上 下
25 / 984
第1章 神宮 透子のラプソディ

25 私の親友と私の居場所

しおりを挟む
 そうして、私は家に帰ってきた。
 帰る時に、夜子さんが私の鞄を渡してくれた。あの夜、私が連れ去られた公園に落ちていたみたい。
 言われてみれば、確かに向こうについてから、鞄のことなんて気にしてなかった。あってよかったよ。

 ちなみに私はずっと、向こうで着せられていたワンピースタイプの寝巻着のままで、制服は行方知らずだった。
 だからそれは、氷室さんが新しいのを魔法で作ってくれた。

 携帯で日時を確認してみると、あの夜から丸二日経っていた。
 つまりは二日間学校をサボっていたということで、携帯の通知には、晴香と創から鬼のような連絡が溜まっていた。

 家は今、実質一人暮らしだからあまり気にしていなかったけど、こっちは大分心配かけちゃったな。
 私は今お母さんとの二人暮らしだけれど、私が高校に入学してからは、お母さんは仕事で長期間家を空けることが多くなっちゃった。
 両サイドの家が幼馴染だから、よく夕飯にお呼ばれしたりもするし、あまり寂しくはないんだけど。

「明日、ちゃんと謝らないとな……」

 家は隣なんだし今から会いに行ってもいいんだけど、今は一人になりたかった。
 あまりにもいろいろなことがありすぎた。

 二日ぶりの自分の部屋のベッドに寝転んで、ボーッと天井を見つめる。
 そういえば、向こうに連れていかれて寝かされていたベッドは、信じられないくらいふかふかだったなぁ。

「魔女、か……」

 いまいち魔女としての実感はなかった。でも今まではなかったような、違和感のようなものはある。
 もやもやうにゅうにゅしたこの感じが、きっと魔女になったってことなのかもしれない。

『魔女ウィルス』は死のウィルス。感染すればやがて命を落とす不治の病。
 その死がいつ訪れるのか。その死は一体どのようなものなのか。
 何一つわからないけれど、それでも突きつけられた死の現実は、私の心に重く響いた。

  人間は、生き物はやがてみんな死んでいくけれど。それでもそれを意識してなんて生きていない。
 それなのに、それが例え漠然としたものだとしても、あなたはいつか死ぬんだよと言われると、途端に怖くなる。

 透子ちゃんも氷室さんも、夜子さんに千鳥ちゃんも、そんな境遇で気丈に生きてる。
 慣れればそれも自然なものと同じように、意識しないようになれるのかな。
 私には、まだもう少し時間がかかりそうだった。

 落ち着いたら急にお腹がすいてきて、ぐるぐるとお腹が鳴った。
 起き上がるのも億劫だったけど、空腹には耐えれなくて重い体を持ち上げる。
 どんな時でも人間お腹は空くんだなぁ。結局境遇が変わったって、人の在り方は変わらない。
 お姫様と呼ばれても、魔女になっても、私は私なんだってちょっぴり安心した。

 簡単に作ったごはんを食べていると、携帯が鳴った。画面を見てみると、案の定晴香からだった。
 今は一人になりたい気分なんだけど、とは思いつつも、心配してくれている幼馴染をあまり無下にもできなくて、私は電話に出た。

『あ! やっと出た! アリス、今どこにいるの!?』
「心配かけてごめんね。今は家だよ。さっき帰ってきたところ」

 私が言い切る前に電話がブツッと切れて、そして私が首を傾げている間に、玄関のガチャガチャバタンと激しい音を立てて開いた。
 ドタドタと足音を立てて部屋に飛び込んできたのは、やっぱり晴香だった。
 晴香ならうちの合鍵を持ってる。

「アリス! もう、心配したんだから!」

 今にも泣きそうになりながら抱き着いてきた晴香は、苦しいくらいに私を抱きしめる。
 私もそんな晴香を、恐る恐る抱きしめ返した。

「年頃の女の子が、二日も連絡取れないなんて! 家にもいないし携帯も出ないし。誰かに誘拐されたんじゃないかって、もう気が気じゃなくて……」

 実は誘拐されてました、ちょっと異世界まで。

「明日になっても連絡取れなかったら、警察に行こうって創と話してて。私はもっと早く行ったほうがいいって言ってたんだけど、創に止められて……それでもう、十回くらい喧嘩した」

