上 下
31 / 984
第2章 正しさの在り方

5 屋上にて

しおりを挟む
「私は、反対」

 昼休み。
 いつもは晴香と創と食べているお昼を、用事があるからと断って、私は氷室さんに声を掛けた。
 レイくんに会いに行く前に栞のことを相談すると、氷室さんは冷静にそれを否定した。
 まぁ、そう言われると思ってたし、私もそう思う。

「氷室さんは、レイくんのこと何か知ってるの?」
「……彼女本人のことは知らないけれど、ワルプルギスの一員というのなら目的は、想像がつく」
「その、ワルプルギスって何?」

 自然にレイくんのことを彼女と言ったので、やっぱり女の子だったのかな、なんてちょっと呑気なことを思いながら、私は聞いた。

「ワルプルギスは、向こうの世界の魔女のレジスタンス集団の名前。彼女たちがあなたにコンタクトを取るということは、あなたの力を利用しようとしている可能性がある」
「私の力っていっても、私何もできないよ?」
「魔法使いと、同じ。あなたという存在こそが、需要」

 つまりお姫様の力ってことかな。そもそも、それもサッパリわからないんだけど。
 でもそうなってくると、私は同じ立場であるはずの魔女からも身柄を狙われるってことになるのかな。

「……ワルプルギスは魔女のほんの一部で、そのほとんどは向こうの世界の魔女。まだ、そこまで派手な動きはしてこないとは思うけれど、警戒は必要。何をしてくるかはわからないから」
「うん。でも同じ魔女なら、話くらいは聞いてあげたほうがいいんじゃないかな」
「……あなたがそう思うのなら、止めはしないけれど……自分の身の安全を、第一に」
「うん。わかった」

 不思議と怖さはなかった。
 確かに不可解だったりすることはあるけれど、悪い人ではなさそうな気がするし。

 少し不安げな氷室さんと別れて、私は一人で屋上に向かった。
 警戒という意味では、氷室さんと一緒に行った方が良かったかもしれないけれど。
 でも、話をするためにはきっと二人きりの方がいいと思う。

 普段は締め切られていて、立ち入り禁止の屋上への扉の鍵が開いていた。
 漫画やアニメと当たり前のように解放されている屋上だけれど、普通は安全上の問題とか、その他諸々の理由で立ち入り禁止のことが多いと思う。
 だから私は、学校の屋上というものに足を踏み入れるのは初めてだった。

 外へと出てみると、フェンス越しに校庭を見下ろしているレイくんがいた。
 ニット帽から伸びる髪がそよ風に揺れていて、その横顔だけでとても絵になる。
 思わず見惚れそうになっていると、レイくんは私に気付いてニッコリと微笑んだ。

「よかった。来てくれたんだね」
「また会う時も、なんて言った割に、アプローチが早いんじゃない?」
「あの時はそう思ったんだけどね。もう少しお話してみたくなったんだよ。あそこだと、ゆっくり時間はとれなかっただろう?」

 そう言うとレイくんはフェンスを背にして腰掛けて、隣をポンポンと叩いて私を促した。
 正直、まだレイくんを信用しきったわけじゃないから、肩を並べて座るのには少し抵抗があった。
 けれど、そう爽やかで無邪気に誘われると断り辛くて、仕方なくそれに従った。

「あなたは魔女、なんだよね?」
「そう、僕は魔女だよ」
「私に用って何? 私なんかと話してどうするの?」
「おやおや、君は自分自身の価値に気づいていないらしい。君は、他の誰でも代えのきかない掛け替えのない存在だよ」

 レイくんはさらっと自然にそう言う。
 これがもし口説き文句だとしたら、物凄く臭いけれど。
 でもきっとこんな美形に言われたら、何だって素敵に聞こえてしまうかもしれない。
 けれど今はそう言う話じゃない。レイくんが言っているのは、私のお姫様としての力の話だ。

「単刀直入に言うと、僕と一緒に来て欲しいんだよ」
「来て欲しいって、どこに?」
「僕らワルプルギスのところへ。具体的に言えば、あちらの世界に」
「それは……」

 それは結局、魔法使いと同じだ。
 あちらの世界に連れていかれてしまえば、もう私の自由なんてない。
 私の日常も友達も、なにもかもなくなってしまう。

「それはできないよ。私はどこにも行きたくない。私はここで、いつも通りの生活をしたいんだから」
「それが、全ての魔女を救うことだとしてもかい?」
「それは、どういう……」
「僕らワルプルギスは、全ての魔女の安寧のために戦っている。魔法使いを打倒し、魔女の安全を手に入れるためには、君の力が必要なんだ。君にはそれができる」

 それはつまり魔法使いに攻撃を仕掛けるってこと?
 それって、結局魔法使いとやってること変わらない。
 魔法使いも魔女を殲滅するために私が必要らしいし、お互いに相手を亡き者にしようとしているなんて。
 そしてそのどちらにしても、私はただ利用されるだけ……。

「ごめん。私はあなたたちには賛同できないよ。確かに魔女狩りがいなくなれば、魔女は安全かもしれない。でもそのために相手を殺してしまおうなんて、それじゃやってること同じだよ」
「なるほどね。まぁそう言うと思っていたよ」

 レイくんは特に気にする様子もなく、爽やかに笑った。
 まるで、私の返答はわかりきっていたとでも言うかのように。

「怒らないの?」
「怒らないさ。怒る理由がない。別に今すぐ君を連れ去ろうなんて、そんな野蛮なことはしないよ。今日はただ、アリスちゃんとお話がしたかっただけだからね」

 レイくんはそう言って、私の頭をそっと撫でた。
 私は思わず肩に力が入ってしまって、そんな私を見てレイくんはまた微笑んだ。
 この人は本当に、何を考えているのかわからない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

美少女だらけの姫騎士学園に、俺だけ男。~神騎士LV99から始める強くてニューゲーム~

マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
ファンタジー
異世界💞推し活💞ファンタジー、開幕! 人気ソーシャルゲーム『ゴッド・オブ・ブレイビア』。 古参プレイヤー・加賀谷裕太(かがや・ゆうた)は、学校の階段を踏み外したと思ったら、なぜか大浴場にドボンし、ゲームに出てくるツンデレ美少女アリエッタ(俺の推し)の胸を鷲掴みしていた。 ふにょんっ♪ 「ひあんっ!」 ふにょん♪ ふにょふにょん♪ 「あんっ、んっ、ひゃん! って、いつまで胸を揉んでるのよこの変態!」 「ご、ごめん!」 「このっ、男子禁制の大浴場に忍び込むだけでなく、この私のむ、む、胸を! 胸を揉むだなんて!」 「ちょっと待って、俺も何が何だか分からなくて――」 「問答無用! もはやその行い、許し難し! かくなる上は、あなたに決闘を申し込むわ!」 ビシィッ! どうやら俺はゲームの中に入り込んでしまったようで、ラッキースケベのせいでアリエッタと決闘することになってしまったのだが。 なんと俺は最高位職のLv99神騎士だったのだ! この世界で俺は最強だ。 現実世界には未練もないし、俺はこの世界で推しの子アリエッタにリアル推し活をする!

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜

赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。 これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。 友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!

処理中です...