はぐれた君と耐える僕

沙羅時雨

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第一章

抱えたもの

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『久玲奈ちゃんの両親が亡くなったのが、大体ひと月前っていうのはお前の知っている通りだ。もっと正確に言うのなら7月12日。彼女の誕生日に亡くなったんだ。』

「!?」

『それも間が悪かった。彼女の誕生日プレゼントとケーキを買って帰ろうとしていた矢先にあの事故が起こった。・・・当然のように彼女は自分自身を呪った。自分が生まれてしまったばっかりに両親は死んでしまったのだと。自分のせいで両親は死んでしまたんだと。当然そんなのただの偶然以外の何物でもない。・・・そう言ってあげられる誰かがそばにいて上げられれば良かったのかもしれない。でも、そんな奴なんて一人もいなかった。それどころか、この事実を知ったほかの親族の一部の人間は彼女を不吉な娘だと嫌悪した。この一か月間彼女は自分に寄り添ってくれる人がいなかったどころか、自分の存在を肯定してくれる人すらいなかったんだ。・・・今思えば私か母さんが仕事を休んででも近くにいてあげればよかった。と後悔している。』

「・・・。」

 人間なんていつ死ぬかなんて誰にも分らない。明日かもしれないし、もっと先の話かもしれない。そしていつか死んでしまったとしてもそれはただの偶然の重なった結果だ。でもそれは自分が死ぬときの話であって、残された側になった時、仮に彼女のような状況に陥ったとして僕はどうするんだろう?・・・きっと何もできずに自分の殻に閉じこもってしまうだろう。まぐれだった。間が悪かった。一言で済ませる言葉ならいくらでも思いつく。ただその言葉を受け入れることができるかどうかは別の話だ。

『俺が知ってるのはここまでだ。投げやりになるし、お前に預けたことも本当に申し訳ないと思っている。ダメな父親を許してくれ。』

「そんなことない。きっとそこで父さんたちが久玲奈ちゃんを引き取ってくれてなかったら俺は父さんをそれこそ軽蔑してたと思うよ。」

 うちの親族は昔から自分の事しか考えない人が多くほとんど絶縁状態だった。そんな人たちと父さんを同列として見たくない。

『そうか。お前は本当に真っすぐに育ったんだな。母さんがお前の心配をしないのに合点がいったよ。』

「母さん図太いからじゃないの?」

『お前何言ってるんだ?母さんはああ見えてかなりの心配性なんだぞ?ただ、仕事とかでお前の近況報告が聞けなかった時とか母さんに聞いたらお前の子と嬉しそうに話してたな。大丈夫かな?なんて言葉お前の事では聞いたことなかったな。』

 驚いたそこまで信用されていたとは。

「なら、僕は今回久玲奈ちゃんの事を母さんから任されてるんだから、しっかりその信頼に答えなきゃね。」

『どうするかは決まったんだな?』

「うん、ありがとう。」

『そうか。ならお休み。明日明後日は休みだって言っても少しドタバタするだろう?しっかり寝ておけよ?』

 分かってる。そう返事を返して僕は電話を切った。具体的に久玲奈ちゃんとの関係をどうするかなんて言うのはまださっぱりだけど、彼女に歩みよる、少しでも寄り添う努力をしようという決心をして、床に就いた。

 
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