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役を終えた登場人物たるもの将来について考えるべし!
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さて、殿下がメリルにプロポーズをし、わたくしが殿下の第一婚約者候補ではなくなってから一晩明きましたところで、特に何が変わるわけでもなく、いつも通りの日常がやってまいります。
侍女に身支度を整えてもらった後、朝食を食べながら思うことは、偏にこれからどうしたらいいのか、ということでございます。
わたくし、完全に訳知り顔で皆様にお伝えしておりましたが知らぬ間にメリルへの告白が行われた以上物語はエンディングを迎えた、ということなのでしょうか。それとも、卒業パーティにて何かが起こるのでしょうか。
本当に、全く分かりませんわ。終わりならば終わりと告げてくださらないとどうしようもないと思いませんこと?
これからわたくしはどのようにして生きるべきなのでしょう。
えぇ。わたくしは今になって初めて、エンディング後の現実的な未来について考えていなかったことに気が付きました。けれど、しょうがないじゃありませんか。
筋書きは変えられないと気付いてからこちら、ずっとこの2年間のことだけを考えてきました。だからこそ唐突に終わりをみた今、こんなにもわたくしは動揺しているのかもしれません。
お間抜けさんだとお笑いになってもよろしくてよ。
「おはよう、ティア。」
「おはようございます、ファウスト様。お迎えに来ていただきありがとうございます。」
「どういたしまして。毎回律儀だよねぇ、ティアは。僕が好きでやってるだけなのに。」
「でも大変でしょう?」
「朝からティアと一緒に居られるならそこまで手間じゃないよ。」
「またそういうことを仰って…。」
迎えに来てくださったファウスト様の馬車に乗り、学園への道すがら考えるのは先の見えない不安でございました。
「今日はいつもより元気が無いね。何か悩み事?」
「悩みというか、その、将来のことを。」
「あぁ、そっか。ティアは昨日、正式にテオドールの第一婚約者候補じゃなくなったんだもんね。」
「えぇ、まぁ。昨日お父様からも聞かされましたわ。元よりあってないようなものではありましたけれど、いざ告げられると不思議な気持ちになりますわね。」
「ティアは形だけのテオドールの第一婚約者候補の名に恥じないようにって頑張ってきたから、そう思うのも無理ないよ。それで、これからのことを?」
「なんだかトゲのある言い方をされますわね。その通りではございますけれど。…急に何をしてもいいと言われるとどうしていいか、分からなくて。何方にも決められていない人生というのは少し恐ろしい気もしてきますわ。」
導無き道というのはこれほどまでに不安なものなのですね。今まではある程度なぞらえていけばよかったのです。でももうそれは出来ません。
加えて、お父様は何も心配しなくていいと仰っておいででしたけれど、正式な通達があったということは、もう既にわたくしが第一婚約者候補から外れたことは各家に伝わっているということです。
果たして何を言われるか、どう対応するべきか考えなくては。円満であることはきちんと周知しなければなりませんが、だからといって嬉々として触れ回るのはちょっと違いますし、さじ加減が難しいところですわ。
「ティアは真面目だねぇ。好きなことしたらいいんだよ。だってもうテオドールの第一婚約者候補じゃない。これからはただの侯爵令嬢として、ティアナ・ローズとして、好きなところに遊びに行けるし、好きに振舞っていいんだ。」
「好きに…?」
「そう。好きに。」
「なんでも?」
「なんでも。」
わたくしはわたくしとして、何をしたいのでしょう。
殿下の第一婚約者候補でもなく、悪役令嬢でもない、わたくしは…。
「そうだ、今日の放課後カフェにでも行く?君の好きなショコラケーキの美味しいお店があるって聞いたんだ。」
「まぁ!よろしいの?」
「もちろん。」
「ありがとうございます、ファウスト様。」
わたくしが困惑していることに気付いたのでしょう。ファウスト様の優しい提案に、わたくしは嬉しくなりました。
でも、きっと、こうして居られるのもあと少し。
ファウスト様の卒業まで、あと半年。その間に、きちんと覚悟を決めなければ。
「ティア。」
「はい?」
「卒業パーティ楽しみだねぇ。」
「はぁ、そうですわね?」
侍女に身支度を整えてもらった後、朝食を食べながら思うことは、偏にこれからどうしたらいいのか、ということでございます。
わたくし、完全に訳知り顔で皆様にお伝えしておりましたが知らぬ間にメリルへの告白が行われた以上物語はエンディングを迎えた、ということなのでしょうか。それとも、卒業パーティにて何かが起こるのでしょうか。
本当に、全く分かりませんわ。終わりならば終わりと告げてくださらないとどうしようもないと思いませんこと?
