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貴族令嬢たるもの礼儀正しくあるべし

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ご招待いただき指定の日にお屋敷へ訪ねると、わたくしはすぐさま自室へと案内されました。
執事のノックに応じる声の後、執事が開くより前に目の前の扉が開きます。
扉の先には、案の定彼女の姿が。

「ごきげんよう、ティアナ。待ってたわ。」
「ごきげんよう、妃殿下。」
「あら、嫌よ。前と同じく姉様と呼んで?妃殿下なんて寂しいわ。」
「では、アナベル様と。」
「姉様。」
「アナベル様。」
「ね、え、さ、ま!」
「…アナベル姉様。」
「よろしい!さぁ入って。」

アナベル姉様は笑みを浮かべてわたくしを部屋の中へと促しました。
わたくしが誘われるままに席に座ると、少しだけ眉を下げてこちらを見遣りながらお姉様は口を開きます。

「少し強引だったわね。でも、仲良くしてくださってた方々が急に他人行儀になるんですもの。分かってはいるんだけれど、やっぱり寂しくて。それもこれもエドワードのせいだわ。」
「そんなことを仰らないでくださいまし。皆様、新婚のお姉様に遠慮しているのでしょう。」
「物は言いようね、ティアナ。大丈夫よ。そのうち割り切れるもの。」
「…アナベル姉様。」
「元々私は貴女と同じくこちらと縁の薄い人間。最愛を受け取れただけでも奇跡と思わなくちゃね。そうでしょう、ティアナ?」

慣れた手つきで紅茶を淹れたアナベル姉様が、そう言ってわたくしに微笑みかけます。
わたくしはただ黙って笑みを返すことしか出来ません。
それを見て、アナベル姉様は慌てて首を横に振りました。

「あ、違うの。ごめんなさい。はぁ、こうして仲間意識を確かめようとするのは駄目ね…。今が幸せだからこそ、これが夢じゃないって実感したくて…。」
「アナベル姉様。わたくしも、貴女も、こちらで生きる人間でございます。胡蝶の夢ではありません。」
「…ありがとう、ティアナ。私の方がお姉さんだというのに、どうしてかしら、これが俗に言うマリッジブルーというもの?」
「既に結婚済みですわよ、お姉様。」
「ふふ、遅れてきたマリッジブルー。昭和の歌にありそうね。」
「あら、確かに。」

くすくすと笑うお姉様に釣られるように頬を緩めれば、お姉様がほっとした様子で頷きました。
そうなのです。アナベル姉様はわたくしと同じく前世の記憶を持ちながらこの世界へと転生した人間にございます。
…ここでは無い記憶を持つということは即ちこの世界の人間とは何処か違う気配を持つということ。
アナベル姉様は普通であろうとし続けましたが、やはり何かが違っておりました。彼女がわたくしと「同じ」である気付いたのは小さい頃の出来事で本当に偶然でございましたが、その縁あって今でもこうして仲良くさせていただいております。

「最近ティアナが色々と大変だったのを忘れていたわ。王妃様と1戦交えたとか。」
「1戦交えただなんて、そんな、大袈裟ですわ。」
「でも相対したというのは本当なんでしょう。ええと、なんだったかしら、前世で流行っていた漫画のヒロインの…。」
「メリルですわ、アナベル姉様。」
「そう、その子。いやだわ最近前世に関わる事を直ぐに思い出せなくなっていてね、歳かしら?」
「お姉様はまだそんなお歳じゃありませんでしょう。」
「ふふ、立派な行き遅れだったけどね。記憶を持ってる影響で全然そんな気しないけど。」
「分かりますわ。」

わたくしの同意にアナベル姉様は嬉しそうに頷いたあと、ハッとした様子で口を開きました。

「話が脱線してしまったわね。今は私の事じゃなくて、義甥についてよ。」

わたくしはその言葉に、何故か手紙に書いてあった鳥籠を思い出しました。
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