上 下
28 / 31

番外編 19-1

しおりを挟む

 
「今日こそは、屋台で串焼きを食べる!」


 

 ということでやってきた屋台街。

 お休みの日の日のお昼、スミスさんと一緒に今日は食べ歩きをするのだ。

 目の前にはずらりと食べ物屋台が立ち並び、人がたくさん行き交って賑わいを見せている。

 一歩一歩進むごとに屋台と人の熱気が肌で感じられる。香ばしい香りや音が聞こえてきてワクワクさせられた。
 
 リオの横領の証拠を見つけたってことで、今回いつもより多めに給料が支払われたんだ。特別ボーナスだ。なので心置きなく串焼きを食べられる。

 初日に食べ損ねた王都名物のコカトリスの串焼きを食べなければならない。
 本日の俺の使命だ。

 そしてスミスさんの食べたがっていたガレットも食べないと。

 ふわふわな足取りで、今にも走り出しそうな俺の手をスミスさんが握る。

「イチゴ、人が多いからはぐれないように手を繋いでて」

「う、うん」

 番いになる前だったら子ども扱いされてんなーって思ったけど今は違う。

 スミスさんは、番いとして俺の隣にいてくれてるんだってわかる。

「今日は俺が奢るからなースミスさん!」

「よろしく頼むよ」

 スミスさんはにっこりと笑ってピッタリと俺の横にくっついて歩く。

 (うわ、距離が近っ……!)

 めでたく番いになったとわかった後、田舎に帰るのは取りやめになって、正式にスミスさんと同棲することになった。
 
 そして番いになってから、スミスさんの優しさにさらに甘い顔や言葉が追加されて、俺の心臓はもたなくなってきている。

 四六時中、ドギドギと心臓が飛び出してきそうなほどだった。

 でも幸せで、好きな人と一緒にいられるのってこんなに満たされるものなんだって実感した。
 好きって気持ちが溢れすぎてるけど、相手がスミスさんだから安心して甘えられるんだ。
 
 

 そういえば、リオは捕まって投獄されたけど、その後のことはわからない。
 聞いても教えてくれないんだよな。ヘレフォード副団長に聞いても、「スミス団長に聞いてください」の一点張りだったし。

 スミスさんに聞いても、「機密事項だから言えないんだよ、ごめんね」と申し訳なさそうに言われてしまった。
 そう言われてしまうとそれ以上はもう聞けなかった。
 ただ、もう牢からは二度と出られないからリオが俺に危害を加えることはないとも言われた。

 リオの家の、ぱるどぅすと家?が俺になんかしてくるんじゃないかって心配もあったけど、リオが捕まって芋づる式に今までのお家ぐるみの悪事が明らかになったらしい。

 昨日も本当は土の日で休みのはずだったけど、その騒動もやっと落ち着いたので、今日はスミスさんと一緒にゆっくりできるって訳。

 

 2人で屋台が左右に立ち並ぶ道を歩いていく。

 串焼き屋って何店舗もあるからどこで食べればいいのか悩む。
 だけど、王都にきた初日に食べそこねたおっちゃんのお店で食べたいんだよな。

「確か、ここらへんだったかな?」

 屋台街の端っこの方まで歩いておっちゃんの店をみつけた。

「おっちゃん! 串焼き2本ね」

「お! あん時のニイちゃんじゃねぇか。財布は見つかったか?」

「おっちゃん、俺のこと覚えてんの?」

 毎日色んなお客を相手にするから、俺のことを覚えてくれているとは思わなくて驚いた。

「こーんなかわい子ちゃんを忘れるはずがねぇよ。今日はサービスだ。隣のあんちゃんの分もつけといてやるよ」

 かわい子ちゃんて……本当に王都の人はみんな俺のこと子ども扱いしてくるよな。

「ありがと!」

 でも好意は素直に受け取っておく、それが俺のモットーだ。

 じゅうじゅうと肉の焼かれるいい匂いがただよってきた。
 おっちゃんが、串焼きに付いている肉にタレを塗りたくる。
 じゅわー!っと勢いよく音がして、タレの焼ける香ばしい香りがあたりに充満していく。
 
 早く食べたーい!

「へい、おまちどーさん」

 熱々のコカトリスの肉をほふほふと口で冷ましながらかぶりついた。

 タレがべっとりと頬に付くのも構わずだ。

「うんまー!!」

「うん、美味しいね」

 スミスさんも大きな口でワイルドに、肉を串から引きちぎって食べていた。
 口の横についたタレを親指で拭って舐める仕草がむちゃくちゃカッコイイんだが?!
 この人が俺の番い、パートナーってまだちょっと信じられない。

「イチゴ、ここに付いてるよ」

「え? どこ?」

 俺も指で口元を拭ってみたが、取れなかったみたいで、スミスさんが指で取ってくれた。

 そして流し目で俺を見つめながら舌を出して指をペロリと舐め、口に含む。

 ……うん、すげーえっちだ。

 俺の顔は今絶対に真っ赤になってる。
 

 串焼きを食べ終えた俺は大満足だった。

「おっちゃん、また食べに来るね。今度はちゃんとお金払うからさ」

「お、おうよ」

 食べ終えて挨拶すると、なぜか声が引き気味の串焼き屋のおっちゃん。表情も最初よりか怯えている気がする。
 俺の方を見て怯えてたよな? ……俺ってそんな怯えるほど食べ方が汚かったかなぁ、とちょっとだけショックを受けた。

「ん? スミスさん? どうかした?」

 隣でスミスさんがさっき食べ終えた屋台を食い入るように睨みつけていたのに気づいた。
 
 そんなにさっきの串焼きか気に入ったのかな?

