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「いい加減にしろ、リオ。行商人からの証言もある。管理簿に記載してあるサインもお前のもので間違いなかった。しっかりと調べはついているんだ」
「う、いや……ちがう……俺じゃない……、、、ソイツだ……その東の民がやったんだ! 俺じゃない!」
往生際が悪すぎる。
しかも俺かよ。他人に罪をなすりつけるにもほどがある。無理があるだろ。
「横流しはイチゴが王都に来る何年も前から行われていた。大人しく罪を認めろ」
「くそ……なぜだ団長! そんな移民族がどうなったって構わないだろ! あなたのような獣の血が混じる強い存在に相応しいのは俺だ! そんなゴブリンみたくチビで地味で、不細工な薄汚い東の民なんか似合わない」
ペラペラと団長と自分がいかにお似合いなのか、そして俺がどれだけ小汚い存在なのかを説いてくる。
確かに王都民たちと比べるとチビだけど、不細工は言い過ぎだろうが!
つーか、今はお前の方がブッサイクだし!
顔はスミスさんのせいでボコボコに腫れ上がって、お前の方がゴブリンみたいだぞ。
とても見られたもんじゃないのはお前の方だ!
ちなみに、ゴブリンってのちっちゃくて醜悪な顔をしたモンスターね。めっちゃ体臭、口臭がクサイことで有名。
「ゴブリンみたく不細工なのはお前の方だろう。性格が歪みまくって、どうしようもないな。このイチゴの可愛さがわからないとは……いや、でもみんなが可愛いと思うよりはいいのか……? いやでもな、この可愛さをみんなに知ってほしいという気持ちも……」
ごにょごにょと独り言を呟き始めた。
「あの、スミスさん……?」
一体何を言ってるんだ。
頭がおかしくなっちゃったのか?
俺が可愛いとか言ってるし。
それにお姫様抱っこされたままで居心地が悪いから早く離してほしい。
「ああ、すまないね。早く家に帰って足の手当をしよう」
俺を覗き込む眼差しは特別優しく感じる。
「スウィッツァラルド団長!」
まだリオが叫んでいる。ヘレフォード副団長が暴れるリオを取り押さえる。
「リオ、騎士団の所有物を横領した罪は軽くない。そして王国民を種族や出自で差別することは、騎士としても失格だ。それに、牢の中に入った者が、どんな目に遭うかは知っているだろう?」
「ひっ、そんな……うそだ団長! ちょっと備品を売っぱらっただけじゃないですか! 本気で俺を捕まえるつもりですかっ」
「売っていたのは備品だけじゃないだろうが。人身売買……小さな子供や身寄りのない孤児を攫って犯罪組織に売りつけていたことを知っているぞ」
「な、なんでそれを! く、……しょ、証拠はないはずだ!」
「だから、横領罪と傷害罪だと言っている」
ちゃんと話を聞けと言わんばかりに呆れた顔でリオを見下す。
「傷害罪は大した罪にはならないかもしれないが、国の物に手を出したんだ、王都騎士団の所有物の横領は罪が重い。そして、騎士が他の一般犯罪者と一緒に牢屋に入るんだ。お前も見たことがあるだろう? 彼らがどうなるのか……。自らの愚かさを、一生をかけて塀の中で後悔するんだな」
牢屋の中でどんなことが起きるのか、俺は知らないが、リオにはそれが想像できたのだろう。
真っ青な顔になっていく。
「い、いやだ……! うわぁぁぁああぁぁ!」
ずるずるとヘレフォード副団長に問答無用で引きずられていった。
◇
俺たちは(というか俺が主に)王国民に好奇の目で見られながら家にたどり着いた。
早く帰りたかったのに、心なしかスミスさんの歩調は遅く感じて、俺は運んでもらっているくせに『早く歩いてくれぇ~』と心の中で叫んでいた。
スミスさんは歩いている間中ずっと、「怖くなかったかい? 傷は痛むかい?」と心配そうに何度も何度も確認してきた。
