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近未来スカベンジャーアスカ編

第43話 残された影

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 「あれ? アスカ、久しぶりじゃない?」
 「どうも。 一獲千金を狙ったら大空振りでね、恥ずかしくて隠れてたの」

 ステーションに作られたバースペース。
 スカベンジャーや宇宙軍の兵士、行商人たちでいつも賑わう人気スポットだ。
 しばらくの雲隠れの後そこへ訪れたアスカは、店に入るや否やスカベンジャー仲間から声を掛けられていた。

 「で、隣りの美人さんはどなた?」
 「ポラリスです、お見知りおきを」

 涼しい顔をしながらショットグラスを傾け、強い酒をあおる美女。
 その様子にバーは大盛り上がりで、気がつけばポラリスの周りには人だかりが出来ていた。

 「補佐のアンドロイドでね。 元々は船の番だったんだけど、連れてけってうるさくて」
 「へー、可愛いじゃん」

 フリルのついた華やかな服装はポラリスの趣味であり、まるで生きる西洋人形のようだ。
 軽装でむさ苦しく無骨なスカベンジャーたちの中にあって、その服装はどうしても注目を集める。
 好奇の視線を向けられても、ポラリスは何食わず涼しい顔を続けていた。

 「あんたは? 元気?」

 ビールの瓶をマスターから受け取り、口に運びながらアスカが聞く。
 すると聞かれたスカベンジャーは、困ったような笑みを浮かべた。

 「あー……微妙かな。 いや、最悪かも」
 「なにそれ」

 マスターに追加の料金を払い、貰ったビールをスカベンジャーへと手渡す。
 名前も思い出せない仲だが、最悪な時はお互い様だ。

 「ありがと。 私が見つけた穴場、軍に閉鎖されちゃって。 禁止物を運んでないか調査だーって船持ってかれちゃった」
 「うっわ、いくらなんでも横暴すぎ!」

 アスカがバーのカウンターへ勢いよく瓶を叩きつけたせいで一瞬の静寂が訪れたが、店内にはすぐに騒がしさが戻った。

 「まだ星にすら降りてなかったのに、場所も言うなって脅されてさ。 喋ったら船帰ってこないの」
 「ほんと最悪だね、軍って」

 アスカの発言に、店内の何人かは露骨に嫌な顔をした。
 マスターが不機嫌そうな顔をして顎で指した先には、制服に身を包んだ軍人たちが居る。
 厄介事はごめんだと言わんばかりのマスターに、アスカはごめんごめんと平謝りした。

 「もしかしてそれは、ゴールドラッシュあたりの星域では?」
 「え? なんでそれ……」

 目を丸くさせ、開きかけたスカベンジャーの口をポラリスの手が覆った。
 そのままじっとスカベンジャーと目を合わせると、ゆっくりと一度頷いて見せる。

 「どうやら飲みすぎました。 アスカとそちらのお友達、肩を貸していただけますか?」
 「え、あっ、はい……」

 そうして、キョトンとした顔をしたスカベンジャーとアスカの肩を借り、三人はバーを後にする。
 軍服の何人かが慌てて動き出すが、ポラリスを見送ろうとする群衆に遮られ、追跡は出来なかった。

 「さて、では改めて。 その星域はゴールドラッシュですか?」
 「えーっと……」
 「話さなくて大丈夫です、貴女の表情から察しますから」

 クレイドルⅡへと乗り込んだスカベンジャーは、ソファへと座らされるなりポラリスから尋問を受けていた。
 隣りにぴったりと座ったポラリスがスカベンジャーの手を握り、そのままキスをしてしまいそうなほど近い距離で顔を覗き込んでいる。
 顔が良いだけに、それだけでかなりのプレッシャーだ。
 アスカはやれやれといった顔でその様子を横目に見ながら、新調された航行AIの調整を行っていた。

 「……ありがとうございます。 大体わかりました」
 「いえ……お役に立てて何よりです……」

 しばらくの質問攻めの後、スカベンジャーがようやく解放される。
 スカベンジャーはすっかりしおらしくなっていて、恥ずかしそうに伏し目がちになりながらポラリスを見ていた。

 「可愛らしいお嬢さん、お名前は?」
 「アスターと申します……」
 「花の名前がよくお似合いですね、この出会いに感謝を」

 キザったらしく手を取って、その甲に口づけするポラリス。
 ポラリスは無事に帰って来てからというもの女癖が悪くなっており、アスカ以外の女性にも軽々しく愛を囁くようになっていた。
 アスカはその様子を不機嫌そうに眺めながら、冷蔵庫から出したビールを一気に飲み干した。

