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第2章 正しさの在り方
38 私はいつだって遅い
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「タスケテ────タスケ、テ────」
その言葉に、果たして意味はあるんだろうか。
ただ繰り返される言葉。それはクリスティーン自身の言葉なのか、それとももう何の意味もないただの音に過ぎないのか。
「生きた人間の心臓をその身に埋め込んで、その魔力で彼女は動いてる。他の傀儡とは違って、彼女は独自の動力を持っている」
「何それ。ただの操り人形じゃなくて、自立してるってこと?」
「……恐らくは。彼の傀儡の魔法と、彼女自身の魔力が相乗効果で、高い出力を出していると、思われる……」
「魔法使いっていうのは、なかなか桁外れなんだね」
氷室さんの読みに、善子さんは苦い顔をした。
「私が彼女を引きつけます。その間に、本体である彼を叩いてください」
「けど、あんな化け物みたいのを一人じゃ……」
「私は大丈夫です。私は、一人じゃないから」
いまいち納得しきれていない善子さんだったけれど、ここで言い争っても仕方ないと口を噤んだ。
氷室さんは胸の前でぎゅっと拳を握ると、クリスティーンをまっすぐ見据えた。
それを確認した様にクリスティーンが、また動き出す。
氷室さんが目の前に冷気を放つ。
薄い氷の壁が出来上がるも、それはすぐにクリスティーンに打ち破られてしまう。
その間に、横に逃れる様に氷のレールの様なものを空中に張って、氷室さんはまるで飛ぶようにその上を滑走した。
スケートの様に氷のレールを滑って、高くクリスティーンとの距離を稼いだ氷室さんは、レールから跳び上がって空中に舞った。
その時、クリスティーンの足元が丸く光を放ったかと思うと、地面から氷山の様な氷の塊がせり上がった。
氷の大地に持ち上げられるクリスティーンに向けて、上空では氷室さんが、同質量の隕石の様に巨大な氷の塊を放った。
巨大な氷と氷がクリスティーンを挟んで激突する。
同規模の巨大な氷同士の衝突で、轟音をあげながらお互いは粉砕した。
「隙あり!」
その光景にD7が注視している隙に、善子さんが光の速さでその懐に入っていた。
D7が気がついた時にはもう既に、善子さんは攻撃を始めていた。
その右手には光が溢れ、光の弾丸が今まさに放たれようとしていた。しかし────
「あんまり魔法使いを見くびんじゃねぇよ」
善子さんが放とうとしていた光の弾丸は、その手から放つ前に掻き消された。
善子さんは、自分が何をされたのか理解が追いつかない内に、お腹を思いっきり蹴り抜けれて宙を舞った。
そんな善子さんを、量産のドールが現れて拘束する。
五、六体の無機質なドールがその全身を使って、巻きつく様に善子さんの動きを封じる。
そして完全に自由を奪われた善子さんに対し、そのドールたちは全身から電撃を放った。
声にならない悲鳴が暗い校庭に響く。
そんな時、上空で爆発が起きた。
氷の塊同士がぶつかり合い粉砕した中心から、クリスティーンがロケットのように飛び出してきていた。
そのあまりの速度に、宙に浮いていた氷室さんは対処が間に合わなかった。
一直線に飛んできたクリスティーンの突撃を、真っ正面から受けた氷室さん。
何の捻りもないけれど、とてもわかりやすい物理的な衝撃。
それを受けて、氷室さんはただ無抵抗に吹き飛ばされるだけのように見えた。
けれどクリスティーンがそれを許さなかった。
氷室さんに衝突した瞬間に、その四肢を蛇のようにうねらせて氷室さんの体に巻きつく。
そのせいで、氷室さんは全く衝撃を殺すことができなかった。
衝撃も勢いも、その全てを押さえつけるクリスティーンの腕力に捕らえられた氷室さんは、ぐるぐると空中で振り回されて、崩壊している氷塊の只中に投げ込まれた。
崩壊する氷塊を突き破って地面に叩きつけられ、そして崩れ落ちる氷がまた氷室さんを襲う。
