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序章: 落ちこぼれた逸材
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大木を一本丸ごと削り出したほどの棍棒を、重力に加えてモンスターの膂力で振り下ろすのだ。
それを受けた人間の身体などひとたまりもないだろう。
普通の人間ならばの話だが。
「うるさいな、人が大事な話をしているんだぞ?」
振り下ろされた棍棒はイシルの頭上で木っ端みじんに砕け散った。まるで見えない壁に激突して、棍棒の方が負けてしまったかのように。
「な、何があったんだ?」
唖然とする仲間達は棍棒が爆ぜたそのすぐ下にあるイシルの掌を見据えた。
武器、魔法の両方を防ぐとされる障壁型の防御魔法の魔力の痕跡が微かにその場を漂っていた。
防御魔法とはいえ、本来ならば盾のように剣突きや矢の五月雨を防ぐ程度の強度しかないはず。
それが巨大な棍棒を跳ね返すどころか砕くのは、詠唱した者の魔力の次元が並外れているからとしか説明のしようがない。
もちろん、誰がその魔法を詠唱したかは既に自明のことだった。
類人猿のモンスターは得物を失ってなお、その闘争心を絶やさなかった。
自由になった拳を岩のように丸めて、イシルの正面に突き出す。
周囲に地鳴りを生むほどの衝撃だが、それもイシルには届かなかった。
防御魔法が尚も、それを阻んでいるのだ。
「これだけ力の差を見せつけられて、まだやるつもりか?・・・・・・仕方ない」
軽くため息をついたイシルは刹那、防御魔法を解く。
障壁がなくなったのを好機と見たのか、モンスターが気炎を吐いたかのように見えた。
その瞬間だった。
真っ直ぐな斬撃がモンスターの身体を縦に駆け抜け、筋骨隆々とした巨体は切り裂かれた。
イシルの剣は既にモンスターの紫色の鮮血を吸っている。
斬り込む瞬間はおろか、構えさえも見せることなく。
「それで、どこまで話をしていたんだっけ?」
「え・・・・・・あ、いや・・・・・・」
仲間達は夢でも見ていたかのように、真っ二つになったモンスターを眺めていた。
「話が済んだなら、先を急ごう」
イシルは肩に乗った棍棒の木屑を払い、剣を鞘に納めた。
「ま、待ってくれ。リアンが気を失ったみたいなんだ」
背後で少女の一人が気を失って倒れている。
「ちょっといいかな?」
イシルは彼女に近づくと、額の前に手を出した。
柔らかな緑色の光が、彼女の寝顔を優しく包み込む。
「ん? こ、ここは? 私は? あれ? モンスターは?」
「モンスターはいなくなったさ。もう大丈夫だから先を急ごう。歩けるか?」
「は、はい」
少女は照れたように俯いて、イシルに手を取ってもらいながら立ち上がる。
「それと、ハルスがいないわよ?」
ハルスというのは真っ先に逃げ出した仲間の一人だ。
どこまで逃げていったのか、近くに気配はなかった。
無事出口で合流できれば良いのだが。
「探していると課題をクリアできなくなる。僕達だけでも先に進もう」
言い忘れていたが、これは一人前の冒険者として認められるための最後の卒業試験。
とりわけ将来を有望視されるイシルにしてみれば何が何でも失敗するわけにはいかない正念場だった。
それを受けた人間の身体などひとたまりもないだろう。
普通の人間ならばの話だが。
「うるさいな、人が大事な話をしているんだぞ?」
振り下ろされた棍棒はイシルの頭上で木っ端みじんに砕け散った。まるで見えない壁に激突して、棍棒の方が負けてしまったかのように。
「な、何があったんだ?」
唖然とする仲間達は棍棒が爆ぜたそのすぐ下にあるイシルの掌を見据えた。
武器、魔法の両方を防ぐとされる障壁型の防御魔法の魔力の痕跡が微かにその場を漂っていた。
防御魔法とはいえ、本来ならば盾のように剣突きや矢の五月雨を防ぐ程度の強度しかないはず。
それが巨大な棍棒を跳ね返すどころか砕くのは、詠唱した者の魔力の次元が並外れているからとしか説明のしようがない。
もちろん、誰がその魔法を詠唱したかは既に自明のことだった。
類人猿のモンスターは得物を失ってなお、その闘争心を絶やさなかった。
自由になった拳を岩のように丸めて、イシルの正面に突き出す。
周囲に地鳴りを生むほどの衝撃だが、それもイシルには届かなかった。
防御魔法が尚も、それを阻んでいるのだ。
「これだけ力の差を見せつけられて、まだやるつもりか?・・・・・・仕方ない」
軽くため息をついたイシルは刹那、防御魔法を解く。
障壁がなくなったのを好機と見たのか、モンスターが気炎を吐いたかのように見えた。
その瞬間だった。
真っ直ぐな斬撃がモンスターの身体を縦に駆け抜け、筋骨隆々とした巨体は切り裂かれた。
イシルの剣は既にモンスターの紫色の鮮血を吸っている。
斬り込む瞬間はおろか、構えさえも見せることなく。
「それで、どこまで話をしていたんだっけ?」
「え・・・・・・あ、いや・・・・・・」
仲間達は夢でも見ていたかのように、真っ二つになったモンスターを眺めていた。
「話が済んだなら、先を急ごう」
イシルは肩に乗った棍棒の木屑を払い、剣を鞘に納めた。
「ま、待ってくれ。リアンが気を失ったみたいなんだ」
背後で少女の一人が気を失って倒れている。
「ちょっといいかな?」
イシルは彼女に近づくと、額の前に手を出した。
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「ん? こ、ここは? 私は? あれ? モンスターは?」
「モンスターはいなくなったさ。もう大丈夫だから先を急ごう。歩けるか?」
「は、はい」
少女は照れたように俯いて、イシルに手を取ってもらいながら立ち上がる。
「それと、ハルスがいないわよ?」
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どこまで逃げていったのか、近くに気配はなかった。
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