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「ふー、けっこう大変だなぁ」

 備品庫で1人汗を拭いながらどでかい甲冑を運ぶ。
 
 しかも一気に4体ほど。

「どっこいしょっ」

 武具は武具で固めて置いて、使用する時に取り出しやすいように通路もちゃんと広く取って、っと。

「中々良いんじゃないの?」

 自画自賛してみた。

 とりあえず備品庫で1番場所を取っていて重たそうな武具に手をつけてみた。

 毎日ちょっとずつだけど、進んでいる。

 初日はスミスさんが休憩がてらに様子を見にきて、俺の進み具合の速さに目を丸くしていた。
 
 体は大丈夫かと心配されたので、ひょいっとスミスさんをお姫様抱っこしてみたら、スミスさんは度肝を抜かれて目をまんまるくして驚愕していた。

『すごいなイチゴ! だがしかし、クソ……。体力腕力には自信があるとは言っていたが、ここまでとは! 処理能力も、高すぎるなんてものじゃないだろう! 助けてスミスさん!って頼られて、じゃあ一緒にやろうって備品整理を一緒にする算段だったのに……』

 となぜか悔しがっていた。

 その後お昼を一緒に食べた後に、まだ仕事に戻りたくなさそうなスミスさんを俺1人で大丈夫だからと、背中を押して執務室へと見送った。


 今も、まだまだぐっちゃぐちゃな備品の山々はそこら中にあるけども、一部だけでも綺麗に並べてあると、それだけでかなりの達成感があるし、やる気も出てくる。
 それにあとどれくらいで仕事が終わるかの見通しも立つ。
 1番大変そうな武具の整理が終われば、後は細々としたものばかりだからちゃんと終わりが見えてくる。

「それにしても騎士様はこんなに重たい防具を着こなすんだなぁ」

 ずしり、と重たい防具の甲冑。
 こんなものを着込んでいたら、動きが鈍るのは想像できる。これを着て機敏に動けと言われるのは中々難しいと思った。
 
 こんなにガッチガチの甲冑を常に着込んでいるのは門番くらいだけど、戦争や、モンスターと戦う時には騎士もこれらを使うのだろう。

 (すごいなー、スミスさんも戦う時はこれを付けるのかな)

 団長だったらこんな備品庫にある物じゃなくて、もっと品質のいいものを使うのかな。

 (カッコいいよな、スミスさん)

 騎士服をかっちり着こなしているが、家にいる時はラフなシャツ一枚とズボンを履いている。
 オンとオフがはっきりしていて、表情も仕事場と家では違っていたりする。
 普段は鋭い細目が俺の前だとふにゃりと垂れ下がるのはめちゃ可愛いと思う。

 (あと甘い物を食べてる時のスミスさんが可愛すぎる)

 幸せそうに目をつぶってスイーツを噛み締めるその姿もかわいくって、好きだなぁって気持ちが俺の中に溢れてくる。

 初めて友達ができて知った。こんなに幸せな気持ちを友人に持つものなんだって。

 友達って最高じゃん。
 幸せじゃん。

 じいちゃんと過ごしていた日々もあたたかい気持ちになっていたけど、それともまた違った感覚だった。

 スミスさんから友達になろうって言われて嬉しかった。
 けど今の俺は彼に頼り切っている。
 そんな関係を友達と呼べるのか。
 
 もっと俺が自立しなきゃ、スミスさんの友達だって胸はっていえないよな。

 今の状況では、スミスさんに紹介してもらった仕事をなるべく完璧にこなすくらいしか出来ない。
 
 そんな状況が歯痒い。

「ま、今はこの仕事を頑張るしかできないよなー」

 一生懸命にやっていれば、いつか誰かの目に止まって次の仕事に繋がるかもしれないしな。

 俺はまた甲冑を持ち上げては並べ始めた。

 

 大体並べ終えたところで、甲冑の数を数えてみる。管理簿の数と一致するかを確認するためだ。

 (んん? なんか、全然足りなくないか?)

 数えてみてわかったことだが、圧倒的に在庫数が足りなく、管理簿の数と一致しなかった。

 (雑な管理だったとしても、こんなに数が違うものなのか?)

 他の備品もまたまだ整理し終えてないので、わからないが、もしかすると、他の物品も数が合わないものが多数出てくるかもしれない。

 (念のためスミスさんに報告だな)

 とりあえずは午前中の仕事を終わらせようと思い、サクサク進めていった。

 


「イチゴ!」

 汗を拭いながら、ふう、と一息ついたところにちょうどよくスミスさんがやってきた。

「スミスさん、お疲れ様。もう午前の仕事は終わり?」

「うん、一緒にお昼を食べに行こうか」

「ちょっとまってー。これだけ帳簿に記載しておくからさ」

 今日の午前中で整理して数えた分を合わせて帳簿に記載しておいた。

「あ、そうだ。スミスさん、ちょっと報告があるんだけど」

「うん? なにかな?」

「この武具類なんだけどさ、在庫と帳簿の数が合わないんだよ。在庫の数が少ないんだ」

「あぁ、今までが雑な管理だったからね。少しくらい数が合わないのは仕方ないさ」

「いや、少しって数じゃないんだ。防具や武器の在庫数がかなり少なくなってる。ほら、見てみてよ」

 今までの管理簿の数と、実際の在庫数を記載した紙をスミスさんに渡した。
 スミスさんはそれぞれを見比べて眉根を寄せた。
 
「……確かに、数が全く合わないね」

「これは流石におかしいよね?」

「ちょっと調査する必要があるかもしれないな」

 手を顎に当てて考え込むような仕草で、細目が鋭く光る。
 こういう時のスミスさんの表情は腹黒な感じで少し背筋にゾクっとくる。
 またそれもかっこいいんだけどね。

「この管理簿と紙を預かってもいいかな? こちらで詳しく調べたいんだ」

「うん、いいよ。俺は別に写しをとってあるから」

「ありがとうイチゴ。君は本当に仕事が早いな」

 頭をゴツゴツとした大きな出で優しく撫でられる。
 
 そんなに褒められると嬉しくなって、俺もっと頑張っちゃうぞ。


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