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私は、君を、目覚めさせる

きみのもとへ

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全ての準備が整った。本当にこれで大丈夫なのか、もっとやれることがあるかもしれないという思いはあるけれど、私が考えつくものは全部やったつもりだし、頑張ってきたつもりだ。
それに何より、私はもう逸る気持ちを抑えることが出来ない。

村に1度帰って皆に勇気をもらうことも頭に浮かんだけれど、弱虫の私は村の誰かにダメだと言われたらどうしようと怖くなって、結局帰らないことに決めた。だって、本当に優しい人達ばかりだから。いいもダメも、言わせちゃいけない。

途中魔物や襲ってくる魔族を倒しつつ険しい山を越え、霧の深い森を抜け、ただひたすらに北を目指す。
魔王が倒された今、やはり前に来た時よりも格段に弱くなっているように思う。その影響で予定よりもずっと早く進んでいるから、なんだかちょっとだけ不安が込み上げてくるも順調なのはいいことだと自分を納得させる。大丈夫。何も怖いことなんかない。

目の前に降ってきた魔物を魔法で倒す。周りに敵がいないことを確認してふっと息を吐くと、前から声をかけられた。

「ごめん大丈夫だった?」

「うん。ちゃんと倒せました。」

少し眉を下げたレーシアの後ろの方から歩いてきたエミリーが仕方ないなという風に微笑みながら私の頬に触れる。
傍にはトールやジオ、ジャヴィさんの姿も見えた。

「マリー。怪我はしてないかとレーシアは聞いているんですよ。私も心配です。小さな傷でもきちんと報告しなさいね。」

「えっと、ありがとう、レーシア、エミリー。どこも怪我してないです。」

こくりと頷けば、2人の顔が和らぐ。

「マリーが怪我した時はヴィオが気付いたし、ヴィオが怪我するとマリーが慌てるからすぐ分かったんだけどな。」

私の頭を乱暴に撫でるトールがそう言うと、エミリーが頷く。

「確かに。ふふ、見てわかるくらい近くなれれば良かったのだけれど。」

「主はすぐ怪我を隠す。」

「人間は己より他を優先するものよな。」

ポツリとジルが呟けば、ジャヴィさんが同意を示す。

「勝手に人間って括りにすんな。こいつらが隠したがりなだけだろう。」

そう言いながらトールは頬を抓る。慌てて手を押しやれば、簡単にその手は離れた。
皆に甘やかされている。それが伝わる。

「あの、私皆のことも大切に思ってるよ。」

「ありがとマリー。ちゃんと伝わってるよ。あたしも皆も、マリーが大好き。」

「えぇ。」

ニコニコと笑うレーシアがぐっと拳を作る。エミリーは頷いてくすくすと笑った。

「それにしてもこんなに早くまた同じメンバーでここに来ることになるとはねぇ。坊っちゃんはいないけど、資金提供してくれたし。修行のためにあたしはまだ来る予定あったけど。」

「あら、私も定期的に来るつもりでしたよ。ここが1番瘴気が濃いようですから。今日もその名目で来ましたもの。」

「えっ、ちょっとエミリー1人で!?流石に危ないよ。もう、そういう時はあたしに声かけるとかしてよ?」

驚いて目を見開くレーシアに、エミリーが不思議そうに首を傾げる。

「魔王は倒しましたし、弱体化した状態の魔物ならばシスター数人で挑めば大丈夫だと思いまして。本当はもっときちんと対策をとって進むつもりだったのよ?今回は例外。でも、レーシアがそう言ってくださるなら今後はお言葉に甘えようかしら。」

「魔法適正的にエミリーのが1番効果あるけど、やっぱ不意に襲われちゃったりしたら大変でしょ?シスター達は物理攻撃に強くはないし。」

「貴女を盾にするつもりはありません。」

「分かってるよ。」

祈りのように手を組みそっと言うエミリーに、レーシアもまた静かに告げる。

「あの根性無しが使い物になってたら、あいつを盾にしたのにな。」

鼻で笑ったトールにジルも頷く。

「騎士は前線に立つものだ。だがあの臆病者では足りない。」

「剣すらまともに持てなかったもんなぁ。うーん、そう思うとよくここまでついてこられたもんだよ。」

「レーシアは、甘い。」

「…ふむ?」

談笑していると唐突に風が吹く。
少し遠くに、敵の反応があった。

「皆、あっちに魔物数体がいるみたい。」

「了解。」

「全ては神の思し召しのままに。ヴィオレットの行く末が幸多からんことを。」

目的地は、もうすぐだ。
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