 喧嘩しては欲しくなかったけど、警察に行かれなくてよかったな。
 そこまで大事になってたら、かなり面倒そうだし。

「それで、何があったの? 今までこんな非行に走ったことなかったのに」
「えっと、ちょっと説明できないんだけど。色々あって……」

 言い淀む私を、訝しげに見つめる晴香。
 話したいのは山々なんだけど、流石に話せない。
 第一いきなり、魔法使いとか魔女とか言い出したら、別の意味で心配されそうだし。

 それに、私がお姫様って言われて異世界のお城に連れていかれたなんて話をしようものなら、本気で病院に連れていかれるかもしれない。
 ここはぐっと堪えて、黙っているしかない。

「でも大丈夫。平気だよ。心配かけてごめんね」
「そう、なの? まぁ、アリスがそう言うならいいけどさ……」

 幸いにも晴香は本当にいい子で、私が言いたくないことを無理に詮索するような子じゃない。
 本来なら深く追求するべきことも、私がそれを拒めばしてこない。
 私だって本当は隠し事なんてしたくないけれど、話すわけにもいかないから、今回はそんな晴香の優しさに甘えることにした。

「創も心配してたんだよ。さっき私から連絡しておいたけど」
「ありがと。明日、ちゃんと謝らないと」
「もう、今日は私泊まるからね! 一緒に寝る! なんならお風呂も一緒に入るんだから! またいなくなられたら堪んないもん」
「もうどこにもいかないよぉ」
「でもダメ。今日は私の言うこと聞いてもらうんだから」

 もちろん断る事なんて私の立場ではできるわけもなくて、急遽晴香のお泊まりが決まった。
 やっぱり持つべきものは友達だよ。
 こんなに私のことを気遣ってくれる友達がいるのに、この生活を捨てる事なんてできない。

 晴香や創がいない日々なんて、私は知らない。
 だからやっぱり私は、この日常を守るためにも戦っていくしかないんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小説教室・ごはん学校「SМ小説です」

浅野浩二
現代文学
ある小説学校でのSМ小説です

二穴責め

S
恋愛
久しぶりに今までで1番、超過激な作品の予定です。どの作品も、そうですが事情あって必要以上に暫く長い間、時間置いて書く物が多いですが御了承なさって頂ければと思ってます。

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

憧れのあの子はダンジョンシーカー〜僕は彼女を追い描ける?〜

マニアックパンダ
ファンタジー
憧れのあの子はダンジョンシーカー。 職業は全てステータスに表示される世界。何かになりたくとも、その職業が出なければなれない、そんな世界。 ダンジョンで赤ん坊の頃拾われた主人公の横川一太は孤児院で育つ。同じ孤児の親友と楽しく生活しているが、それをバカにしたり蔑むクラスメイトがいたりする。 そんな中無事16歳の高校2年生となり初めてのステータス表示で出たのは、世界初職業であるNINJA……憧れのあの子と同じシーカー職だ。親友2人は生産職の稀少ジョブだった。お互い無事ジョブが出た事に喜ぶが、教育をかってでたのは職の壁を超越したリアルチートな師匠だった。 始まる過酷な訓練……それに応えどんどんチートじみたスキルを発現させていく主人公だが、師匠たちのリアルチートは圧倒的すぎてなかなか追い付けない。 憧れのあの子といつかパーティーを組むためと思いつつ、妖艶なくノ一やらの誘惑についつい目がいってしまう……だって高校2年生、そんな所に興味を抱いてしまうのは仕方がないよね!? *この物語はフィクションです、登場する個人名・団体名は一切関係ありません。

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

【完結】公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?

海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。 そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。 夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが── 「おそろしい女……」 助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。 なんて男! 最高の結婚相手だなんて間違いだったわ! 自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。 遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。 仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい── しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

処理中です...