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第十五章
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タシタカまでの道のりは順調だった。街につくと、トーヤとリーヤはアスガネ工房に戻った、機体をハーレ商会の整備場まで移動させるためだ。
ハーレ商会の前に、リュドミナの大きな車をつけると、整備場の中からザックが飛び出してきた。
「ハーレさん! 急にいなくなるから心配したんですよ!」
「悪い。心配かけたな」
「どこに行ってたんです? 体調は?」
「大丈夫だ。早速で悪いが、ここでアスガネ機の改造をすることになった。場所を空けてくれ」
「アスガネ機の? ハーレさんが決めたことなら、構わないですが…」
ザックは、ハーレが乗ってきた自動車の運転席に目をやると、驚いて駆け寄った。
「そこにいらっしゃるのは、もしかして、リュドミナ・クリエ教授?」
「そうだ、はるばる帝都から、ここで共同研究をするために、来訪くださった」
整備場から、何人か顔を出してきて、リュドミナの姿にざわつきがとまらない。
「リュドミナって、そんなにすごかったんだ…」
「まあ、これが普通の反応なんだけどね」
「先生、整備場の三階を寝泊りに使ってください。わたしの私室もその階にあります。カーライルも、並びの一部屋を使っていい」
そう言って、カーライルとアーネスティに目くばせした。ふたりで一部屋使えということだ。
「いや、わたしはここで…」
アーネスティがハーレの申し出を断ろうとしたとき、カーライルがアーネスティの腕を掴んで、ぐいと引っ張った。
「ちょっと疲れたから、ありがたく使わせてもらうよ。また、話は後で…」
そういうと、三階へ姿を消した。
カーライルが部屋の扉を後ろ手で閉めると、アーネスティが羽織っていた布を取り去った。
「今からオージュルヌへ帰るわ」
窓の外にはトゥトゥナ山脈が見える。その山脈の形は、まだ慣れしたんだ景色と寸分変わらない。
「いや、その状態で、オージュルヌまで飛べやしないだろ」
アーネスティの顔をは真っ青だった。元々乗り物に弱いところに、数日間の強行軍だった。なまじ誰も体調を崩すこともなかったため、ひとりだけ、具合が悪いと言いだせなかった。
「今日・明日でどうにかなるわけじゃない。今は休んで、体調が戻れば帰ればいい」
「カーライル…」
「おれは行かないよ。アーネスティから、エセルバート様に伝えてくれ」
あの頃から比べれば、アーネスティよりも華奢な体つきになったカーライルだ。アーネスティが抱えて飛ぶこともできなくはない。
カーライルがアーネスティの肩をぽんと押すと、アーネスティは寝台に尻餅をついた。
「何かあったら起こしてやるから、今は休めって」
そう言って部屋にアーネスティを残したまま、カーライルは、一階の整備場に戻っていった。
ハーレ商会の前に、リュドミナの大きな車をつけると、整備場の中からザックが飛び出してきた。
「ハーレさん! 急にいなくなるから心配したんですよ!」
「悪い。心配かけたな」
「どこに行ってたんです? 体調は?」
「大丈夫だ。早速で悪いが、ここでアスガネ機の改造をすることになった。場所を空けてくれ」
「アスガネ機の? ハーレさんが決めたことなら、構わないですが…」
ザックは、ハーレが乗ってきた自動車の運転席に目をやると、驚いて駆け寄った。
「そこにいらっしゃるのは、もしかして、リュドミナ・クリエ教授?」
「そうだ、はるばる帝都から、ここで共同研究をするために、来訪くださった」
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そう言って、カーライルとアーネスティに目くばせした。ふたりで一部屋使えということだ。
「いや、わたしはここで…」
アーネスティがハーレの申し出を断ろうとしたとき、カーライルがアーネスティの腕を掴んで、ぐいと引っ張った。
「ちょっと疲れたから、ありがたく使わせてもらうよ。また、話は後で…」
そういうと、三階へ姿を消した。
カーライルが部屋の扉を後ろ手で閉めると、アーネスティが羽織っていた布を取り去った。
「今からオージュルヌへ帰るわ」
窓の外にはトゥトゥナ山脈が見える。その山脈の形は、まだ慣れしたんだ景色と寸分変わらない。
「いや、その状態で、オージュルヌまで飛べやしないだろ」
アーネスティの顔をは真っ青だった。元々乗り物に弱いところに、数日間の強行軍だった。なまじ誰も体調を崩すこともなかったため、ひとりだけ、具合が悪いと言いだせなかった。
「今日・明日でどうにかなるわけじゃない。今は休んで、体調が戻れば帰ればいい」
「カーライル…」
「おれは行かないよ。アーネスティから、エセルバート様に伝えてくれ」
あの頃から比べれば、アーネスティよりも華奢な体つきになったカーライルだ。アーネスティが抱えて飛ぶこともできなくはない。
カーライルがアーネスティの肩をぽんと押すと、アーネスティは寝台に尻餅をついた。
「何かあったら起こしてやるから、今は休めって」
そう言って部屋にアーネスティを残したまま、カーライルは、一階の整備場に戻っていった。
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