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自動車業界、これが現状

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 ある日のことだった。
 とある自動車部品メーカーの下請け工場で生産管理部門の事務職として働く私は部長の執務室に呼ばれた。
 そこには部屋の主たる上司の部長に加え、本来ならば隣の厚生棟で仕事をしているはずの総務部長が椅子に腰かけている。
「霜月君、大変申し訳ないんだけど・・・・・・」
 その後の細かい言い回しはよく覚えていない。
 内容があまりに衝撃的過ぎて、頭の整理がつかないせいかもしれなかった。
 ただ確かなのは、私に課せられた二文字の言葉。
――『ク・ビ』である。
 噂は薄々感じ取っていたのだ。
 私が大学卒業後にこの会社に就職してから、かれこれ五年ほどになる。
 誰もが知っているほどの有名自動車メーカーにエンジン部品を提供してきたこの会社。
 唯一無二の技術力を持っているわけではないが、社員を次々と取引先に送り込むことでそれなりに仕事を与えられていた。
 そんな会社で働けば、大企業並みとまではいかないにしても、定年までの安定雇用は約束されたはずだった。

 懸念材料と言えば、最近世界中で開発競争が激化している電気自動車の動向。
 エンジン部品にはあまり詳しくはないのだが、この会社が主力で手掛けている部品は電気自動車には搭載の必要がない。
 子供のころ遊んだラジコン車のように、車輪に直結するモーターと、それを制御する半導体さえあれば、走る車が一応完成するからだ。
 ただ、日本での電気自動車の普及率は依然として低く、ガソリンエンジン車の生産はあと数十年は持ち応えられるとするのが、経営幹部の見方だった。
 それが今から五年前のこと。
 その間に世界情勢は大きく変わることになることなど、入社当時の私は知る由もなく。
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