死が二人を分かたない世界

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真里編:第4章 願望

異常性

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 ぼんやりではあるが思い出してきた、黒くて大きな犬が雪景ゆきかげを守るように寄り添っていた姿を。
「そうか……そうだ、ユキには犬の神様が憑いている! 祟り神……? 祟り神ってなんだ!?」
「……何!?」
「だからユキの耳だけあんな……?」
「ちょっと! なんの話!?」
「ユキに憑いている神様の話でしょ?」
「神様!? なんでそんな事!」

 聖華せいかに掴まれた肩が一瞬浮いて、改めて畳に押し付けられた。痛みで今の状況を思い出す、完全に思考がユキの事に集中してた!

「アンタ……本当にユキさんのなんなの!?」
「だから、ユキの眷属けんぞくだって……!」
 静かな和室にパァンと大きな音と衝撃が響く。
 ユキに教えてもらった時は、空気が弾けたくらいだったそれは、相殺した魔力量の違いからか、予想以上の反動が返ってきた。聖華の両腕の強化魔力を"相殺"、無力化に成功した!
 衝撃で聖華が仰け反り、押さえる手が一瞬離れた! その隙を見逃さないよう、自分の腕を強化し聖華を横に放り投げる。

 相殺したことで強化の仕組みを理解出来た、自分より大きい聖華がぬいぐるみのように軽い。倒れ込んだ聖華を背中から押さえつけるように組み伏せる、自分でも驚くほど頭に描いた通りに体が動いた。
「なっ! アンタ昨日悪魔になったんじゃ!?」
 聖華を抑え込んだのであとはユキと話し合ってもらおうと、ポケットに入れたインカムのスイッチを入れる。暴れようとするので念のため後ろ手で押さえている腕を、両手と足で上から乗るように更に押さえつけた。
「痛いっ!」
「しばらく我慢して」
「……っ悔しい、ユキさん会ってもくれないのに……話もできないのに……アタシを見て欲しいのにっ! 負けちゃった」
 聖華がわんわん泣きながら負けを認めた、悪魔社会は実力主義とはいえ、結局力技になってしまった……申し訳ない気持ちにはなるが、だからといって僕の貞操を差し出すわけにはいかない。

「うっ……最後の力、振り絞ってでも!」
 押さえつけた背中が少し浮いてくる、また体を強化して無理やり抜け出ようとしているようだ。
 どうしよう、自分の両手は塞がってるし、自分を強化したまま相手の力を相殺する方法がわからない!
「聖華! もうやめよう!」
「いやよ! こんな惨めな思いするくらいなら消えたっていい!」
 聖華が頭を中に入れて、体全体で僕を持ち上げようとした時、視界の端が淡く光って何度も見た黒いブーツが視界に入った。

「もうやめておけ、魔力が底を尽きかけてる」
「ユキ……」
 見上げると少し困った顔のユキが立っていた、また心配させてしまっただろうか……。
 ユキが聖華の頭に手をかざすと、全身を強化していた魔力が聖華の体に吸い込まれるように吸収されていった。ユキに手を差し出されて、促されるように聖華の背中から降りる。

「ユキさん……違うんです! アタシだって眷属だったら真里なんかに負けない!」
 聖華が被害者ぶって乙女座りの上目遣いでユキに泣きついている……さっきまでの暴れっぷりはどこへ行ったんだ! 驚くほどの早変わりに半ば呆気にとられながら、耳隠しのためのフードを脱いだ。

「お前が直血悪魔になったとしても、真里に勝つのは……難しいだろうな」
「そんなのやってみないと……!」
「分かるよ、お前と真里じゃ魔力量の桁が違う」
「「えっ!?」」

 ハモったのはいまだ悲劇のヒロイン風の聖華と、僕だ。

「なんでアンタまで驚いてんのよ!」
「だって、初耳だったから」

 そんな僕達のやり取りを見ながら、ユキが可笑しそうな、安堵したような声で少し笑った。

「なんだ、意外と仲良くなってるな」

 ユキの発言に聖華はプイッと僕からそっぽを向いた。否定はしないんだ……と聖華の僕への印象が思ったより悪くない事に驚いた。

「聖華より僕の方が魔力量が多いのは、普通よりたくさん力を貰った直血悪魔だからじゃないの?」
「違うな、悪魔になる時に魂に悪魔の力を加えることで、魂……素体の力が魔力に変換されるんだが」

 ユキはうーんと少し悩むような仕草をして、僕にチラッと目線を合わせてから、決意したように続ける。

「真里の素体の魔力量は、俺より多い」

「「はっ!?」」
 またハモった。

「俺は真里を眷属にする時に、魔王様から与えられた魔力量の1/3までしか与えてはいけないと制限されたが……俺と真里の今の魔力量はほぼ同等だ」
「やだっ! 魔力お化けじゃない!」
 人をお化け扱いとは失礼にも程がある。

 ユキが腰に手を当ててはぁーとため息をついた。
「本当は言いたくなかったんだ、俺の偉大さが薄れるだろ! もっと真里に惚れて欲しいのに格好がつかない!」
「何言ってんの、これ以上どうやって惚れろって言うんだよ……」
 ユキの発言に僕は腕を組んでジト目で返した、ユキの口元が若干緩んでいる……うん! 可愛い!

「分かったわよ! もう見せつけるのはやめてー!」
 依然乙女座りの聖華はそのまま畳に突っ伏して喚き始めた……聖華には悪いがわざとやった、ユキは僕のものだからね。

「……真里のプレッシャーは、ユキさんと比べて全然怖くないですよ? そんなに魔力量が多いなんて信じられない」
「そりゃぁ、真里が本気で怒ってないからだろ」
 聖華は納得いかないような顔をしているが、確かに……ピンチだなとは思ったけれど、そこに怒りとかは無かった気がする。もっと辱めを受けてれば流石に怒っただろうけども、結局大して何をされたわけでもない。
 むしろ聖華が教えてくれた事には、感謝したいくらいだ。

「真里の魔力量が多いのは……あの異常な魂の転生回数のせいですか?」
 聖華がその一言を放った後、一拍シンと怖いくらい静かになった部屋が暗くて冷たい空気を纏う。
「見たのか?」
「——ヒッ!」
 ユキが聖華を睨んだ、僕でも分かる刺されるようなプレッシャーに背中に寒気が走った。ユキが聖華の頭を鷲掴む、ダメだ! この雰囲気は危ない!
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