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元第二王子婚約者候補たるもの動揺を見せぬべし
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隣から聞こえた息を飲む音。それから痛い程の静寂。
1、2、3。
ゆっくり息を吸って、わたくしは口を開きました。
「王妃様。既にわたくしが第二王子の婚約者候補から外れた事は周知の事実にございます。」
「そうね。でも婚約者候補ではなく、婚約者になったのだと説明すれば良いだけの話だもの。」
「わたくしはファウスト・クレマチス公爵子息との婚約届けを提出しております。」
「知らないわ。」
いっそ無邪気なまでのその声に、隣の気配が揺れるのを感じます。
下げていた腰をあげ王妃様を見つめれば、王妃様は慈愛と呼ぶに相応しいであろう微笑みを浮かべておられました。
「まかり通りませんわ、王妃様。」
「あら、何故かしら?最善であると誰もが理解しているというのに。」
「いいえ。わたくし達は機械ではございません。それが最善であっても最高ではないのならば、意味などありませんわ。」
「けれど、最悪は防げる。貴女はまだ若いから分からないかもしれないけれど、」
「お、王妃様!」
王妃様の言葉を遮る形で声を出したのはメリルでした。
緊急時以外での王族への遮りは暗黙の了解としてご法度。ましてやここはプライベートスペースではあるものの王宮でのこと。
わたくしを助けるためとはいえこれは流石に…。
どうして殿下はちきんとお教えしていなかったんですの!?
「ティアナちゃん。」
「申し訳ございません。」
挨拶の際にメリルをローズ嬢と言ったのは彼女をティアナ・ローズの妹分だと揶揄したのです。つまり、わたくしの庇護下にあるのだろうと分かりやすく示したわけです。そしてそうであるからこそ、同席を許しているのだと。
謝意を述べますと、王妃様は静かに頭を横に振りました。
「いえ、いいわ。これはティアナちゃんではなくテオの落ち度ね。…リリー嬢。」
「は、はい!」
「何か言いたいことがあるようね。発言を許します。」
「ありがとうございます。…王妃様、私は縁があり、現在子爵家に身を寄せておりますが、少し前まで平民でした。」
「えぇ、知っているわ。」
「はい。故に作法も、礼儀もままなりません。当然、知識も。お二人のお話は、私には半分も理解出来ていないことでしょう。」
「それで?」
「私がテオドール様のお力になれるような秀でた事柄を示すことが出来たら、王妃様はテオドール様と私の結婚を認めてくださいますか。」
「それが有益であるのならば。」
「ありがとうございます。」
「では、貴女はわたくしに何を示してくださるの?」
微笑みを崩さぬままにそう問う王妃様に、メリルは下げていた頭を戻し、王妃様を見つめて口を開きました。
「未来を。」
1、2、3。
ゆっくり息を吸って、わたくしは口を開きました。
「王妃様。既にわたくしが第二王子の婚約者候補から外れた事は周知の事実にございます。」
「そうね。でも婚約者候補ではなく、婚約者になったのだと説明すれば良いだけの話だもの。」
「わたくしはファウスト・クレマチス公爵子息との婚約届けを提出しております。」
「知らないわ。」
いっそ無邪気なまでのその声に、隣の気配が揺れるのを感じます。
下げていた腰をあげ王妃様を見つめれば、王妃様は慈愛と呼ぶに相応しいであろう微笑みを浮かべておられました。
「まかり通りませんわ、王妃様。」
「あら、何故かしら?最善であると誰もが理解しているというのに。」
「いいえ。わたくし達は機械ではございません。それが最善であっても最高ではないのならば、意味などありませんわ。」
「けれど、最悪は防げる。貴女はまだ若いから分からないかもしれないけれど、」
「お、王妃様!」
王妃様の言葉を遮る形で声を出したのはメリルでした。
緊急時以外での王族への遮りは暗黙の了解としてご法度。ましてやここはプライベートスペースではあるものの王宮でのこと。
わたくしを助けるためとはいえこれは流石に…。
どうして殿下はちきんとお教えしていなかったんですの!?
「ティアナちゃん。」
「申し訳ございません。」
挨拶の際にメリルをローズ嬢と言ったのは彼女をティアナ・ローズの妹分だと揶揄したのです。つまり、わたくしの庇護下にあるのだろうと分かりやすく示したわけです。そしてそうであるからこそ、同席を許しているのだと。
謝意を述べますと、王妃様は静かに頭を横に振りました。
「いえ、いいわ。これはティアナちゃんではなくテオの落ち度ね。…リリー嬢。」
「は、はい!」
「何か言いたいことがあるようね。発言を許します。」
「ありがとうございます。…王妃様、私は縁があり、現在子爵家に身を寄せておりますが、少し前まで平民でした。」
「えぇ、知っているわ。」
「はい。故に作法も、礼儀もままなりません。当然、知識も。お二人のお話は、私には半分も理解出来ていないことでしょう。」
「それで?」
「私がテオドール様のお力になれるような秀でた事柄を示すことが出来たら、王妃様はテオドール様と私の結婚を認めてくださいますか。」
「それが有益であるのならば。」
「ありがとうございます。」
「では、貴女はわたくしに何を示してくださるの?」
微笑みを崩さぬままにそう問う王妃様に、メリルは下げていた頭を戻し、王妃様を見つめて口を開きました。
「未来を。」
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