転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ！

１７９・一進一退

　場の空気はまさに一触即発。円舞台を挟んで騎士サマサイドと向かい合った翼人たちからは、怒気をはらんだざわめきが舞台上の俺にまで響いてきている。その雰囲気を涼しい顔で受け流すスマラクト。ううっ、成長したなあ。おいちゃん嬉しいわよ。どの立場で言ってんだって感じだけど。
　ピリついた空気を割るように、フォルコがふーっと息を吐いた。まだおぼつかない足元を、地面にトントンと叩きつけ、不満を隠さない顔をスマラクトに向ける。

「……んじゃ、こっちとしても聞いときたいんだけどよ」
「はい。なんでしょう」
「てめえの勝手な言い分を、寛大なオレ様が受け入れてやるとして。エンバンが壊れた今となっちゃあ、そっちの灯士が舞台に上がり続けるのは、差し引きやっぱり不公平だよなあ？」
「それは……」

　メガネの奥の深緑の瞳が、ジルコンにちらりと目くばせを送る。その視線にひとつ頷いて、ジルコンは俺の肩をそっと押しやった。

「当然、これ以上灯士の力を借りる気はない。元より俺ひとりでも十分切り抜けられた事態だ。完膚なきまでの勝利には、むしろ遠のいてしまったくらいだな」
「おまっ、助けてやったのにその言い草！！」
「なんだ。それともお前、舞台に残りたいのか」
「ぐっ」

　からかうようなジルコンのセリフに、思わず前後をきょろきょろと見やる。前門のフォルコ、後門の影ジルコン。フォルコには疲労のデバフつきとはいえ、この場に俺が残ったところで、助太刀どころか足手まといにしかならない。
　ジルコンと視線を交わしてから、すごすごと舞台を降りていく。決定打となりうる一撃を切り抜けたとはいえ、状況は変わらない。戦況はジルコンの圧倒的不利だ。それでも。

「約束、忘れんなよ！」
「当然だ。お前もな」
「ウッ……お、おう！」

　一瞬言葉に詰まった俺を、ククッと低い笑いで見送って。

「待たせたな。このまま再開、ということでよろしいか」
「……はぁーあ。ま、今回限りは許してやるよ。今生の別れ、ってことでな」

　再び相対したジルコンとフォルコ。そして影ジルコンは、一瞬の間を置いて散会し、また剣と翼を交え始める。
　ジルコンの太刀筋は、完全に鋭さを取り戻していた。無骨さと流麗さを併せ持った実戦流の剣だ。いかに能力を完コピしたところで、人間には調子ってもんがある。その点今のジルコンは絶好調で、自らの影をも凌駕しているのは事実だ。
　だが。

「……まずいねぇ」

　皆が薄々気づき始めたことを、空気を読まずに呟いたのはアメティスタだった。考えてみれば当たり前ではあるが、実質的には２対１の戦いだ。影ジルコンの剣に加えて、間断なく放たれるフォルコの羽弾は、じりじりとジルコンの体力、そして魔力を削っていく。
　ジルコンの表情にもはや余裕はなかった。当然、拳を握って見守る俺たちにも。