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第2章 正しさの在り方
41 不思議の森のお茶会
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気がついた時、私は木々や草花が鬱蒼と茂る森の中にいた。
力強い幹に、青々とした枝葉を伸ばす木々。見たこともない鮮やかな花々。
まるでこの世のものとは思えない、とても綺麗な森だった。
私はその只中にポツリと一人で立っていた。いつの間にか立っていた。
しばらくぼーっと辺りを見渡して、私はあることに気がついた。
あらゆるものが果てしなく大きいのだ。
木の幹はビルように太く、天まで登るその先端はもはや見て取れない。
草や花も電柱ほどの大きさで、鮮やかに咲く花弁は、私をすっぽりと包み込むほどに巨大だった。
何もかもが大きな森。まるで、私だけ小人になってしまっているみたいだった。
もし小さいのが私だけで、他のものは通常サイズなのだとしたら、ここで虫や動物が出てきたらもうそれは怪獣のようになるんだろう。私なんて、一瞬でぺしゃんこだ。
とても穏やかな森だった。
サイズ感はチグハグしているけれど、暖かい木漏れ日やほのかにそよぐ風がとても心地良い。
まるでお伽話の世界に来たみたいにのどかで、どこか幻想的とすら思った。
そんな巨大な森の中を興味深く眺めていると、少し離れた所に、森にはそぐわない物を見つけた。
少し開けた所(といっても私のサイズ感で)に、大きなテーブルが広げられていた。
そのテーブルには綺麗でファンシーなテーブルクロスが広げられていて、その上には美味しそうなケーキやクッキーなどのお菓子が所狭しと並べられている。
でもそんな森には合わない光景の中で私が一番気になったのは、そのテーブルが私のサイズ感と一緒だったこと。
天まで登る木々や、私に覆いかぶさるような草花と比べると遥かに小さい。
私が普段使うような、私視点でいえば普通サイズのものたちだ。
この何もかもが巨大な森の中で唯一自分と同じサイズものを見つけて、私は慌ててそこに駆け寄った。
そのテーブルの周囲には椅子が二つだけ用意されていて、その片方には先客がいた。
女の子が一人、テーブルについて紅茶を飲んでいる。
この巨大な森の中で、私と同じサイズ感の女の子が優雅なティータイムを過ごしていた。
私はホッと胸を撫で下ろしてテーブルに近付いた。
そこでようやくその子は私に気がついて顔を上げた。
「こんにちは。ようやく会えたね」
その顔を見て、私は心臓が口から飛び出すかと思った。
それは私がよく知る女の子。きっと世界一よく知る女の子。毎日見る顔を見間違うはずがない。
その女の子は、私と同じ顔をしていた。
「一応初めまして、なのかな? 何だか変な感じ」
ニコニコと、その子は砕けた笑顔を向けてくる。
状況が全く理解できない私は、完全に硬直してしまった。
「まーまーそう固くならないで。一緒に紅茶を飲も。美味しいお菓子もあるよ」
女の子は椅子から立ち上がって駆け寄ってくると、私のことをいそいそと向かいの椅子に座らせる。
私はただされるがままに椅子に押し込められて、その子が入れた紅茶を眺めた。
フルーティで少し甘めな香りが鼻孔をくすぐる。
「……あなたは、何なの?」
呆然としていても仕方がないので、意を決して尋ねてみた。
するとその子は屈託のない笑顔で答えた。
「わたしは私。つまりわたしはあなただよ」
「……ごめん、わかんない」
あんまりも当たり前のように言うから、全然ついていけなかった。
そんな私の顔を見て、その子はまた無邪気に笑う。
「ごめんごめん。ちょっと意地悪しちゃった」
「今は冗談言う時じゃないでしょ。同じ顔が目の前にいるんだよ?」
「ごめんなさい。一度言ってみたかったの」