バリバリとけたたましい音を立てながら、無数の砕けた氷が降り注いだ。
全ての氷が崩れ落ち、そして魔法の効果が切れたのか、その氷が消え去った後には、微動だにしない氷室さんが横たわる姿だけが残されていた。
そんな氷室さんの元に降り立ったクリスティーンは、ぐったりとした氷室さんの首を掴んで強引に持ち上げた。
ただされるがまま。氷室さんはだらりと力なく吊るされていた。
私の胸元の氷の華が、乾いた音を立てて砕け散った。
「氷室さん! 善子さん!」
叫んだってもう遅い。勝負は決していた。
D7とクリスティーンによって、もう二人は完膚なきまでに叩きのめされていた。
「ま、こんなもんか」
ニヤニヤと笑みを浮かべて、D7は軽い口調で言った。
まるで面倒な仕事を片手間で終われせたような、そんなどうでも良さそうな言い方だった。
「勝負あり。ま、魔法使いと魔女で、勝負なんて成り立たねぇけどな。俺たちにしてみたら魔女の魔法なんてままごとだ」
探求し研鑽を積んだ魔法使いにとって、魔女が使う小手先の魔法は子供の遊びみたいなもの。
確かに夜子さんは言っていた。真っ向から戦いを挑んでも勝てないって。
魔法使いと魔女では、そもそも次元が違うんだ。お話にならない。戦いにすらならない。
「もう、やめて……」
私を守るために二人が傷付いた。無闇に考えなしに、戦うなんて私が言ったから。
私はただ、ここで立ち竦んで見ていただけ。
私に力を貸してくれた二人だけが、ボロボロに傷付いた。
「私が殺されればいいんでしょ? だったらもうやめて。二人をこれ以上、傷付けないで……!」
あれ。こんなこと前にも言った気がする。
私を守るために別の誰かが傷付いて、私はただ見ているだけで。
それでも何とかならなくて、私は取り返しがつかなくなってから、こうやって懇願した。
何にも変わってない。何にも成長してない。やってることは同じじゃん。
覚悟を決めたはずなのに、戦うって決めたはずなのに。
友達を守りたいって思ったはずなのに。
結局私は守られてばかりで何にもできない。
私って、本当にバカだなぁ。
その言葉に、果たして意味はあるんだろうか。
ただ繰り返される言葉。それはクリスティーン自身の言葉なのか、それとももう何の意味もないただの音に過ぎないのか。
「生きた人間の心臓をその身に埋め込んで、その魔力で彼女は動いてる。他の傀儡とは違って、彼女は独自の動力を持っている」
「何それ。ただの操り人形じゃなくて、自立してるってこと?」
「……恐らくは。彼の傀儡の魔法と、彼女自身の魔力が相乗効果で、高い出力を出していると、思われる……」
「魔法使いっていうのは、なかなか桁外れなんだね」
氷室さんの読みに、善子さんは苦い顔をした。
「私が彼女を引きつけます。その間に、本体である彼を叩いてください」
「けど、あんな化け物みたいのを一人じゃ……」
「私は大丈夫です。私は、一人じゃないから」
いまいち納得しきれていない善子さんだったけれど、ここで言い争っても仕方ないと口を噤んだ。
氷室さんは胸の前でぎゅっと拳を握ると、クリスティーンをまっすぐ見据えた。
それを確認した様にクリスティーンが、また動き出す。
氷室さんが目の前に冷気を放つ。
薄い氷の壁が出来上がるも、それはすぐにクリスティーンに打ち破られてしまう。
その間に、横に逃れる様に氷のレールの様なものを空中に張って、氷室さんはまるで飛ぶようにその上を滑走した。
スケートの様に氷のレールを滑って、高くクリスティーンとの距離を稼いだ氷室さんは、レールから跳び上がって空中に舞った。
その時、クリスティーンの足元が丸く光を放ったかと思うと、地面から氷山の様な氷の塊がせり上がった。
氷の大地に持ち上げられるクリスティーンに向けて、上空では氷室さんが、同質量の隕石の様に巨大な氷の塊を放った。
巨大な氷と氷がクリスティーンを挟んで激突する。
同規模の巨大な氷同士の衝突で、轟音をあげながらお互いは粉砕した。
「隙あり!」
