空の話をしよう

源燕め

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第十一章

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「オージュルヌとフェーレジュルヌ。そのくらいの知識はある。これでも、皇立大学で教鞭を取っている身だからな。最低限の歴史は修めたよ」
 そうリュドミナは言うが、それは、やはり帝都の皇立大学で学ぶ者だけが持つ知識だろう。読み書きすら危うい者が多い庶民では、羽人の存在は忘れ去られて久しいのだ。
 オージュルヌとはいにしえの人々の住まう土地。フェーレジュルヌとは新たな人びとの住まう土地という意味だ。
 羽のない人々は、再び子を産み育て、数を増やしていった。やがてその中から王が立ち、皇帝と名乗り、ある時から帝国となった。
 フェーレジュルヌ帝国と。
 そこに住まう人々は、自分たちの国の名を呼ぶことは少なく、ただ、帝国とだけ呼ぶようになっている。
 対となっている、オージュルヌの名は次第に人々の記憶から忘れられていったのだ。
「やっぱり、リュドミナは知っていたんだ」
「羽人がフェーレジュルヌにいてはいけないことをか?」
「うん」
「そうだな。いにしえの契約で、あってはならぬことと定められている。お互いの交流を断つと」
「それでも、完全に断てるわけじゃなかった」
「どういう意味だ?」
「おれの母親は羽のない人だったよ。おれは、羽人の父親と羽のない母親との間に生まれたんだ」
「…そんなことがあるのか?」
「あるよ。目の前にいるじゃないか。羽のない人との間に生まれた子は、羽人になることが多いんだ。だから、おれはオージュルヌに引き取られた」
 しかし、オージュルヌにあっても、それは禁忌であることには違いなく、戒めを破った、カーライルの両親は罪人として裁かれ、亡くなった。そのため、カーライル自身は、親の顔を知らなかった。その後、カーライルは羽人の長であるエセルバートの元で育つことになったのだ。
 血が混ざるということは、ある意味、強くなるということだ。
 長寿ではあるが、空を飛ぶために華奢な体格を持つものが多い羽人にあって、混血のカーライルは逞しい体つきに育った。ひときわ立派な翼を持ち、誰よりも遠くまで飛ぶことができた。
「おれ、自分の力を過信してたんだ。誰よりも飛べるってさ。それで、好きな子を助けようとして怪我しちゃって、もう、前みたいに飛べなくなっちまった。それどころか、そのうち翼を広げることすらできなくなるって言われてさ。そうなって初めて、どうしても、母さんが育ったっていう湖を見たくなったんだ」
「湖?」
「タシタカの近くに湖があるんだ。知らない?」
「トゥトゥナ山脈のふもとにある、トゥラシム湖のことか?」
「そんな名前なんだ」
「ん? 待て」
 リュドミナが何かに気付いたのか、息をのんだ。
「まさか、トゥトゥナ山脈が、オージュルヌか?」
「もしかして、オージュルヌの場所はちゃんと伝わってなかった?」
 トゥトゥナ山脈というのは、羽のない人が名づけた名であり、羽人たちはその急峻な山々すべてをオージュルヌと呼んでいた。
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