悪戯っぽく笑うその顔は、どこか幼く見える。
全く同じ顔で、背格好も同じ。
服装こそ真っ白なノースリーブのワンピースを着ているものの、その見た目は完全に同じだった。
強いて違う点を挙げるのなら、髪を三つ編みに結ばずに下ろしているということくいらい。
それほどまでに瓜二つなのに、その仕草や話し方がなんだか幼さを感じさせる。
「そうだなぁ。わかりやすく言うと、わたしはあなたの中の『お姫様』の部分、かな」
「それって、もしかして────」
みんなが求めている私のお姫様の力。
かつて『まほうつかいの国』を救ったというお姫様。
「そう。あなたが知らないあなたの一面。みんながお姫様と呼ぶ一面」
「でもそれって、こんな風に私とは別物なの? やっぱり私自身はお姫様じゃなくて、あくまで私の中にお姫様がいるってこと?」
「うーん、それは違うよ。わたしはあなた。わたしはずっと花園 アリスだもの」
理解が追いつかない。
私だと言うのに私とは違うもの。何が何だかさっぱりだ。
「もう少しわかりやすく説明できないの?」
「できないの。これでも精一杯。本来、わたしたちは接触ができないようにされてるから、こうして面と向かうのだって奇跡みたいなものなんだ。話せることにも色々制限があるんだから」
少し唇を尖らせてお姫様は言った。
「かつてあなた────つまりわたしは、『まほうつかいの国』でお姫様と呼ばれるようになった。わたしは、その頃のあなたって言えばわかるかな」
「うーん。なんと、なく……?」
つまり、私が知らない過去の私ってこと?
あくまで、その過去が事実だって仮定すればの話になるけれど。
みんなが語る、『まほうつかいの国』を救ったという過去の私。
その部分が私自身とは別に存在してるってこと?
えぇ……どうやって?
「ここはあなたの心の中。この森はあなたの心が作り出してる、言わば心象風景かな」
「もしかしてこれ、所謂もう一人の自分との対話、みたいなの?」
「そうかも」
美味しそうにケーキを頬張って、幸せそうに微笑むお姫様。
なんだか調子狂うなぁ。
力強い幹に、青々とした枝葉を伸ばす木々。見たこともない鮮やかな花々。
まるでこの世のものとは思えない、とても綺麗な森だった。
私はその只中にポツリと一人で立っていた。いつの間にか立っていた。
しばらくぼーっと辺りを見渡して、私はあることに気がついた。
あらゆるものが果てしなく大きいのだ。
木の幹はビルように太く、天まで登るその先端はもはや見て取れない。
草や花も電柱ほどの大きさで、鮮やかに咲く花弁は、私をすっぽりと包み込むほどに巨大だった。
何もかもが大きな森。まるで、私だけ小人になってしまっているみたいだった。
もし小さいのが私だけで、他のものは通常サイズなのだとしたら、ここで虫や動物が出てきたらもうそれは怪獣のようになるんだろう。私なんて、一瞬でぺしゃんこだ。
とても穏やかな森だった。
サイズ感はチグハグしているけれど、暖かい木漏れ日やほのかにそよぐ風がとても心地良い。
まるでお伽話の世界に来たみたいにのどかで、どこか幻想的とすら思った。
そんな巨大な森の中を興味深く眺めていると、少し離れた所に、森にはそぐわない物を見つけた。
少し開けた所(といっても私のサイズ感で)に、大きなテーブルが広げられていた。
そのテーブルには綺麗でファンシーなテーブルクロスが広げられていて、その上には美味しそうなケーキやクッキーなどのお菓子が所狭しと並べられている。
でもそんな森には合わない光景の中で私が一番気になったのは、そのテーブルが私のサイズ感と一緒だったこと。
天まで登る木々や、私に覆いかぶさるような草花と比べると遥かに小さい。
私が普段使うような、私視点でいえば普通サイズのものたちだ。
この何もかもが巨大な森の中で唯一自分と同じサイズものを見つけて、私は慌ててそこに駆け寄った。
