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貴族令嬢たるものお茶会に参加すべし

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チクタクと部屋の時計の音だけが響く空間。
端的に申し上げて居心地が悪い以外の何物でもございませんわ。

この部屋に通されてから数十分。体感的にはもう1時間以上の気もしておりますが、その間ずっと無言が続いております。
それは何故か?簡単なことでございます。目の前に座られているこの方、パトリシア・グラジオラス王妃様が一言も話されないのです。本来ならばホストであり一番地位の高い王妃様の許可がなければ座ることも出来ないのですが、案内して下さったジェマさんのおかげで席に座ることは出来ました。
しかし王族へのご挨拶はお声掛けがなければ不可。そのため、こうして無言の時が過ぎているという訳でございます。

「………。」

チラリと視線を横に流せば緊張で顔面蒼白のメリルが震えないよう慎重にカップを手に取っているところでした。
ひとまず心を落ち着かせるために飲み物をいただくというのは良い選択ですが、今のメリルの顔色を見るに飲み込むことすら難しいのではと思ってしまいますわね。

さて、どうしたものかと思案していると、前方からカチャリという陶器の音が聞こえてきました。
あら、珍しい。
顔を向けるとお手本のような笑顔が。
なるほど、わざとですのね。

「及第点、といったところかしら。本当に残念なこと。」

思わず疑問符を口に出しそうになったメリルの手を引き注意をそらせば、王妃様から溜息が贈られます。

「…そう。いいわ。ご挨拶が遅れたわね。わたくしはグラジオラス国王妃、パトリシアよ。ガブリエルとテオドールの母と言った方が分かりやすいかしら。ティアナちゃん、ローズ嬢。ごきげんよう。」

それを合図にわたくし達は立ち上がり、やっと王妃様へのご挨拶がかないます。

「お久しぶりにございます、王妃様。ご機嫌麗しゅうお過ごしでございますか。」
「ご、ごきげんよう、王妃様。私はリリー子爵家が次女、メリルと申します。」
「ええ、知っているわ。」

そう言ってメリルに微笑んだ王妃様は、それからわたくしの方へと視線を向けられました。

「久しぶりね、ティアナちゃん。おかげさまでと言いたいところだけど、子供達がやんちゃ盛りで大変なの。」
「それは、心中お察しいたします。」
「分かってくれる?うふふ、そうよね。息子たちと仲良い貴女なら、この大変さが分かるわよね。本当に、どうしてこうもわたくしと陛下を困らせるのかしら。」

眉を下げて頬に手を当てた王妃様は、わたくしとメリルを交互に見つめます。
メリルはすっかり萎縮してしまい、どうしたらいいか分からない様子でございました。
仕方のないことです。むしろ俯かないだけ、メリルは強い子ですわ。

「…成長の一歩に成りうるかもしれませんわ。」
「成長ねぇ…そうかしら?ティアナちゃんはそう思うの?心から?本当に?」
「尊き方々の考えはわたくしには分かりかねます。」
「あらそんな他人行儀な言い方しなくていいのよ?ねぇ、ティアナちゃん。」
「なんでしょう。」
「聡明な貴女なら分かるわよね。ここに呼んだ意味。」

まるで今日の天気を話題に出すようにそう言う王妃様は、ゆったりとカップを手にして微笑みます。

突然の招集に、メリルとわたくし。そして王子の話に他人行儀という言葉。
残念ながら分からないという選択肢は初めからご用意していらっしゃらないようです。

「わたくしには皆目見当もつきませんわ。」
「やだ良いのよ、おべっかなんて使わなくても。でもそうね、きちんと口に出すことも大切だもの。分かったわ。」

王妃様は、手に持っていたカップをソーサーへと戻し、わたくしを見つめられました。

「ティアナ・ローズ侯爵令嬢。グラジオラス国第二王子テオドールの妻となりなさい。」
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