私、事務ですけど？

私、事務ですけど？

2

　二ヶ月ほど前になる。
　この案件は、社長自らが取ってきた、会社でも前例のない大仕事だ。
　最終的なエンドユーザーは、もちろん私もよく知る大手玩具メーカー。
　そこが放送二十周年を記念して立ち上げたリバイバルプロジェクトの一環として、今回アニメに登場するロボットの1/60サイズフィギアを発売することになったのである。
　だがフィギアと言っても、置いて飾るだけのものではない。
　熱烈なアニメファンにとって精緻なディティールだけでは飽き足らず、よって、LEDや小型モーターを内蔵する動くフィギアとして販売するのが本プロジェクトのコンセプト。
　サイズこそ違うが、本当にこのロボットを動かすプログラムが必要というわけだ。
「私、事務ですけど？」
「実はうちに、その道が詳しい人がいなくてさ」
　だからソフトウェアとかに詳しい人材が欲しくて、丁度空席になっていた事務職と兼業してもらう形でハローワークに求人を出したというのだ。
　そんなことも知らず、のこのことやって来て、あろうことかプログラミングを特技とまで自慢したのが私ということだ。
「ええ、でもVBAって言いませんでしたか？」
「VBA？　それってC言語の一種？」
　その一言に私は愕然とした。
　プログラミングが出来ないどころかこの社長、そもそもエクセルのVBAを知らないのだ。
　休み時間中に他の社員とも話をしてみたが、悲惨な結果だったと言わざるを得ない。
「ねえ、プログラミングであのロボットしゃべるようにもなるの？」
「せっかくだから目の光を青から赤に変えてみたら。デストロイモード発動みたいな」
　年配層ならばともかく、若い年代までがそんな空想に浸っている。それも営業職を含めてだ。
　つまり、総合的に見れば決してスキルが高いとは言えない私が、この会社では一番になってしまったということだった。