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第五章
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一方、ハーレ商会の飛空艇はまだ、高度を上げていた。
市庁舎の特等席で手に汗を握りながら、見ていた男がひとり。市庁のトシノム市長だった。
「みなさん、ご覧になっていますか? あの素晴らしい性能を! これなら、我が軍に飛空艇部隊を作るというご意見に否やはありませんな!」
特等席には、揃いの軍服を身にまとった輩が多数顔をそろえていた。
「やっぱり、そういうことか…」
カーライルが、特等席となっているバルコニーを外側からよじ登ってきたのだ。
「おかしいと思っていたんだ、飛空艇に無線がついていたからな」
「な、なぜそれを知っている?」
トシノムが上ずった声でカーライルに聞いてきた。
「昨日までおれがあの飛空艇に乗ってたからさ!」
「な?」
「あんた、飛空艇を郵便に使うって言い張ったアスガネさんに、オイルを売らないように仕組んだんだってな。裏は取れた。それが原因で、墜落したんだよ。人の命をなんだと思っているんだ」
「おまえに、そんなこと言われる筋合いはない!」
「飛空艇を戦いに使うために、ハーレ商会に開発させたのか?」
「それの何が悪い、あの女が飛空艇を開発したいと、資金が欲しいとこちらにもちかけたんだ!」
「でも、あれは、ハーレの望んだ飛空艇じゃない! 見てみろ!」
高く上がったハーレ商会の飛空艇のエンジンの音が消えた。失速したのだ。
飛空艇は、きりもみ状態で堕ちていく。
「トシノムさん、こんな状況では、とても飛空艇を軍に加えるのは無理ですな…」
「いや。まってください」
「約束の五年待ちましたよ。これ以上開発費はかけられませんな」
「あ、いや、そんな…」
カーライルはトシノムの胸倉を掴んで引きずりあげた。
「あんたなんかに、これ以上、飛空艇の開発に関わらせるもんかよっ!」
トーヤの飛空艇は、そろそろ水平飛行からアスガネ工房の滑走路に着陸する頃だろう。そちらは、リーヤに任せればいい。
カーライルはきりもみ状態で墜落していくハーレ商会の飛空艇に意識が向いていた。
「くそっ。嫌な予感当たらないでくれ」
垂直落下するように見えて、機体を捻りながら、少しずつ抵抗を増やしている。すでに垂直から大分斜めに傾いている、こうなってくると、羽根に抵抗がかかってより減速しやすくなるはずだ。しかし、細身の機体が災いしてか、羽根の歪みが大きくなっていき、空中で真っ二つに折れた。
すでに、市庁舎前の広場では、悲鳴が巻き起こっている。二年連続の墜落事故だ。
しかし、飛空艇は羽根が折れたことが幸いし、その衝撃で機体自体はほぼ水平になっていた。ただ、翼を失った今なにも操縦できることはない。
飛空艇はそのまま機体の腹をこすりつけるように墜落した。
カーライルひとりが、機体に駆け寄った。
ハーレ商会のものたちは、自分たちの滑走路で着陸を待っていたはずだ。そこからもこの参事は見えていただろう。こちらに着くのには時間がかかる。
幸い、エンジンは火を噴いていない。しかし時間の問題だ。すぐに操縦者を救出する必要がある。
カーライルは機体によじ登り、風防を肘で壊して、無理矢理こじ開けた。
中にいたのは、予想していた通り、ハーレ、その人だった。
市庁舎の特等席で手に汗を握りながら、見ていた男がひとり。市庁のトシノム市長だった。
「みなさん、ご覧になっていますか? あの素晴らしい性能を! これなら、我が軍に飛空艇部隊を作るというご意見に否やはありませんな!」
特等席には、揃いの軍服を身にまとった輩が多数顔をそろえていた。
「やっぱり、そういうことか…」
カーライルが、特等席となっているバルコニーを外側からよじ登ってきたのだ。
「おかしいと思っていたんだ、飛空艇に無線がついていたからな」
「な、なぜそれを知っている?」
トシノムが上ずった声でカーライルに聞いてきた。
「昨日までおれがあの飛空艇に乗ってたからさ!」
「な?」
「あんた、飛空艇を郵便に使うって言い張ったアスガネさんに、オイルを売らないように仕組んだんだってな。裏は取れた。それが原因で、墜落したんだよ。人の命をなんだと思っているんだ」
「おまえに、そんなこと言われる筋合いはない!」
「飛空艇を戦いに使うために、ハーレ商会に開発させたのか?」
「それの何が悪い、あの女が飛空艇を開発したいと、資金が欲しいとこちらにもちかけたんだ!」
「でも、あれは、ハーレの望んだ飛空艇じゃない! 見てみろ!」
高く上がったハーレ商会の飛空艇のエンジンの音が消えた。失速したのだ。
飛空艇は、きりもみ状態で堕ちていく。
「トシノムさん、こんな状況では、とても飛空艇を軍に加えるのは無理ですな…」
「いや。まってください」
「約束の五年待ちましたよ。これ以上開発費はかけられませんな」
「あ、いや、そんな…」
カーライルはトシノムの胸倉を掴んで引きずりあげた。
「あんたなんかに、これ以上、飛空艇の開発に関わらせるもんかよっ!」
トーヤの飛空艇は、そろそろ水平飛行からアスガネ工房の滑走路に着陸する頃だろう。そちらは、リーヤに任せればいい。
カーライルはきりもみ状態で墜落していくハーレ商会の飛空艇に意識が向いていた。
「くそっ。嫌な予感当たらないでくれ」
垂直落下するように見えて、機体を捻りながら、少しずつ抵抗を増やしている。すでに垂直から大分斜めに傾いている、こうなってくると、羽根に抵抗がかかってより減速しやすくなるはずだ。しかし、細身の機体が災いしてか、羽根の歪みが大きくなっていき、空中で真っ二つに折れた。
すでに、市庁舎前の広場では、悲鳴が巻き起こっている。二年連続の墜落事故だ。
しかし、飛空艇は羽根が折れたことが幸いし、その衝撃で機体自体はほぼ水平になっていた。ただ、翼を失った今なにも操縦できることはない。
飛空艇はそのまま機体の腹をこすりつけるように墜落した。
カーライルひとりが、機体に駆け寄った。
ハーレ商会のものたちは、自分たちの滑走路で着陸を待っていたはずだ。そこからもこの参事は見えていただろう。こちらに着くのには時間がかかる。
幸い、エンジンは火を噴いていない。しかし時間の問題だ。すぐに操縦者を救出する必要がある。
カーライルは機体によじ登り、風防を肘で壊して、無理矢理こじ開けた。
中にいたのは、予想していた通り、ハーレ、その人だった。
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