俺が「大丈夫だよ」と言っても、「怖かっただろう? もう大丈夫だから」と頭をすりすりとすりつけてぎゅっと抱きしめてきた。
その度に俺の心臓はドクドクと激しく鳴り響く。
(やめろよな。そんなされたら、勘違いするだろ)
苦しくなって、泣き出しそうになる。
抱きかかえられているから拒否もできない。スミスさんの大きな体に包まれて、安心しきってしまった。
家に着くと、スミスさんは俺を椅子に座らせて、足首の手当てをしてくれた。
帰り道、ずっと考えていたことを、俺は思い切ってスミスさんに伝えた。
「俺、もうこの家を出るよ。東の村に帰る」
「イチゴ? 突然どうしたんだい?」
困惑した顔で心配そうに床に膝をつきながら俺の名前を呼ぶ。
決心が鈍りそうになるけど、俺は決めたんだ。
ここから出ていくって。
「リオは捕まって牢屋からはもう出てこれないんだろ? だから逆恨みの心配はもうないじゃん? だったら、俺がここに住んでいる理由はなくなる訳だ。それに、俺には王都は都会すぎたみたいだ。ちょっと……疲れちゃってさ」
あはは、と笑い飛ばしてみる。
騎士団長様と俺とでは、似合わない。やっぱ一緒ににいちゃいけない。
今回のことで気がついた。
この気持ちは友情じゃなく、それ以上のもの。
俺、この人が好きだ。
いつのまにか大好きになってた。
リオの言う血筋がどうとかは良くわかんないけど、何かスミスさんには秘密があって、俺には言えない事情があるんだろう。
スミスさんは立派な人で、俺みたいなわけのわかんない移民族が近くをうろうろしてたら、スミスさんの評判まで悪くなる。
リオは罪を犯した悪い奴だったけど、他の王都民で、移民族を嫌う人はきっともっといっぱいいるに違いない。
俺は俺のことばっかりで、スミスさんが周りにどう思われるかなんて、ちゃんと考えられていなかった。
離れたほうがいい。
王都にいたら、出会ってしまうかもしれないし、スミスさんの面影をきっと探してしまうから。
それならいっそ、村に戻って忘れたほうがいい。
スミスさんみたいな素敵な人、忘れられる訳ないから、この好きになった気持ちを抱えて、1人で生きていくことになるんだろうな。
あの、ゆっくりと時間の進む東の果ての村で、一生1人で生きていくんだ。
それがいい。
だって、スミスさん以上に好きになれる人は、今後も現れないだろうから。
「う、いや……ちがう……俺じゃない……、、、ソイツだ……その東の民がやったんだ! 俺じゃない!」
往生際が悪すぎる。
しかも俺かよ。他人に罪をなすりつけるにもほどがある。無理があるだろ。
「横流しはイチゴが王都に来る何年も前から行われていた。大人しく罪を認めろ」
「くそ……なぜだ団長! そんな移民族がどうなったって構わないだろ! あなたのような獣の血が混じる強い存在に相応しいのは俺だ! そんなゴブリンみたくチビで地味で、不細工な薄汚い東の民なんか似合わない」
ペラペラと団長と自分がいかにお似合いなのか、そして俺がどれだけ小汚い存在なのかを説いてくる。
確かに王都民たちと比べるとチビだけど、不細工は言い過ぎだろうが!
つーか、今はお前の方がブッサイクだし!
顔はスミスさんのせいでボコボコに腫れ上がって、お前の方がゴブリンみたいだぞ。
とても見られたもんじゃないのはお前の方だ!
ちなみに、ゴブリンってのちっちゃくて醜悪な顔をしたモンスターね。めっちゃ体臭、口臭がクサイことで有名。
「ゴブリンみたく不細工なのはお前の方だろう。性格が歪みまくって、どうしようもないな。このイチゴの可愛さがわからないとは……いや、でもみんなが可愛いと思うよりはいいのか……? いやでもな、この可愛さをみんなに知ってほしいという気持ちも……」
ごにょごにょと独り言を呟き始めた。
「あの、スミスさん……?」
一体何を言ってるんだ。
頭がおかしくなっちゃったのか?
