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しおりを挟む「俺は条件を守った。お前も守れよ」
空のお散歩を終えた後、紳士に部屋まで送ってくれたロヴィスが、そうアルブレヒトに釘を刺した。
「う、……で、でも……」
約束は約束だが、ここにきて尻込みしてしまう。
シュタルクに乗せてくれたら、ロヴィスのものになる――つまり、この男に抱かれるということだろう。
そう条件を出したのはアルブレヒトだ。
だが、断られると思ったからこその条件だったのに。
何も言えないアルブレヒトの腰をぐっと抱き寄せて顔を近づけてきた。
またあのドラゴンアイだ。
薄い金に輝く瞳は、奥に優しさを宿しながらも、強い力でアルブレヒトを引き寄せる。
そのキラキラとした薄い金色に目が離せなくなった。
しばらくすると、ロヴィスの口元が、ふ、と笑って彼の指先がアルブレヒトの唇をおさえた。
「今日は目をつぶらないのか? 残念だな。やっとこの唇を堪能できると思ったんだが」
「……っ」
わざわざそんなことを言わなくてもいいのに!
唇を触っていた指がずるっと下に降りて、アルブレヒトの白い首筋から鎖骨をなぞる。
するりと胸元をかすめた。
「あ……っ」
敏感なところに指先があたり、思わず声が漏れてしまった。
腰に太い両腕が回され、ロヴィスの下半身をアルブレヒトのお腹あたりに当てられる。
ロヴィスのソレは、しっかりと固くなって熱を持ち、立ち上がっているのがわかった。
「や、やだ…………っ」
ロヴィスの口元は少し開いていて、いつでもアルブレヒトの唇に吸い付けるように準備しているかのようだった。
ちろり、と舌が出てきてロヴィス自身の上唇を舐める。
その仕草が艶かしくて、見ていられなくて視線を逸らした。
だが、目だけは閉じてはだめだと、しっかりと開いたままにして。
ロヴィスは、パッと腕を放し、両腕を頭の横に上げたまま大きく一歩下がった。
「あ、え……?」
「嫌なら、無理強いはしないさ……今はな」
今はって……ことは、やっぱりいつはすることに……?
「今日はこのくらいにしておいてやるよ。じゃあ、後でな」と踵を返した。アルブレヒトの返事を待たず扉を閉めてその場をすぐに離れていってしまった。
「なっ……」
なんなんだ!
あんなに強引にことを進めて距離を詰めてくるのに、いざとなると、アルブレヒトが少し拒否の言葉を口にしただけであっさりと引いていってしまうロヴィス。
目なんかつぶらなくても、強引に唇を奪ってくるものだと思っていた。
そして、それ以上のことも……。
体が熱く火照っている。
両腕で自分の体をぎゅうっと抱きしめた。
期待したように体が熱くなっていた事実に、アルブレヒトは目を背けたくなった。
無理強いしてこないということは、僕のことを好きなんだろうか……。
それともやっぱり愛人にしたいだけ?
アルブレヒトはロヴィスの考えていることがわからなかった。
わからないからこそ、ロヴィスのことを考えてしまう。
わかりたいと、そう願ってしまう。
こんな思考は、完全にロヴィスの思う壺だと思った。
それがわかっても、気になって気になって、仕方がない。
思い浮かぶのは全て、ロヴィスのことだらけになってしまった。
太い首筋から鎖骨、広い肩幅、引き締まって筋肉のついた体。
腰回りもキュッとしているが細すぎない、むしろ太めで安定感がある。
あの体に抱きしめられて熱くて低い声を耳元で聞いてしまったら、腰砕けになってしまいそうだ。
意地の悪い顔や粗暴な口調だか、ロヴィスは一度だってアルブレヒトを傷つけることを言ったことはない。
頭をかかえて、脳内からロヴィスを追い出そうとしても、結局考えてしまって出ていってはくれない。
どんな魔法を、ロヴィスはアルブレヒトに使ったのだろう。
「あぁああ! もうっ!」
部屋の中に残されたアルブレヒトは、一人自分の部屋のベッドにぽすっとダイブした。
そして思い出すロヴィスの姿は、いつもの意地の悪いロヴィスだけではなく、子どもっぽくて、可愛らしい一面を晒していたロヴィスの顔も浮かび上がってきた。
拗ねると、あんなに可愛くなるんだ。
ふ、と思い出し笑いをした。
そして、触れられた唇に、ロヴィスの指の感触を思い出して自分でも触れてみる。
トクトクと、心臓が鳴っているのが聞こえてくる。
その音はしばらく落ち着きそうにもない。
一体全体、自分はどうしてしまったのか。
「ほんと、僕はどうしちゃったんだよ……」
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