空の話をしよう

源燕め

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第十三章

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「羽人って、本当にいたんだね」
「リュドミナはあんまり驚かないんだな」
「驚いてるさ」
「そんな風には見えないけど」
「まあ、カーライルの話を聞いた後ってのもあるし」
「無駄話はいい。カーライル、わかってるだろう。オージュルヌへ…」
「おれ、帰らないよ」
 アーネスティの言葉に、カーライルは正直な気持ちで答えた。
「何を言って!」
「おれには、もう羽がないんだぜ。もともと混血なんだし、オージュルヌにいる意味はないだろ」
「あなたの羽は、怪我で切り落しただけじゃない。あなたが羽人であることは変わらないわ」
「変わるよ。おれはもう自分の力で飛ぶことはないんだ。そんなの羽人じゃないだろ」
 窓から吹き込んだ風が、アーネスティが散らした白い羽毛をふわりと巻き上げた。カーライルはそのひとつを手に取ると、じぶんの目の前にもってきて、陽の光に透かしてみせた。
「綺麗だな…」
 かつて自分にあって、もう自分にはないもの。
「おれさ、やりたいことがあるんだよ」
「やりたいこと?」
「まえに、タシタカに降りたとき、帰り際に男の子が大泣きしていたの覚えてるか?」
「ええ」
「その子がさ。空を飛べる羽を作るって約束してくれたんだ」
「もしかして、その男の子に会うために、オージュルヌを出たというの?」
「…会えなかった。事故で亡くなったって聞かされたよ。でも、約束通り、羽はあったよ。飛空艇っていうんだ。すごいんだ、エンジンっていうのでプロペラを回して、鉄の固まりが空を飛ぶんだぜ!」
「言ってることが、全然わからない…」
「うん、そうだよな。おれも実物を見るまで、あんな形になってるなんて思いもしなかったからさ」
 キールが羽を作るといったとき、作り物の羽を背負って飛ぶのだと思っていた。どうやって羽ばたくのか見当もつかなかった。まさか、プロペラで風を起こして、それを広げた羽で受けて飛ぶだなんて、思いもよらなかった。
「いま、キールの、その男の子キールって名前だったんだけど。キールの子どもたちが、亡くなった父親の遺志をついで、飛空艇を作ってるんだ。それを見届けたいんだ」
 カーライルはアーネスティの目を見つめ返した。
「だから、おれは、帰らないよ」
「話はついたかい?」
 側で腕を組んだまま耳を傾けていたリュドミナは、話を終わったと見て、次の行動を起こすことにした。
「羽人のあんた。えっとアーネ…」
「アーネスティです」
「一緒に来るかい?」
「え?」
 思いもかけない申し出に、アーネスティは驚きを隠せなかった。リュドミナは窓のカーテンを何枚か外すと、アーネスティに投げて寄越した。
「取りあえず移動中だけ羽を隠してれば大丈夫だろ。あんた一人分くらいどうにでもなる」
「しかし…」
「後ろを飛んでついてこられたら、目だってしょうがないからね」
「人に見つかるようなへまはしない」
「ごたくはどうでもいいよ。カーライルはわたしと一緒に来るってさ。あんたはどうしたいんだ。それだけだよ」
 その言葉に、アーネスティは逆らいはしなかった。

 リュドミナは、無線機の他にも、エンジンを何種類か積み込み、燃料や工具も積み込んだ。追加の食料も忘れることはなかった。
「あんたたち、積もる話があるだろうから、ふたりとも後ろだよ」
 リュドミナは、女は座席、男は荷台という主義だったはずだが、ふたりまとめて荷台ということになった。
「おしゃべりするのは止めないけど、舌を噛まないように気をつけな」
「リュドミナ、いろいろありがとう」
「カーライルがいないと、あの機体は飛べないんだ。そりゃ大事にするさ」
 そう言うと、リュドミナは、自動車のキーを捻りエンジンをふかした。
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