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私は、独り、流される

お気に入りとベイビーちゃん*

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「~♪~♪」

鼻歌を歌うフォーレンの背後に、闇が生まれる。それは形を作り、中から男が現れた。

「おや、ご機嫌ですね。何かいいことでも?」

「オーグじゃん。何しに来たのぉ?」

声を掛けられたフォーレンは、振り向き顔を顰める。邪魔されたのが気に入らないようだ。それを見てオーグが苦笑する。

「あからさまに嫌な顔しないでくださいよ。暇だったんで貴女に会いに来ただけです。」

「オーグってめっちゃ私の事好きだよねぇ。ウケる。」

「私は貴女に育てられたも同然ですからね。死んで欲しくはないと思う程度に嫌いではありませんよ。」

「素直に好きって言えばいいのにぃ。私のベイビーちゃんは可愛いねぇ。」

フォーレンはケラケラと笑い、飛び上がってオーグの頭を撫でる。

「うるさいですよ。それと私はとっくに成人済みです。」

「気まぐれで拾った子がこんなに大きくなるとかほんと面白いよねぇ。」

「…貴女は変わりませんね。」

「そう?」

頭から手を退かすと、フォーレンはオーグに背を向け、また作業を再開する。

「あの子はそんなに面白いのですか。」

「ひっつき虫ちゃん?面白いよぉ。ふっつーの子なのに周りのせいで祭り上げられてんの。でもぉ跳ね除けるほどの力は無いからぁ、大人しくしてんだけどさぁ。あれは絶対何かやらかすよ。ちょー楽しみ!ほんと可哀想ぉ。」

「私よりも?」

小さく呟かれた言葉にフォーレンが振り返る。

「なぁに?」

「私よりも可哀想で、可愛いんですか。」

「は?」

唖然とするフォーレンに、オーグが慌てて顔を背ける。

「…なんでもありません。」

「えっなぁに妬いてんのぉ?人間相手に?…ちょー可愛いんですけど。」

フォーレンは肩を震わせて笑う。それを見てオーグが機嫌を損ねた様子で眉を釣り上げる。

しかし、オーグが言葉を発する前に、フォーレンが仕方ないなぁという表情で両手を広げた。

「ベイビーちゃんおいで?」

オーグがゆっくりと近付く。膝を折り、その小さな腕の中に収まる。

「はい、ハグー。可愛いねぇ。私嫉妬も大好きだよぉ?勝手に自滅してくの見てて楽しいしぃ。でも、」

「フォーレン?」

「オーグが自滅するのは許さない。」

細い腕に力が籠るのを感じて、オーグが笑い出す。

「ふふ、ふふふ。」

「なぁに?ご機嫌じゃん。」

「愛してます。フォーレン。」

蕩けるような表情のオーグにフォーレンは苦笑する。オーグが小さい頃から何度も聞いた言葉だ。

「あんたその言葉好きだよねぇ。はいハグおしまーい。私より強くなってから出直してきてねぇ。」

「…ケチ。」

見た目よりも幼いその物言いに、彼が甘えているのだと気付く。いつまでも親離れ出来ないのはどうしてなのか。別に面白いからいいけど。

「ベイビーちゃんはぁ、私を楽しませてくれるんでしょ?」

「仕方ないですね。貴女のお気に入りに手出しするのは諦めます。」

ため息を零すオーグの頭を撫でる。褒めて伸ばすのは教育にいいと聞いた。どんどん成長するといい。私を飽きさせないように。つまらない男になどしてやらない。

けれど、何でもかんでもやらせてあげるのは違う。だって疲れてる子にはお母さんが甘やかしてあげなくてはいけないのだ。された事は無かったけれど、今は私がお母さんなのだから。

「ん、いい子。ご褒美に今日は一緒に寝てあげるー。」

「…お見通しですか。」

「一応あんた育てたの私だしねぇ。何しようとしてるかは興味ないけどぉ、無理してたらすーぐ死んじゃうよ?」

「はい。気をつけます。」

素直に頷いたオーグの手を引き、寝室へ向かう。あの子へのサプライズの準備はまた今度にしよう。

「はーい。それじゃ寝よっかぁ。」

「今日は誤魔化されてあげます。」

「なんのことぉ?」

「いいえ。私は貴女が好きだっていう話です。」

「ふーん?」

楽しそうなオーグにつられて、フォーレンも笑った。

私の邪魔をしない子は好きよ。いつか飽きる日まで、私はオーグのお母さんなのだから。
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