これからわたくしはどのようにして生きるべきなのでしょう。
えぇ。わたくしは今になって初めて、エンディング後の現実的な未来について考えていなかったことに気が付きました。けれど、しょうがないじゃありませんか。
筋書きは変えられないと気付いてからこちら、ずっとこの2年間のことだけを考えてきました。だからこそ唐突に終わりをみた今、こんなにもわたくしは動揺しているのかもしれません。
お間抜けさんだとお笑いになってもよろしくてよ。
「おはよう、ティア。」
「おはようございます、ファウスト様。お迎えに来ていただきありがとうございます。」
「どういたしまして。毎回律儀だよねぇ、ティアは。僕が好きでやってるだけなのに。」
「でも大変でしょう?」
「朝からティアと一緒に居られるならそこまで手間じゃないよ。」
「またそういうことを仰って…。」
迎えに来てくださったファウスト様の馬車に乗り、学園への道すがら考えるのは先の見えない不安でございました。
「今日はいつもより元気が無いね。何か悩み事?」
「悩みというか、その、将来のことを。」
「あぁ、そっか。ティアは昨日、正式にテオドールの第一婚約者候補じゃなくなったんだもんね。」
「えぇ、まぁ。昨日お父様からも聞かされましたわ。元よりあってないようなものではありましたけれど、いざ告げられると不思議な気持ちになりますわね。」
「ティアは形だけのテオドールの第一婚約者候補の名に恥じないようにって頑張ってきたから、そう思うのも無理ないよ。それで、これからのことを?」
「なんだかトゲのある言い方をされますわね。その通りではございますけれど。…急に何をしてもいいと言われるとどうしていいか、分からなくて。何方にも決められていない人生というのは少し恐ろしい気もしてきますわ。」
導無き道というのはこれほどまでに不安なものなのですね。今まではある程度なぞらえていけばよかったのです。でももうそれは出来ません。
加えて、お父様は何も心配しなくていいと仰っておいででしたけれど、正式な通達があったということは、もう既にわたくしが第一婚約者候補から外れたことは各家に伝わっているということです。
果たして何を言われるか、どう対応するべきか考えなくては。円満であることはきちんと周知しなければなりませんが、だからといって嬉々として触れ回るのはちょっと違いますし、さじ加減が難しいところですわ。
「ティアは真面目だねぇ。好きなことしたらいいんだよ。だってもうテオドールの第一婚約者候補じゃない。これからはただの侯爵令嬢として、ティアナ・ローズとして、好きなところに遊びに行けるし、好きに振舞っていいんだ。」
「好きに…?」
「そう。好きに。」
「なんでも?」
「なんでも。」
わたくしはわたくしとして、何をしたいのでしょう。
殿下の第一婚約者候補でもなく、悪役令嬢でもない、わたくしは…。
「そうだ、今日の放課後カフェにでも行く?君の好きなショコラケーキの美味しいお店があるって聞いたんだ。」
「まぁ!よろしいの?」
「もちろん。」
「ありがとうございます、ファウスト様。」
わたくしが困惑していることに気付いたのでしょう。ファウスト様の優しい提案に、わたくしは嬉しくなりました。
でも、きっと、こうして居られるのもあと少し。
ファウスト様の卒業まで、あと半年。その間に、きちんと覚悟を決めなければ。
「ティア。」
「はい?」
「卒業パーティ楽しみだねぇ。」
「はぁ、そうですわね?」
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