俺が可愛いとか言ってるし。
それにお姫様抱っこされたままで居心地が悪いから早く離してほしい。
「ああ、すまないね。早く家に帰って足の手当をしよう」
俺を覗き込む眼差しは特別優しく感じる。
「スウィッツァラルド団長!」
まだリオが叫んでいる。ヘレフォード副団長が暴れるリオを取り押さえる。
「リオ、騎士団の所有物を横領した罪は軽くない。そして王国民を種族や出自で差別することは、騎士としても失格だ。それに、牢の中に入った者が、どんな目に遭うかは知っているだろう?」
「ひっ、そんな……うそだ団長! ちょっと備品を売っぱらっただけじゃないですか! 本気で俺を捕まえるつもりですかっ」
「売っていたのは備品だけじゃないだろうが。人身売買……小さな子供や身寄りのない孤児を攫って犯罪組織に売りつけていたことを知っているぞ」
「な、なんでそれを! く、……しょ、証拠はないはずだ!」
「だから、横領罪と傷害罪だと言っている」
ちゃんと話を聞けと言わんばかりに呆れた顔でリオを見下す。
「傷害罪は大した罪にはならないかもしれないが、国の物に手を出したんだ、王都騎士団の所有物の横領は罪が重い。そして、騎士が他の一般犯罪者と一緒に牢屋に入るんだ。お前も見たことがあるだろう? 彼らがどうなるのか……。自らの愚かさを、一生をかけて塀の中で後悔するんだな」
牢屋の中でどんなことが起きるのか、俺は知らないが、リオにはそれが想像できたのだろう。
真っ青な顔になっていく。
「い、いやだ……! うわぁぁぁああぁぁ!」
ずるずるとヘレフォード副団長に問答無用で引きずられていった。
◇
俺たちは(というか俺が主に)王国民に好奇の目で見られながら家にたどり着いた。
早く帰りたかったのに、心なしかスミスさんの歩調は遅く感じて、俺は運んでもらっているくせに『早く歩いてくれぇ~』と心の中で叫んでいた。
スミスさんは歩いている間中ずっと、「怖くなかったかい? 傷は痛むかい?」と心配そうに何度も何度も確認してきた。
俺が「大丈夫だよ」と言っても、「怖かっただろう? もう大丈夫だから」と頭をすりすりとすりつけてぎゅっと抱きしめてきた。
その度に俺の心臓はドクドクと激しく鳴り響く。
(やめろよな。そんなされたら、勘違いするだろ)
苦しくなって、泣き出しそうになる。
抱きかかえられているから拒否もできない。スミスさんの大きな体に包まれて、安心しきってしまった。
家に着くと、スミスさんは俺を椅子に座らせて、足首の手当てをしてくれた。
帰り道、ずっと考えていたことを、俺は思い切ってスミスさんに伝えた。
「俺、もうこの家を出るよ。東の村に帰る」
「イチゴ? 突然どうしたんだい?」
困惑した顔で心配そうに床に膝をつきながら俺の名前を呼ぶ。
決心が鈍りそうになるけど、俺は決めたんだ。
ここから出ていくって。
「リオは捕まって牢屋からはもう出てこれないんだろ? だから逆恨みの心配はもうないじゃん? だったら、俺がここに住んでいる理由はなくなる訳だ。それに、俺には王都は都会すぎたみたいだ。ちょっと……疲れちゃってさ」
あはは、と笑い飛ばしてみる。
騎士団長様と俺とでは、似合わない。やっぱ一緒ににいちゃいけない。
今回のことで気がついた。
この気持ちは友情じゃなく、それ以上のもの。
俺、この人が好きだ。
いつのまにか大好きになってた。
リオの言う血筋がどうとかは良くわかんないけど、何かスミスさんには秘密があって、俺には言えない事情があるんだろう。
スミスさんは立派な人で、俺みたいなわけのわかんない移民族が近くをうろうろしてたら、スミスさんの評判まで悪くなる。
リオは罪を犯した悪い奴だったけど、他の王都民で、移民族を嫌う人はきっともっといっぱいいるに違いない。
俺は俺のことばっかりで、スミスさんが周りにどう思われるかなんて、ちゃんと考えられていなかった。
離れたほうがいい。
王都にいたら、出会ってしまうかもしれないし、スミスさんの面影をきっと探してしまうから。
それならいっそ、村に戻って忘れたほうがいい。
スミスさんみたいな素敵な人、忘れられる訳ないから、この好きになった気持ちを抱えて、1人で生きていくことになるんだろうな。
あの、ゆっくりと時間の進む東の果ての村で、一生1人で生きていくんだ。
それがいい。
だって、スミスさん以上に好きになれる人は、今後も現れないだろうから。
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