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終章: 便利屋始めました

次の商売

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 領主の館が見えなくなった路上、ヤルスがいよいよ堪えきれなくって噴き出した。
「ハハハハハハハ!! 見たかよ、あの役人の面! 俺達には身代金の金貨なんて逆立ちしたって調達できないと思い込んでいたらしい!」
「これで、民が戦争に行かずに済みましたね」
「本当に、君のお陰だよ。俺はあの村にさしてゆかりがあるわけでもないが、ぜひとも礼を言わせてほしい」
「私は――エリーチェさんの魔力とヤルスさんの情報力がなければ、今回の一件は解決しませんでした」
「それにしてもエリーチェの態度は意外だったなぁ」
 セシルが魔晶石の巨額な売却資金を使って他の農民達を救おうと提案した時、エリーチェはただ短い旅の期間に相当する報酬だけを受け取って風のように去っていった。最後に見た彼女は不思議なほど満足そうな表情だったと記憶している。
「きっと、お金よりも大事な何かを得られたのかもしれません。エリーチェさんも協力してくれたのですから、私達も欲張ってはいけませんよね?」
「う・・・・・・」
 ヤルスだけが大金を手放すことを惜しんでいた。
「でもさ、もう少し手元に残しておいても罰は当たらないと思ったんだがなぁ」
「駄目です」
 そういうわけでセシル達も当面の生活資金しか持ち合わせていない。
「だけどさ、もう魔晶石の儲け話はなくなったわけだし、これからどうすればいいんだ?」
「安心してください。私は何でもやりますよ」
「おう、それなんだが」
 ヤルスが急に立ち止まった。
「君、俺と便利屋を開業する気はないか?」
「便利屋、ですか?」
「ああ、要するにその、何でもやる仕事だ。君ほどの知識と経験があれば、色々役立てようもあるだろう。ただ君は、商売のやり方はあまり得意じゃないみたいだから、俺に補佐を務めさせてほしい。悪い話じゃないだろ?」
「いいですよ。どのみち私にも、これから行く所があるわけでもありませんので」
「よし、決まりだ! よろしくな!」
 世間から偽聖女と貶められ、全てを奪われたセシルに初めて何かが得られた瞬間だった。
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