上 下
24 / 51

12-1

しおりを挟む


「んんっ……」
 
 寝返りをうとうと少し動くだけで体の節々がきしむように痛くて目が覚めた。
 腰周りは特にひどい。
 腰をさすりながら、枕がなんだかやけに硬いな、なんて思ったら、岩かと思うほどの腕の筋肉の塊を枕にしていた。
 首だけで振り向くと、精悍な彫りの深い顔がそこにある。
 野生的な雰囲気は落ち着いて、大人しいペットのように穏やかに寝ている。
 いつも男らしく、威圧感でいっぱいになっている時とは違った無防備なその姿を晒していた。
 心を許してくれている証のような気がして愛おしく感じた。

 (やっぱりかわいく見える……)

 意外な一面を次々と発見して嬉しくなる。
 ふふ、と笑みが込み上げできた。
 ちょんちょん、と高い鼻先をつついてみる。

 ロヴィスが少し眉根を寄せて、ん~、と体を動かす。
 すると、上に申し訳程度にかかっていたシーツがずれた。

「わぁっ!」

 びっくりして顔を背けて目を覆った。
 朝の生理現象か、ロヴィスの立派なモノがさらに立派になって天井を向いているのを見てしまった!

 昨日して、そのまま寝てしまったから裸同士なわけで……。
 だが本当にロヴィスのはずいぶん立派な代物だ。
 暗いところで見ても相当のモノだったが、明るいところで見てもやっぱりすごかった。
 脈打つように血管がビキビキと浮き出ていて大きく太く張り出していた。
 強い雄の象徴。
 色だってあんなに濃くて、あれが自分の中に……。

 昨日のことを思い出してアルブレヒトは頬が熱くなった。
 ロヴィスから背を向けながら、熱を持った頬を冷やそうと頬を覆った。

「ひゃ……っ」

 大きな巨体が背中側にあたり、太い腕に体をギュッと抱き込まれる。

「おはよう、愛しい人」

 甘ったるい重低音が耳から入って、アルブレヒトの体をおかしくさせる。
 密着した肌と肌がぴったりとくっついて、相手の熱も鼓動も、全てが伝わる。
 ごりっ、とアルブレヒトのお尻に固くて大きいモノが押し付けられた。

「やぁ、っ……」

 こっちだって裸なので、直接熱い猛りがお尻の隙間に生々しくあたる。

 ぐりぐりと腰を動かしてソレを主張してくる。
 昨日散々したっていうのに元気すぎる。
 体力ありすぎるだろう。
 飛竜を乗り回して軽々と凶悪な魔物たちを蹂躙する姿を思い出せば、自分との体力の差は当然だけれど。

「も、これ以上は……っ」

 朝から受け入れるなんて無理だろう。
 今だって体が悲鳴をあげているっていうのに。
 
「昨日は無理をさせたからな、朝からはしないよ」

 口ではそんなことを言っても下半身はそうは言っていない。
 ごりゅっ、ごりゅ、と擦り付けて押し付けられながら、うなじや首筋にキスされる。
 自分の体は朝は特に敏感になるようで、うなじに唇を寄せられるとゾクゾクとした悪寒のような激しいピリピリした感覚が体中を巡った。

「ひ、ィあ……」

 舌を皮膚に押し付けてねっとりと味見され、ぬるぬるとした感覚を味わった。
 
「だが、お前の体を知っては……もう我慢なんて到底無理だ。今夜もここへ来るから、そのつもりでいろよ」
 
「そんなの……だめです……」

 そんなの健全じゃない。
 婚約の話を断ったのに体だけ繋がるなんて、そんなふしだらな関係はいけない。

「アルブレヒト、俺の最愛よ……もう後戻りはできないんだ。わかるだろ?」
 
「ンン……ッぁ……っ」
 
 ぐぐっと先端が押し込まれてる。
 だが入れる気がないのは本当のようで、中に無理矢理入ってくることはない。
 でもこのままひと押しして中に押し入ってきたら拒むことは難しそうだ。
 中は昨夜十分にほぐされているから入ってしまうだろうし、自分もきっと受け入れてしまう。

 だがそんな考えとは裏腹に、ロヴィスはすんなりと体を離した。

「俺は自分の部屋へ戻って着替えてから食事室へと向かう」

 苦しいくらいにがんじがらめに巻き付ついていた腕が引いて、体が解放される。
 くっついていた暖かく心地よい熱がすぐさま消えてしまったかのようだ。
 
 体の拘束を解かれて安心するべきなのに、なぜか気持ちが上がらない。
 
「あ、……そうなのですね」

 一晩一緒にいたからか、離れることがとても寂しく感じてしまい、ロヴィスと離れたくないと思った。
 それが顔にも声のトーンにも出てしまって、自分でも言葉が出てしまった後にハッとした。
 
「ん? なんだ、朝食の席へと一緒に行きたいのか? とても嬉しいお誘いではあるが、それは流石にあからさますぎやしないか?」
 
「そ、そういうわけではありませんっ!」

 一緒に食事室へ向かうだなんて、同衾しているとみんなに言っているようなものだ。
 なんて破廉恥だ、と周りからは思われるだろう。

「ふ、怒った顔も可愛いな……」

 (またからかわれた……!)

 ロヴィスは冗談を言ったのに、それにまんまとひっかかって過剰に反応してしまうアルブレヒトの悪い癖だ。

「名残惜しいが、このままだと本当にまずい。もう出るよ」

 ちゅっ、とリップ音を大袈裟に出して、むくれた頬に唇を落としていった。
 さらりと指の甲でアルブレヒトのぷっくりとした唇をなぞった後、またちゅっ、ちゅっ、と唇を落としてからロヴィスは今度こそ出ていってしまった。

 ベッドに一人残されて、シーツにくるまった。

「ああ~! なんで僕は拒まなかったんだよ~!」


 (自分の全てを隠してしまいたい……!)
 
 体なんて繋げてしまってはいけなかったのに、拒めなかった。
 好きな人の艶っぽい色気を目の前に迫られれば、自分のちっぽけな意志などひとたまりもなく消し飛んだ。
 呆気なく喰われてしまった。
 だがそれを許したのは自分自身だ。
 拒もうと思えば拒めたのに。
 好きなひとに求められて、体が反応して、最後には自ら求めてしまった。
 後悔と幸福感がせめぎ合って感情がぐちゃぐちゃになっている。

 さっきは名残惜しそうにキスを落とされて嬉しかった。
 もっとキスしたくて自分から口を寄せたくらいだ。だけど、結局離れていってしまい、今は寂しさが込み上げる。
 暖かかった温もりがまた消えてしまってぽっかりと心に穴が空いてしまったかのよう。
 
 そこを埋めることができるのはもう一人しかいないのに。
 だけどまだ受け入れる決心などついていない。
 どうすればいいか、答えを出せずにいた。

 
 密着していたロヴィスの肌の熱さを思い出してはぁ、と熱い吐息を吐いた。
 まだ後ろに入っているかのような違和感を感じて、切ない声をあげそうになってしまう。
 とりあえずのところは、アルブレヒトはゆっくりとベッドから抜け出して冷たいシャワーで体の熱を取り去った。




しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...