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第十七章
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湖の淵には、カーライルとアーネスティだけが残された。
「さっきの話は本気なの?」
「本気だよ。おれはこっちに残る。リーヤやトーヤたちと一緒に、飛空艇を作っていくよ」
「そんな…」
「アーネスティ。もう、おれたち婚約者じゃないんだ。ハーヴィーだって、おまえの返事をずっと待ってる」
「な? どうしてそれを……?」
「ああ…、その、聞こえちまったんだよな。ハーヴィーがプロポーズしてるの…。あの覚悟を保留にするって、おまえ、きついことするよな」
「だって、わたしは…」
「だめなんだよ。おれじゃだめなんだ」
「そんなこと」
「おれは、もっと小さくなる。小さくなって、そう遠くない、いつか…」
「言わないで!」
「言うよ。おれは、死ぬんだ。だから、おまえはいつか生まれる新しい命のために、ハーヴィーと一緒に行ってくれ」
カーライルがアーネスティの肩を押すと、よろめいたアーネスティは後ろから誰かに抱き留められた。ハーヴィーがこの湖のほとりまでアーネスティのことを追いかけてきていたのだ。ハーヴィーはいつでも、アーネスティのことを見守っていた。カーライルは、ハーヴィーのその優しさを知っていたのだ。
「こいつは、絶対にアーネスティのことを幸せにしてくれる。な、そうだろ?」
「ええ、絶対に! お約束します」
ハーヴィーがはっきりとそう答えた。
「新しい大陸での暮らしは、きっと楽なもんじゃない。そんな時に支えになってくれるのは、もう、おれじゃないんだ」
「カーライル…」
「ごめん、一緒にいてやれなくて」
「謝らないで…」
アーネスティの頬に幾筋もの涙がこぼれて落ちたが、カーライルは、もうそれを拭いはしなかった。その役割は自分のものではないからだ。
ハーヴィーがまるで宝物を扱うように、アーネスティの涙をぬぐうと、そのまま二人でオージュルヌへ向かって飛び立っていった。
カーライルが、ハーレ商会の整備場へ戻ると、夜中だと言うのに皆起きて待っていた。
「カーライルお兄ちゃん、振られたの…?」
「いや、リーヤそれは違う、かなり違う…」
「だって、アーネスティお姉ちゃんが迎えにきたのに、一緒にいかなかったんでしょ」
「なあ、カーライル兄ちゃん、喧嘩したのか? 仲直りの方法教えようか? 女ってほら、いろいろ面倒臭いからさぁ」
「トーヤ、それ、本気で言ってる?」
リーヤがトーヤに向かってぷんすか怒っているのを見ていると、自分がついさっき身を切る思いでアーネスティに別れを告げたのが嘘のように思えた。
「さっきの話は本気なの?」
「本気だよ。おれはこっちに残る。リーヤやトーヤたちと一緒に、飛空艇を作っていくよ」
「そんな…」
「アーネスティ。もう、おれたち婚約者じゃないんだ。ハーヴィーだって、おまえの返事をずっと待ってる」
「な? どうしてそれを……?」
「ああ…、その、聞こえちまったんだよな。ハーヴィーがプロポーズしてるの…。あの覚悟を保留にするって、おまえ、きついことするよな」
「だって、わたしは…」
「だめなんだよ。おれじゃだめなんだ」
「そんなこと」
「おれは、もっと小さくなる。小さくなって、そう遠くない、いつか…」
「言わないで!」
「言うよ。おれは、死ぬんだ。だから、おまえはいつか生まれる新しい命のために、ハーヴィーと一緒に行ってくれ」
カーライルがアーネスティの肩を押すと、よろめいたアーネスティは後ろから誰かに抱き留められた。ハーヴィーがこの湖のほとりまでアーネスティのことを追いかけてきていたのだ。ハーヴィーはいつでも、アーネスティのことを見守っていた。カーライルは、ハーヴィーのその優しさを知っていたのだ。
「こいつは、絶対にアーネスティのことを幸せにしてくれる。な、そうだろ?」
「ええ、絶対に! お約束します」
ハーヴィーがはっきりとそう答えた。
「新しい大陸での暮らしは、きっと楽なもんじゃない。そんな時に支えになってくれるのは、もう、おれじゃないんだ」
「カーライル…」
「ごめん、一緒にいてやれなくて」
「謝らないで…」
アーネスティの頬に幾筋もの涙がこぼれて落ちたが、カーライルは、もうそれを拭いはしなかった。その役割は自分のものではないからだ。
ハーヴィーがまるで宝物を扱うように、アーネスティの涙をぬぐうと、そのまま二人でオージュルヌへ向かって飛び立っていった。
カーライルが、ハーレ商会の整備場へ戻ると、夜中だと言うのに皆起きて待っていた。
「カーライルお兄ちゃん、振られたの…?」
「いや、リーヤそれは違う、かなり違う…」
「だって、アーネスティお姉ちゃんが迎えにきたのに、一緒にいかなかったんでしょ」
「なあ、カーライル兄ちゃん、喧嘩したのか? 仲直りの方法教えようか? 女ってほら、いろいろ面倒臭いからさぁ」
「トーヤ、それ、本気で言ってる?」
リーヤがトーヤに向かってぷんすか怒っているのを見ていると、自分がついさっき身を切る思いでアーネスティに別れを告げたのが嘘のように思えた。
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