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君が、私を、目覚めさせた

あいまみえる*

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揺蕩う。何も無い。否、ただひたすらに、闇があった。

揺蕩う。何も無い。否、闇の中に、何かが、青い、何かが…。

「ヴィー?」

闇の中、声が反響する。
反射的に口から出た言葉はしかし消えることなく空気を震わせたことに驚く。
ここには何もない。何も見えない。確かにさっき、ヴィーが居た気がしたのに。
でも周囲を見渡してもやっぱり暗闇しかなくて、私が今目を開いているのか閉じているのかさえ曖昧だった。

「…?」

ぼんやりしていると、いつの間にか痛みが消えていることに気付く。自分の身体に触れてみると、確かにあったはずの傷が無い。血も流れていなければ、きちんと腕の感覚もあった。

「何が、起こったの?」

なにがなんだか分からなくて呆然とする。だって、さっきまであんなに痛かったのに。怖かったのに。苦しかったのに。今は何も感じない。

「いつかこの日が来ると思っていたのだ。まさかこれ程長くかかるとは予想外だったが。」

「だれ?」

突然響いた知らない声に身体がびくりと反応する。…?いや、何処かで聞いただろうか。
声は反響してどこから聞こえてくるのか分からない。

「今の私は残穢に過ぎない。長い時が過ぎた故もはや其方の質問に答えられる術もない。しかし私は私の魔法でここにいる。今から言う言葉を聞け。」

「どういうこと…?」

声は私の言葉が聞こえていないかのように話を続ける。

「其方は望まぬ贄か、それとも篤実なる贄か。それは私には感知できぬ。しかしここに来たことは事実。逃げられぬし抜け出せぬ。それを心得よ。」

「…はい。」

「其方がここに居られる時間は少ない。それは其方が『正統な贄』では無い故。称号を持ってしても、中身が違えば役割を果たせぬ。其方は一時の身代わりにすぎぬということだ。」

「………。」

分かっていた。ヴィーの代わりになんてなれないことは。
私の行動は、ただ世界を混乱させただけなのかもしれない。でも、それでも、私はヴィーを失いたくなかったから。

「其方がここで黒に染まれば全てが終わる。称号は継承者へと渡り、その者が眠ることとなるだろう。初代の贄が祝福で願ったのは、未来永劫壊れることの無い世界だ。最も、それが本当の願いだったのかは私の預かり知らぬこと。私は黒に染まった初代を排し、次の贄となっただけ。」

「初代を排し?じゃあ、あなたが最初の勇者?」

「昔はその役目を厭うものはいなかった。程度は違えど、仕方ないと。しかし、そうはいっても人の心とは難解故に、こうして少しずつ少しずつ不満や鬱憤が溜まっていった。独り闇の中揺蕩うだけに飽きてしまうのだ。そうして生まれた心は何処へ行く?世界か?己か?違う。全てを始めたものへと向かった。」

「全てを始めたもの…。」

私は思い出す。何度も何度も聞いた言葉を。誰も彼もが言っていた。



『お前のせいだ』と。



「其方には知る権利がある。…此方に、手を。昔ならばこの身を晒すことも出来たが、長い年月が経ち、私はもう塵でしかない。許せ。」

闇の中で、微かに青が見えた。
あぁ、あの色は。あの光は。
私は促されるままにそちらへと手を伸ばす。

「初代は始まりの存在。それ故に誰よりも強く、誰よりも深く黒に染まった。…彼を救ってほしい。私では、出来なかったのだ。」

その声を最後に、私の意識は遠くなっていった。
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