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1章: 冒険者の条件

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 エスマイアはまるでイシルの質問を見越していたかのように含み笑いを浮かべて答えた。
「理由は二つあります。一つは学内の教員では、真に不適格な学生を見極められないことです。猫を被るという表現が適切かはわかりませんが、できれば学生同士の素の姿で適性を判断したいのです。かといって、外部からの人材にあなたほどの適性があるわけでもありませんが」
「なるほど。もう一つの理由は?」
「あなたが先程もおっしゃいましたよね? 自分は冒険者になるべきだったのに、と。それは裏を返せば、どの人間が冒険者に相応しいかを見極められるということではありませんか?」
「尊大なことは言いません。僕はただ、誰しもが持つ当たり前の権利を求めていただけのことです」
「しかし、モンスターとろくに戦えないような冒険者が増えることを望んでいるわけでもない、ということですよね?」
 エスマイアはまるで、イシルが腹の奥底に抱えている本音を引きずり出すかのように思わせぶりな質問を繰り返す。
 長く話していると、向こうのペースに引きずられてしまいそうだ。
 こんな話を引き受ける気はないのだから、早く断りの文句を入れよう。
「だとしても、あなたはまるで僕に、夢を挫折した腹いせをさせたいとしか思えません。僕はそんなことで喜ぶほど落ちぶれてはいませんよ」
「では、こんな山奥の村でその日暮らしの稼業を転々としながら一生を終えるつもりですか? あなたほどの力のある人間が」
「冒険者になるなと、国王が仰るのだからしょうがないでしょう? 冒険者の中に不逞な輩が増えているのは事実かもしれないが、今の僕にはどうすることもできません」
「そうですか? 残念です。これはきっとあなたのためになると思ったのに・・・・・・」
「僕のため? 後輩に八つ当たりするという意味で?」
「いえ、違います」
「それ以外に僕に何のメリットが?」
 エスマイアは執拗な説得に乗り出してくることはなく、そればかりかイシルのツケを建て替えると申し出た。
「もちろん、あなたに見返りを求めてのことではありませんよ。あなたはこの位のことで意思を変えるほどの小物ではないと思っています。ですが、もしその気になったのであればいつでも私を尋ねて下さい」
「どうもすいません。せっかくの申し出をこんな形でお断りしてしまうのは」
 イシルはエスマイアに頭を下げ、夜更けの店を出た。
 さて、明日はどんな仕事を探そうか。
 イシルの一日は常に仕事探しから始まる。
 普段ならばもう村の大通りを行き交う人の数も途絶える時刻だが、なぜか片隅に大きな人だかりができていた。
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