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3章: 新しい聖女
魔導士の過去
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しばらくして息を吹き返したセシルは柔らかな感触に頭をもたげていた。
「う・・・・・・私は?」
「大丈夫。あれは、お兄さんが始末したから」
すぐ上からエリーチェの優しい声が降りかかる。セシルが起き上がると、洞窟内は更に暗くなっていた。
「もう、夜ですか?」
「うん、大分長い時間が経ったから」
「すいません。あなたの話を聞くと言っておきながら私、失神なんかしちゃって」
「いいよ、いいけどさ」
「そしたら、もう出ても?」
「駄目なの!」
出口を目指したセシルをエリーチェが引き留めた。
「どうして?」
「奴が全然動かないからだ」
洞窟の出口を見張っていたヤルスが忠告した。確かに洞窟のすぐ外で巨大カマキリを屠ったドラゴンが翼を小さく折りたたんで佇んでいる。今はまるで彫刻の様に動かないが、下手に気取られると自分達も消炭になりかねない。
「そんな・・・・・・」
「ねえ、聞いたんだけど。獲物を捕食したドラゴンって、一か月くらいは何も食べずにじっとしていることがあるって言うじゃない?」
「つまり、今のアイツは満腹だと?」
「だからと言って、刺激するのは得策ではありません」
「どうするんだよ。俺達に助けなんか来ないぞ」
「でもこれで、エリーチェさんの話を聞く時間は十分にあるわけですから」
「君はどうしてこういう非常時に落ち着いていられるんだか」
「もう私達、一蓮托生だからお互いのことを知ってもいいじゃないですか。まずはエリーチェさんから」
「え? アタシの話なんか・・・・・・」
「いいから。私が聞きたいのです。こうして、誰かと一緒に仕事をするのは初めてですから」
「そうなの? じゃ、じゃあ」
エリーチェはヤルスを振り返った。
「俺のことは別に気にするな」
「アタシ・・・・・・昔は王都に暮らしていてある有名な先生の一番弟子だったんだ。先生には百人以上の弟子がいて、その中でもアタシにはよく目を掛けられていたの。他の弟子には見せていない魔導書を読ませてくれたり、難しい魔法の修業を見てくれたり――アタシ、そこまで可愛がられるくらいだから、自分にはきっと凄い魔法の才能があるんだって確信していた――そう、思い込んでいたの」
そこからエリーチェの表情が一転して暗くなる。
「ある日、そうじゃないとわかったの。アタシが十六になった年、先生はアタシを妾にしたいと提案したの。今までのご厚意は、その恩着せだったわけ。でもアタシ、その時は一流の魔導士になること以外考えていなくて、先生の申し出をすぐに断ったの。そしたら先生は怒り出してしまって、役立たずと罵られたアタシは破門されることになった。アタシを妬んでいた兄弟弟子にしてみればいい笑い種よ。しばらくは自分に起きたことが信じられなかったよ。アタシは先生の一番弟子だったはずで、一流の魔導士に最も近い存在だったはず。それがまさか、先生の依怙贔屓でちやほやされただけの中途半端な魔導士だなんて、そんなはずがないって思った。だからアタシ、いっそのこと王都を飛び出して自分の力を試したいって思ったの。それで旅をしながら色々仕事を請け負っているうちに、アンタ達と出会ったわけ。だから結局、お兄さんの言う通りなんだよ。アタシは屑の魔導士。本物は、王都で優雅に暮らしているわ」
「そんなことありません!」
「う・・・・・・私は?」
「大丈夫。あれは、お兄さんが始末したから」
すぐ上からエリーチェの優しい声が降りかかる。セシルが起き上がると、洞窟内は更に暗くなっていた。
「もう、夜ですか?」
「うん、大分長い時間が経ったから」
「すいません。あなたの話を聞くと言っておきながら私、失神なんかしちゃって」
「いいよ、いいけどさ」
「そしたら、もう出ても?」
「駄目なの!」
出口を目指したセシルをエリーチェが引き留めた。
「どうして?」
「奴が全然動かないからだ」
洞窟の出口を見張っていたヤルスが忠告した。確かに洞窟のすぐ外で巨大カマキリを屠ったドラゴンが翼を小さく折りたたんで佇んでいる。今はまるで彫刻の様に動かないが、下手に気取られると自分達も消炭になりかねない。
「そんな・・・・・・」
「ねえ、聞いたんだけど。獲物を捕食したドラゴンって、一か月くらいは何も食べずにじっとしていることがあるって言うじゃない?」
「つまり、今のアイツは満腹だと?」
「だからと言って、刺激するのは得策ではありません」
「どうするんだよ。俺達に助けなんか来ないぞ」
「でもこれで、エリーチェさんの話を聞く時間は十分にあるわけですから」
「君はどうしてこういう非常時に落ち着いていられるんだか」
「もう私達、一蓮托生だからお互いのことを知ってもいいじゃないですか。まずはエリーチェさんから」
「え? アタシの話なんか・・・・・・」
「いいから。私が聞きたいのです。こうして、誰かと一緒に仕事をするのは初めてですから」
「そうなの? じゃ、じゃあ」
エリーチェはヤルスを振り返った。
「俺のことは別に気にするな」
「アタシ・・・・・・昔は王都に暮らしていてある有名な先生の一番弟子だったんだ。先生には百人以上の弟子がいて、その中でもアタシにはよく目を掛けられていたの。他の弟子には見せていない魔導書を読ませてくれたり、難しい魔法の修業を見てくれたり――アタシ、そこまで可愛がられるくらいだから、自分にはきっと凄い魔法の才能があるんだって確信していた――そう、思い込んでいたの」
そこからエリーチェの表情が一転して暗くなる。
「ある日、そうじゃないとわかったの。アタシが十六になった年、先生はアタシを妾にしたいと提案したの。今までのご厚意は、その恩着せだったわけ。でもアタシ、その時は一流の魔導士になること以外考えていなくて、先生の申し出をすぐに断ったの。そしたら先生は怒り出してしまって、役立たずと罵られたアタシは破門されることになった。アタシを妬んでいた兄弟弟子にしてみればいい笑い種よ。しばらくは自分に起きたことが信じられなかったよ。アタシは先生の一番弟子だったはずで、一流の魔導士に最も近い存在だったはず。それがまさか、先生の依怙贔屓でちやほやされただけの中途半端な魔導士だなんて、そんなはずがないって思った。だからアタシ、いっそのこと王都を飛び出して自分の力を試したいって思ったの。それで旅をしながら色々仕事を請け負っているうちに、アンタ達と出会ったわけ。だから結局、お兄さんの言う通りなんだよ。アタシは屑の魔導士。本物は、王都で優雅に暮らしているわ」
「そんなことありません!」
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