武器屋の看板娘に転生したつもりでしたが、図らずも最強の剣士として戦うことになりそうです

2章: Aman loves someone not by him but in his mind.

3

　チハルは一旦、その場から解放された。
　最後にただ一言、意味深な言葉を残して。
「あなた、もう後戻りはできないわよ」
　こういう時、冷静に判断する時間を与えない間に決断を迫るのがずる賢い勧誘のやり口なのだが。
　ただ、冷静になっていられる間というのは、それほど長い間ではなかった。
「きゃ～～！！　チハル様！」
　廊下から甲高い嬌声がして、親衛隊員が走り寄ってくる。
　チハルと同期で入隊した者ばかりではなく、先輩も含めて。
「かっこいい！！」
「好きです～！」
「ねえ、エリー小隊長との話を聞かせて！！」
　口々にラブコール、というよりもはや求愛行動に近い仕草を取る少女達に、チハルは取り囲まれた。
「や、やめて！　私はただ」
「日本刀姿、もう一度見せて下さい！」
「あ～！　それ私も見たい！！」
　親衛隊の一番の愛情の的は依然として皇太子だが、どうやらその人気の一欠片を、チハルは意図せず奪い取ってしまったようだ。
「今日はもう勘弁してぇ！！」
「待って！　チハル様！！」
　どんなに逃げても隊員達は追いかけてくる。
　他にすることがないのだろうか。
　ここ数日間、チハルはこうした追っかけに悩まされていた。
　フェミル連隊長の傘下に入れば、状況は改善するだろうか。
「チハル様！　どこですか！？」
「あっちよ！　待ってぇ！！」
　ようやく周囲から危険が去った。
　中庭の茂みに潜んでいたチハルは立ち上がる。
　その時、微かで艶っぽい声がした。
　あの建物の蔭に、誰かがいる。