殺すぞ!」
剣を握る手が震える。
私が守りたいもの。私が優先するもの。そのために私がしなければならない選択。
何を守り、何のために戦うのか。何かを守るためには、時に何かを犠牲にしなければいけないのか。
「殺せ! 殺せよ! お友達が死んでもいいのか!」
心がぐしゃぐしゃになる。何が正しいのかわからない。
友達を傷付けたくない。守りたい。生きていてほしい。そのためには────
「その剣で俺を切り殺せ! 今殺さなきゃ、俺がお前の大切な人間を全員ぶっ殺してやる!!!」
何が正しいのか、もうわからなくなっていた。
ただD7に煽られるがまま、恐怖が心に渦巻いていく。
友達を失う恐怖。友達が傷付く恐怖。自分の弱さが誰かを傷つけてしまうかもしれない恐怖。
そんなものが渦巻いて、それを否定したくなった。
私の勇気が、私の決断が友達を救うことができるのなら。
私がそれをすることで、少しでもみんなを危険から遠ざけることができるのなら。
私はここで、この剣を振り下ろすべきなのかもしれない。
「ぁぁぁああああああああああ!!!!!」
細いことを考える余裕はなくて、ただ必死だった。友達を守りたいって。
今ここでこの人を倒さないと、きっと沢山の魔女が苦しむことになるんだって、そう自分に言い聞かせて。
D7の口車に乗っているだけかもしれないと頭の片隅では思いながらも、私は友達を守りたい一心で剣を振り下ろした。
満足そうな笑みを浮かべるD7。
純白の剣が、今まさに彼を切り裂かんする。
────そう、思った瞬間。
はためくドレス。なびく髪。煌びやかな姿が私たちの間に飛び込んできて。
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