その光景にD7が注視している隙に、善子さんが光の速さでその懐に入っていた。
D7が気がついた時にはもう既に、善子さんは攻撃を始めていた。
その右手には光が溢れ、光の弾丸が今まさに放たれようとしていた。しかし────
「あんまり魔法使いを見くびんじゃねぇよ」
善子さんが放とうとしていた光の弾丸は、その手から放つ前に掻き消された。
善子さんは、自分が何をされたのか理解が追いつかない内に、お腹を思いっきり蹴り抜けれて宙を舞った。
そんな善子さんを、量産のドールが現れて拘束する。
五、六体の無機質なドールがその全身を使って、巻きつく様に善子さんの動きを封じる。
そして完全に自由を奪われた善子さんに対し、そのドールたちは全身から電撃を放った。
声にならない悲鳴が暗い校庭に響く。
そんな時、上空で爆発が起きた。
氷の塊同士がぶつかり合い粉砕した中心から、クリスティーンがロケットのように飛び出してきていた。
そのあまりの速度に、宙に浮いていた氷室さんは対処が間に合わなかった。
一直線に飛んできたクリスティーンの突撃を、真っ正面から受けた氷室さん。
何の捻りもないけれど、とてもわかりやすい物理的な衝撃。
それを受けて、氷室さんはただ無抵抗に吹き飛ばされるだけのように見えた。
けれどクリスティーンがそれを許さなかった。
氷室さんに衝突した瞬間に、その四肢を蛇のようにうねらせて氷室さんの体に巻きつく。
そのせいで、氷室さんは全く衝撃を殺すことができなかった。
衝撃も勢いも、その全てを押さえつけるクリスティーンの腕力に捕らえられた氷室さんは、ぐるぐると空中で振り回されて、崩壊している氷塊の只中に投げ込まれた。
崩壊する氷塊を突き破って地面に叩きつけられ、そして崩れ落ちる氷がまた氷室さんを襲う。
バリバリとけたたましい音を立てながら、無数の砕けた氷が降り注いだ。
全ての氷が崩れ落ち、そして魔法の効果が切れたのか、その氷が消え去った後には、微動だにしない氷室さんが横たわる姿だけが残されていた。
そんな氷室さんの元に降り立ったクリスティーンは、ぐったりとした氷室さんの首を掴んで強引に持ち上げた。
ただされるがまま。氷室さんはだらりと力なく吊るされていた。
私の胸元の氷の華が、乾いた音を立てて砕け散った。
「氷室さん! 善子さん!」
叫んだってもう遅い。勝負は決していた。
D7とクリスティーンによって、もう二人は完膚なきまでに叩きのめされていた。
「ま、こんなもんか」
ニヤニヤと笑みを浮かべて、D7は軽い口調で言った。
まるで面倒な仕事を片手間で終われせたような、そんなどうでも良さそうな言い方だった。
「勝負あり。ま、魔法使いと魔女で、勝負なんて成り立たねぇけどな。俺たちにしてみたら魔女の魔法なんてままごとだ」
探求し研鑽を積んだ魔法使いにとって、魔女が使う小手先の魔法は子供の遊びみたいなもの。
確かに夜子さんは言っていた。真っ向から戦いを挑んでも勝てないって。
魔法使いと魔女では、そもそも次元が違うんだ。お話にならない。戦いにすらならない。
「もう、やめて……」
私を守るために二人が傷付いた。無闇に考えなしに、戦うなんて私が言ったから。
私はただ、ここで立ち竦んで見ていただけ。
私に力を貸してくれた二人だけが、ボロボロに傷付いた。
「私が殺されればいいんでしょ? だったらもうやめて。二人をこれ以上、傷付けないで……!」
あれ。こんなこと前にも言った気がする。
私を守るために別の誰かが傷付いて、私はただ見ているだけで。
それでも何とかならなくて、私は取り返しがつかなくなってから、こうやって懇願した。
何にも変わってない。何にも成長してない。やってることは同じじゃん。
覚悟を決めたはずなのに、戦うって決めたはずなのに。
友達を守りたいって思ったはずなのに。
結局私は守られてばかりで何にもできない。
私って、本当にバカだなぁ。
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