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2章: 流れ着いた村にて

名もなき村

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 身体中を包む温かい衣の感覚と共にセシルは目覚めた。そこは丸太材を組んで作られた小さな部屋だった。神殿のような豪華な装飾の代わりに、壁には農具や冬用の上着などが掛けられていた。
「えっと、私は・・・・・・」
 まだ痛む頭を抱えながらセシルはここに至る経緯を想起した。処刑のために嘆きの丘まで連行されていた途中、馬が暴走して崖から身を投げ出された、所までは覚えている。
「あっ、気が付いたの?」
 ふと部屋の隅を見ると、半開きになった扉の向こうからセシルより一回り位幼い少女がこちらを窺っている。
「よかった。身体が物凄く冷たくなっていたから、死んじゃったかと思っていたよ」
「あの、ここはどこですか?」
「エミリのうちだよ!」
「エミリ? あなたの名前、ですか?」
「そうだよ」
「えっと、この家はどこにあるのですか?」
「村、だけど」
「何という村ですか?」
「え? 村は村だよ。私達の村。そういえば、わかる?」
 どうやら名もない辺境の村に流れ着いたところを助けられたらしい。ということは、衛兵達はまだ自分を追っているのだろうか。
「ねえ、どうして川なんかにいたの? あそこは行っちゃいけない場所だよ」
「それは・・・・・・」
「あら、目が覚めたのね?」
 話声を聞きつけたのか、今度は中年の女が部屋に入ってきた。
「アンタの服、かなり汚れたから捨てちゃった。悪いけど、しばらくはそれを着て我慢してくれるかな?」
 気が付くとセシルにはボロ布同然の囚人服の代わりに彼らと同じ農民の服が着せられていた。
「いえ、ありがとうございます」
「まあ、行儀のいいこと。どこの町の人?」
「・・・・・・えっと」
 セシルは自分の出自を言うべきか戸惑った。
「もしかして、思い出せないのかい?」
「ええ、まぁ」
 女が都合のいい勘違いをしてくれたことでセシルは助かった。
「大変だねえ。それじゃ、助けが来るまでこの村に居てはどうかい?」
「え? でも、それでは・・・・・・」
 セシルは戸惑った。自分を庇って斬られたハイデルの姿が脳裏をよぎったからだ。ここに留まれば村中が偽聖女をかくまった共犯となり、村そのものが取り潰しにされかねない。
 ただ、彼らの援助を断ったところで自分には頼りになるものは何もなかった。今まで暮らしてきた神殿との繋がりは消え、実の両親でさえ再会して間もなく処刑されたのだ。
「遠慮することはないよ。こんな村だから、まともなもてなしができるわけでもないんだしさ」
「すいません」
「もちろん、その間それなりの手伝いはしてもらうけどね」
「え・・・・・・」
 庶民的な生業を何一つ知らないセシルは口ごもった。
「そんな顔しないでよ。こき使おうとは思っていないから」
 女はバンバンとセシルの背中を叩くが、セシルは何をさせられるのかと不安でたまらなかった。
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