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180・キセキも魔法も、ないリアル
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「くっはははぁっ!!」
遠距離から翼を振るいつつ、フォルコが高らかな笑い声を上げた。
「苦しいかあ、苦しいなあ王子様よぉ!! あんだけヨチヨチしてもらった手前、ここで勝たなきゃ格好つかねえのによお!! ええ、どうすんだ!?」
狂気じみたその叫びは、しかし嫌らしいくらい的確に痛いところを突いてきやがる。羽弾を落とし、影ジルコンと剣を打ち交わすジルコンは、あからさまな煽りにも表情を変えない。だが額には汗が浮いているのが見てとれた。戦況は、防戦一方。見ている俺の方が勝手に焦る。
「く、くそう、てか卑怯だろその羽根! 影任せにしてないでお前が来いよお前がー!」
「ハッ、小ネズミが泣き言かまし始めたぜ! 不甲斐ねえなあ、王子様!」
「ぐぬぬぬぬ……!」
ダメだ。野次さえ煽りの種にされちまう。唇を嚙みしめる俺の少し後ろで、ミマがぽつりと呟いた。
「やっぱり、無理なんだよ」
「ああ!?」
思わず語気荒く振り返る。こんなときにまで嫌味かよ。あるいは俺に対する皮肉のつもりか。しかしミマは意外にも真剣な、少し悲しげな視線を地に落としている。
「現実的に考えてみなよ。ジルコン様と同じ力を持った影と、疲弊しているとはいえ超人的な魔力と身体能力を持った翼人のフォルコ。実質二人を相手にして、どうやってジルコン様が勝つっていうの」
「そ、それは……でも、だって、ジルコンならなんとかしてくれるって!」
「ないね。お前だって言ってただろ。人生はままならない。奇跡なんて、そうそう起こるもんじゃない。僕らにとってはもう……目の前にあるこの世界こそが、現実だって」
「うぐっ……」
淡々と語るミマの表情に、俺に対する悪意は見えない。あるのはむしろ、諦めだ。しょせん現実なんてそんなもん。奇跡なんて期待する方が間違ってる。そんな、かつての俺自身にもよくよく覚えがある感情。ミマのそれが伝染したかのように、俺の視線も重たく落ちていく。
そのとき。
「殿下っ!?」
耳をつんざく悲鳴に、ハッと顔を上げた。声の主であるランジンは、舞台際から今にも駆け上がらんばかりに身を乗り出している。その視線の先、ジルコンの左肩口あたりに、フォルコの撃ち出した羽が深々と突き刺さっている。
「ぐ……っ」
「ジルコンッ!?」
「ハハッ、痛ってぇなあ王子様! この先もっと痛くなるぜえ!! どうする、降参するか!?」
フォルコは舌なめずりをしながら問いかける。赤い血に染まった肩章を、庇うように体勢を変えたジルコンは、それでも剣を構える手だけは下ろさない。
「つくづくよく喋る男だ。俺がそうすると思うか」
「ハッ、だよなあ! んじゃ、お望み通りに!!」
「ジル……ッ!!」
反射的に舞台に跳ね上がりかけて、寸前で踏みとどまった。ダメだ、んなことしたら今度こそジルコンが失格になる。急ブレーキをかけた足が、意志とは無関係にたたらを踏んだ。
と。その拍子に俺の腰から、ちゃり、と音を立てて何かが落ちた。見るとズボンのベルトに、財布代わりに結び付けていた麻袋がほどけている。袋の口から何枚かのコインと、かすかな虹色の光がこぼれ出しているのが見えた。
「……あ」
その輝きを目にした瞬間。頭の中に、ひとつの選択肢が浮かんだ。
いやむしろ──選択、なんて名ばかりの、一択しかない道筋が。
遠距離から翼を振るいつつ、フォルコが高らかな笑い声を上げた。
「苦しいかあ、苦しいなあ王子様よぉ!! あんだけヨチヨチしてもらった手前、ここで勝たなきゃ格好つかねえのによお!! ええ、どうすんだ!?」
狂気じみたその叫びは、しかし嫌らしいくらい的確に痛いところを突いてきやがる。羽弾を落とし、影ジルコンと剣を打ち交わすジルコンは、あからさまな煽りにも表情を変えない。だが額には汗が浮いているのが見てとれた。戦況は、防戦一方。見ている俺の方が勝手に焦る。
「く、くそう、てか卑怯だろその羽根! 影任せにしてないでお前が来いよお前がー!」
「ハッ、小ネズミが泣き言かまし始めたぜ! 不甲斐ねえなあ、王子様!」
「ぐぬぬぬぬ……!」
ダメだ。野次さえ煽りの種にされちまう。唇を嚙みしめる俺の少し後ろで、ミマがぽつりと呟いた。
「やっぱり、無理なんだよ」
「ああ!?」
思わず語気荒く振り返る。こんなときにまで嫌味かよ。あるいは俺に対する皮肉のつもりか。しかしミマは意外にも真剣な、少し悲しげな視線を地に落としている。
「現実的に考えてみなよ。ジルコン様と同じ力を持った影と、疲弊しているとはいえ超人的な魔力と身体能力を持った翼人のフォルコ。実質二人を相手にして、どうやってジルコン様が勝つっていうの」
「そ、それは……でも、だって、ジルコンならなんとかしてくれるって!」
「ないね。お前だって言ってただろ。人生はままならない。奇跡なんて、そうそう起こるもんじゃない。僕らにとってはもう……目の前にあるこの世界こそが、現実だって」
「うぐっ……」
淡々と語るミマの表情に、俺に対する悪意は見えない。あるのはむしろ、諦めだ。しょせん現実なんてそんなもん。奇跡なんて期待する方が間違ってる。そんな、かつての俺自身にもよくよく覚えがある感情。ミマのそれが伝染したかのように、俺の視線も重たく落ちていく。
そのとき。
「殿下っ!?」
耳をつんざく悲鳴に、ハッと顔を上げた。声の主であるランジンは、舞台際から今にも駆け上がらんばかりに身を乗り出している。その視線の先、ジルコンの左肩口あたりに、フォルコの撃ち出した羽が深々と突き刺さっている。
「ぐ……っ」
「ジルコンッ!?」
「ハハッ、痛ってぇなあ王子様! この先もっと痛くなるぜえ!! どうする、降参するか!?」
フォルコは舌なめずりをしながら問いかける。赤い血に染まった肩章を、庇うように体勢を変えたジルコンは、それでも剣を構える手だけは下ろさない。
「つくづくよく喋る男だ。俺がそうすると思うか」
「ハッ、だよなあ! んじゃ、お望み通りに!!」
「ジル……ッ!!」
反射的に舞台に跳ね上がりかけて、寸前で踏みとどまった。ダメだ、んなことしたら今度こそジルコンが失格になる。急ブレーキをかけた足が、意志とは無関係にたたらを踏んだ。
と。その拍子に俺の腰から、ちゃり、と音を立てて何かが落ちた。見るとズボンのベルトに、財布代わりに結び付けていた麻袋がほどけている。袋の口から何枚かのコインと、かすかな虹色の光がこぼれ出しているのが見えた。
「……あ」
その輝きを目にした瞬間。頭の中に、ひとつの選択肢が浮かんだ。
いやむしろ──選択、なんて名ばかりの、一択しかない道筋が。
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