「……なんでもないよ。ちょっと威嚇をね」

 なんで屋台に威嚇?
 もう串刺しになったコカトリスにも警戒すんのか獣人って??

 まだまだ獣人の生態がよくわかってない。
 ま、これから先長いし、ゆっくりお互いのことを知っていけばいいかなー、なんて思ってる。
 
 だから今は次の屋台を目指すことにした。

「スミスさん、次はガレット焼き食べに行こう」

「うん、楽しみだ」

 どちらともなくぎゅっと手を繋いで歩く。

 歩いていると、食べ物や飲み物の屋台だけじゃなくて、的当てゲームや、アクセサリーを売っている。色んなお店が出ていて見ているだけで楽しい。

 その中で、俺はアクセサリーを売っているお店が気になって立ち止まった。
 そのお店では、色んな色の石がネックレスやピアス、髪飾りなどにアレンジされて広げられていた。

 その中で、俺は薄茶に光る石がついたピアスがすごく気になった。

 別にアクセサリーとかほとんどつけたことないし興味もないんだけど、なぜか惹かれた。

「気に入ったなら買おうか?」

 いつのまにかピアスを覗き込んでいた俺の横に、ひょこっとスミスさんが顔を出した。

「あ、いや……そんなつもりじゃなくて」

「すみません、これください」

 さらっとスミスさんは俺が気になった薄茶色の石のピアスを購入していた。

 俺が戸惑っていると、

「今日のデートの記念にプレゼントさせてよ」

 って恋人っぽいことを言ってきた。

 スマートすぎる。
 これ以上俺を惚れさせてどうする気?!
 
 獣人であるスミスさんにとって、番いは恋人や夫婦以上に結びつきが強い関係なんだって前に言ってた。

 番いっていうのは生涯のパートナー。
 一生を共にする相手となるもの。
 
 俺は恋人もいたことなかったし、番いっていう感覚もまだいまいちわかってないけど、スミスさんが俺を1番に考えてくれていて、大事にしてくれていることは毎日ひしひしと感じている。

 だから、おれもその気持ちに応えていきたいし、スミスさんを喜ばせたいなって思うんだよね。
 日々、好きって気持ちが強くなって更新されていく感じ。

 ちょっと勘違いで番いになるプロポーズの言葉を受けちゃったけど、このまま俺の気持ちもスミスさんに追いつけばいいなって思うんだ。

 でもさー、スミスさんに追いついたって思ったら、いつのまにかスミスさんの俺への好きがとんでもなく大きくなっているんだよな。

 俺が追いつける日は来るのかな?


 スミスさんが、買ってくれたピアスを俺の手のひらにのせてくれた。俺はそれを手のひらで確かめる。

 この明るくてキラキラした薄茶色が、スミスさんの髪と目の色にそっくりだ。

 俺はピアスをその場で着けてみた。

「見てースミスさん。ほら、似合う?」

「とっても似合ってる」

 ニコニコと満面の笑顔で俺に笑いかけてくれる。最高のデートの記念だ。

「これ、スミスさんの色だよね。だから気になっちゃったんだ。ありがとね、スミスさん」

 耳に付けたピアスの石をいじりながらそんなことを言ってみた。
 
 

 
 
 
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【短編】眠り姫 ー僕が眠りの呪いをかけられた王子様を助けたら溺愛されることになったー

cyan
BL
この国には眠りの呪いをかけられ、眠り続ける美しい王子がいる。 王子が眠り続けて50年、厄介払いのために城から離れた離宮に移されることが決まった頃、魔法が得意な少年カリオが、報酬欲しさに解呪を申し出てきた。 王子の美しさに惹かれ王子の側にいることを願い出たカリオ。 こうして二人の生活は始まった。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

前略、これから世界滅ぼします

キザキ ケイ
BL
不公平で不平等で、優しくない世界にはもううんざりだ。 俺、これから世界滅ぼします。   職場、上司、同僚、恋人、親、仕事と周囲を取り巻く環境に恵まれない下っ端魔術師ヴェナは、ついに病を得て余命宣告までされてしまう。 悪夢のような現実への恨みを晴らすべく、やけくそ気味に破壊を司る「闇の精霊」を呼び出し、世界を壊してもらおうと目論んだ。 召喚された精霊はとんでもない美丈夫。 人間そっくりの見た目で、しかもヴェナ好みの超美形がいつも近くにいる。 それだけでもドキドキしてしまうのに、なんと精霊は助力の対価にとんでもない要求をしてきたのだった────。

正しい風呂の入り方

深山恐竜
BL
 風呂は良い。特に東方から伝わった公衆浴場というものは天上の喜びを与えてくれる。ハゾルは齢40、細工師の工房の下働きでありながら、少ない日銭をこつこつと貯めて公衆浴場に通っている。それくらい、風呂が好きなのだ。  そんな彼が公衆浴場で出会った麗しい男。男はハゾルに本当の風呂の入り方を教えてあげよう、と笑った。

処理中です...