そのテーブルの周囲には椅子が二つだけ用意されていて、その片方には先客がいた。
女の子が一人、テーブルについて紅茶を飲んでいる。
この巨大な森の中で、私と同じサイズ感の女の子が優雅なティータイムを過ごしていた。
私はホッと胸を撫で下ろしてテーブルに近付いた。
そこでようやくその子は私に気がついて顔を上げた。
「こんにちは。ようやく会えたね」
その顔を見て、私は心臓が口から飛び出すかと思った。
それは私がよく知る女の子。きっと世界一よく知る女の子。毎日見る顔を見間違うはずがない。
その女の子は、私と同じ顔をしていた。
「一応初めまして、なのかな? 何だか変な感じ」
ニコニコと、その子は砕けた笑顔を向けてくる。
状況が全く理解できない私は、完全に硬直してしまった。
「まーまーそう固くならないで。一緒に紅茶を飲も。美味しいお菓子もあるよ」
女の子は椅子から立ち上がって駆け寄ってくると、私のことをいそいそと向かいの椅子に座らせる。
私はただされるがままに椅子に押し込められて、その子が入れた紅茶を眺めた。
フルーティで少し甘めな香りが鼻孔をくすぐる。
「……あなたは、何なの?」
呆然としていても仕方がないので、意を決して尋ねてみた。
するとその子は屈託のない笑顔で答えた。
「わたしは私。つまりわたしはあなただよ」
「……ごめん、わかんない」
あんまりも当たり前のように言うから、全然ついていけなかった。
そんな私の顔を見て、その子はまた無邪気に笑う。
「ごめんごめん。ちょっと意地悪しちゃった」
「今は冗談言う時じゃないでしょ。同じ顔が目の前にいるんだよ?」
「ごめんなさい。一度言ってみたかったの」
悪戯っぽく笑うその顔は、どこか幼く見える。
全く同じ顔で、背格好も同じ。
服装こそ真っ白なノースリーブのワンピースを着ているものの、その見た目は完全に同じだった。
強いて違う点を挙げるのなら、髪を三つ編みに結ばずに下ろしているということくいらい。
それほどまでに瓜二つなのに、その仕草や話し方がなんだか幼さを感じさせる。
「そうだなぁ。わかりやすく言うと、わたしはあなたの中の『お姫様』の部分、かな」
「それって、もしかして────」
みんなが求めている私のお姫様の力。
かつて『まほうつかいの国』を救ったというお姫様。
「そう。あなたが知らないあなたの一面。みんながお姫様と呼ぶ一面」
「でもそれって、こんな風に私とは別物なの? やっぱり私自身はお姫様じゃなくて、あくまで私の中にお姫様がいるってこと?」
「うーん、それは違うよ。わたしはあなた。わたしはずっと花園 アリスだもの」
理解が追いつかない。
私だと言うのに私とは違うもの。何が何だかさっぱりだ。
「もう少しわかりやすく説明できないの?」
「できないの。これでも精一杯。本来、わたしたちは接触ができないようにされてるから、こうして面と向かうのだって奇跡みたいなものなんだ。話せることにも色々制限があるんだから」
少し唇を尖らせてお姫様は言った。
「かつてあなた────つまりわたしは、『まほうつかいの国』でお姫様と呼ばれるようになった。わたしは、その頃のあなたって言えばわかるかな」
「うーん。なんと、なく……?」
つまり、私が知らない過去の私ってこと?
あくまで、その過去が事実だって仮定すればの話になるけれど。
みんなが語る、『まほうつかいの国』を救ったという過去の私。
その部分が私自身とは別に存在してるってこと?
えぇ……どうやって?
「ここはあなたの心の中。この森はあなたの心が作り出してる、言わば心象風景かな」
「もしかしてこれ、所謂もう一人の自分との対話、みたいなの?」
「そうかも」
美味しそうにケーキを頬張って、幸せそうに微笑むお姫様。
なんだか調子狂うなぁ。
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