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自動車業界、これが現状

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 今や主要先進国やメーカーそのものが、およそ2030年までにガソリンエンジン車の生産停止目標を掲げている。
 目標とはいえ、威信をかけて堂々と宣言するくらいだから、もちろん期待可能性も意気込みも十分ということだろう。
 その目標が実現されると仮定して、現在、二十八歳の私は四十歳になっている。
――あれ? 私まだ、働き盛りじゃん?
 もし現在生産しているエンジン部品のラインがシャットダウンすれば、売り上げの七割がごっそり削られる。
 いや、2030年を待たずとも徐々にエンジン部品の需要は先細りして、会社は現在の設備と人員を抱えきれなくなるかもしれない。
 まだ先だと思っていた危機感の暗雲は、思った以上に近かったわけだ。
 当然、末端社員の私が危惧する頃には経営幹部もこの事態を察知して、急遽開発部門の増強を経営方針の柱として打ち出していた。
 というより、エンジン部門の生産縮小はこの時既に現実問題になっていて、そうせざるを得ない状況だったわけだ。
 そこまではよかったのだが、問題は抱えている人材の多くが機械工学に偏っていて、電気・電子部門に精通した人材が乏しいこと。
 要するに皆は歯車やらネジには詳しいが、モーターや制御ソフトウェアにはさっぱり、という状態だった。
 それでも何とか調べるなり、研修を受けさせるなどして、新製品の試作品を図面化にまで漕ぎつけたとしても、ここでまた別問題が発生する。
 ライン部門の反発である。

 この会社で言うライン部門とは、工作機械を使って部品製造に直接携わる職人の人々。
 最近テレビドラマで、どんな精密部品でも簡単に作ってしまう、ああいう人達のことだ。
 日本経済の真の担い手とまで紹介されて、世間ではかなり良いイメージを持たれているけど、実際はかなり違う。
 まず、新しいことに挑戦する意欲が全くない。
 ロングセラーのノウハウには詳しくても、新しい、それも電動化に必要な超精密部品になると、取り組もうとする意欲すら示さない。
 おめでたいことに、今の製品を一生作り続けていられることだけが、彼らの人生設計であるかのように。
 仮に生産技術部門のスタッフが散々頭を下げに行ったとしても、だ。
 常識的に言えばこれは完全なる業務命令なのだが、ああいう人達はこれまた厄介なことに、幹部と個人的な繋がりがある。
 というより、数十年前は同期だった。
 だから経営幹部も彼らに対して、大きな態度は取れない。
 代わりにせっかく新しい仕事を持ってきたはずの開発部門やら生産技術部門にしわ寄せがくる。
 もっと作りやすい製品を考えろ、と。
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