これでわたくしも立派な悪役令嬢に…ってちょっとそこの貴方、勝手にわたくしの役目を担わないでくださいまし！

悪役令嬢たるもの口撃すべし！

【作戦1  ヒーローの前で貶す】

リリー令嬢は貴族の令嬢としてまだまだ未熟。これを使わない手は無いですわ。

「ごきげんよう、リリーさん。」
「おはよう、リリーさん。」
「ご、ごきげんよう、ローズ様、クレマチス様。」
「まぁ、なんて初々しいカーテシーですこと。まるで産まれたての仔犬の様ですわ。」
「ローズ令嬢。」

にこりと笑いかければ見かねた殿下が割って入りましたわね。良い調子ですわ！
上位貴族…この場合は王族ですが、声を掛けられたからにはご挨拶しなければなりません。見せつけるように美しいカーテシーをして、さらに精神的に傷付けてやりますわ。
うう、ちょっと心苦しいですがこれもハッピーエンドのためですもの…！

「あらごきげんよう、第2王子殿下。お声掛けくださり嬉しゅうございます。本日はお日柄もよく、」
「口上は省略していい。名も許す。ここは平等を謳う学び舎だ。それより、リリー令嬢は学んでいる最中なのだから見守ってやれ。」
「テオドール、僕も居るんだけど。」
「おはよう、ファウスト。」
「おはよう。」
「ありがとう存じます、テオドール殿下。わたくしのこともどうかティアナとお呼びください。」
「…ティア？」

ファウスト様不敬ですわよ！どうして貴方が不機嫌そうなんですの。今はファウスト様の機嫌を伺う暇は無いんですのよ。
とにかくここはあえてお名前にだけお返事させていただきます。中々の意地悪ではなくて？

「分かった。ティアナ嬢、リリー令嬢は、」
「あの、すみませんティアナ様。まだ全然上手く出来なくて。」

リリー令嬢の反応は、漫画の通り悲しげですわ。名前を呼ばれるのも想定内。けれど殿下のお言葉を遮るのはよろしくなくてよ！ファウスト様は殿下のご友人であらせられる故に許されておりますの。まぁ殿下の様子を見るに、大丈夫そうではありますけれど。

「ティアナって呼ぶのはいいけど、ティアは駄目だよ？僕だけの愛称だから。」
「いえ親もそう呼んでますわファウスト様。リリーさん、いいんですのよ。最近まで市井の臣でしたものね。」
「は、はい。」
「慣れないことばかりで色々大変でしょう。けれど挨拶は大切ですわ。何をもってしてもまずはご挨拶から始まりますもの。ほら、まず腰をもっと落としなさい。下を向かない。肩の力を抜いて…あらあら震えてましてよ？それでは見苦しくみえますわ。」
「ティアと比べたら誰だってそうだよ。」

ファウスト様はお黙りになって。
まだ及第点には程遠い箇所を指摘することで更に心を追い詰める作戦ですのよ。この後は殿下に慰めてもらいなさいね。頼みましたわよ、殿下！

「はい、頑張ります！ありがとうございます、ティアナ様。」
「…いいえ。不慣れな方への指導も義務ですから。」

あら、何故お礼を言われたのかしら。ここは羞恥で顔を赤らめるか、悲しい顔で謝るところではなくて？まさかもう表情統制を覚えていらっしゃる？

「また是非ご指導くださると嬉しいです。」
「私からも頼む。ティアナ嬢。」
「殿下のお心のままに。」
「僕との時間が減るから嫌。」
「ファウスト様！不敬ですわ！」
「仲がいいんですね、羨ましいです！」

ニコニコの笑顔、可愛いですわ…ではなく、これは失敗ですわね。今度はファウスト様が居ない時にしましょう。