 「気をつけて、そいつ女癖最悪だから」
 「さぁ、何の事でしょう? どこかの唐変木女よりはマシだと思いますが」
 「絶対良い言葉じゃないって事だけわかったわ、ありがとう」

 さっきまでの空気が嘘のようにピリピリとしだし、アスターは居心地の悪さに帰りたくなってくる。
 二人の言い合いをしばらく黙って見守っていると、突然一通のメールが届いた。
 差出人は軍。
 どうやら取り上げられた船に関しての続報らしい。

 「メールですか?」

 言い合っていたポラリスが後ろを振り向き、アスターの顔を覗き込む。
 誤魔化すような内容では無いが、その目で見られていると全てを見透かされているような気がした。

 「はい、船、返してもらえるみたいです」
 「それは良かった。 でもシステムメンテナンスは怠らずに。 追跡プログラムや盗聴機の確認もした方が良いですよ」

 ポラリスは先程の質問攻めで大体の事態を把握しており、このタイミングで船が返されたのも偶然では無いと考えている。
 一度自由にして泳がせ、その後の行動によっては何かしらの対処を行うつもりだろう。
 スペースデブリの衝突かエンジンの爆発か、どちらにせよろくな事にはならない。

 「ゴールドラッシュ周辺で軍が絡む何かがあって、偶然にもそれを知りそうになったアスターが狙われてる、って?」
 「その通り。 その何かも恐らくはアスカのご想像通りかと」

 興味なさそうにしていても、質問の内容からポラリスが何を考えているかがアスカにはわかる。
 ゴールドラッシュの名前が出た時点で、二人の頭にはマーシャルの顔が浮かんでいた。

 「私、どうしたら良い?」

 不安そうな顔をするアスターの頭を、ポラリスが優しく撫でる。
 オレンジ色の髪はさらさらとして手触りが良く、アスカの物より細くふわふわだ。
 そうしながら横目にアスカの方を見て、何とも言えない表情をしているのを確認した。

 「あの辺りには近づかないほうが良いでしょう。 何かあったら私に連絡を、すぐに駆けつけますから」
 「ポラリスさん……」

 もしかして、このまま行為に及ぶつもりではないか。
 二人の間の空気は熱を帯びており、お互いの手を握るその握り方はとっくに挨拶の域を出ている。
 いよいよ我慢ならなくなったアスカは強引に二人の間に割って入り、アスターの手に古い携帯電話を握らせた。

 「はい、そこまで。 アスターは何かあったらこれにかけること。 見た目はアレだけど星域間通話も出来て痕跡も残らない優れものだから。 じゃあ、くれぐれもお気をつけて」

 そのままアスターの手を取り立ち上がらせると、クレイドルの外へと追いやってしまう。
 呆気にとられるポラリスとアスターは、一言も話せないまま引き剥がされてしまった。

 「唐変木もやっとヤキモチを妬きましたか」

 今度はポラリスがやれやれといった顔でアスカの方を見る。
 不機嫌極まりないアスカは、もはや怒っている状態に近い。

 「はぁ? 誰もヤキモチなんて妬いてないけど?」
 「そんなもの妬かなくても、私はアスカの物ですよ?」

 アスカが船の出入り口から振り向くのに合わせて、そっと立ち上がっていたポラリスがその体を抱く。
 澄ましたドヤ顔が気に食わなくて、アスカは視線を逸らしたまま立ち尽くす。
 反応が芳しくないのを察したポラリスは、追い打ちとばかりにしなやかな指でアスカの背中から臀部を優しく撫でた。

 「ちょっと!」
 「こんな事でいまさら声を張り上げて……これ以上の事なんていくらでもしてきたじゃないですか」

 こうなってしまうとポラリスのペースだ。
 巧みなフットワークで位置を入れ替えられ、そのままソファへと押し倒されてしまう。
 ポラリスはフリフリの服を想像も出来ないスピードで脱いで畳むと、下着姿でアスカの上に覆いかぶさった。

 「今はそれどころじゃ……」
 「嫌な奴の顔が浮かんだんでしょう? 忘れさせてあげますからどうぞ素直に」

 アスカの服があっという間に剥ぎ取られ、ピチピチのインナーの上をポラリスの指が滑る。
 弱い所を全て知られてしまったアスカには、もう抵抗する術は残されていなかった。
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