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154・ありがとうを言いたくなって

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 しばらく頬杖をついてコラルを見つめたあと、ミマは小さな声でぼそりと言った。

「……お前に言われるまでもなく、騎士様たちにそれぞれの人生があることなんてわかってる。……その想像が膨らんだせいで、二次創作までやってたんだ、僕は」
「嘘!? 見して!?」
「絶対にお断りだ!!」

 食いつく俺をしっしっと手で払いながら、ミマは椅子から立ち上がる。

「なんだよー。見してくれたっていいじゃん、ジャンル仲間のよしみでさー」
「お前さっき現実がどうとかほざいた口でよくもまあジャンル仲間とか言えるよな!? ……はん、それよりも自分で言ったこと、忘れないでよね」
「え?」
「親愛の数字は譲ってやる、って。しかとこの耳で聞き届けたからね。ふふっ♡」
「アッ、それは正直言葉のあやって言うか、ゆーて俺もちょっとは親愛度欲しいなって言うか!」
「──サフィール様! そろそろ北の明星が出る時間ですよね!」

 俺の言葉など聞きゃしねえで、ミマは小走りで駆けていく。や、やっぱこいつ!
 ……まあ、いいか、これはこれで。小憎たらしいライバルとは言え、あいつはああでなきゃ調子が狂う。

「チュー太郎」
「おー、ジルコン」

 話の切れ間を見計らうかのように、今度はジルコンが俺の隣に移ってきた。なんだなんだ、大人気じゃん俺。それとも陽キャのパーティってこういうもんなの? 合コンみたいに次々席変わって話すのが醍醐味的な? や、俺合コン行ったことねーけど。

「皆とは心置きなく話せたか」
「ん。まあ全員じゃねーけど、なかなかいい交流ができたんじゃね? って感じ」
「そうか。なら俺がここにいても構わないな」
「え、ナニ、もしかして気ぃ使ってくれてた? らしくなく」
「常々一言余計な奴だな、お前は」
「痛い痛い痛い。お前こそワンアクション余計なんだよ!」

 久々の指輪グリグリ攻撃にうめきつつ、彼の手をこめかみから引き剥がす。ほんと、ちょっと優しくなったと思えばこれだ。相変わらずコンプライアンスってもんを知らないやつ。前よりはいくらかマシにはなったけど。
 椅子にもたれて、夜空を見上げる。白馬の上から二人きりで見上げた夜空より、地上の灯りの分星は少ない。でも、まあ、これはこれで。

「……ありがとな」

 自然とこぼれ落ちた礼に、ジルコンが怪訝そうに眉をしかめる。

「どうした、突然。痛くされて嬉しかったのか?」
「ちげーわ! そうじゃなくて、なんか、……色々だよ、色々!」
「ほう」

 恥ずかしくなって顔を背ける。横目で伺ったジルコンの顔に、ふと穏やかな笑みが灯る。

「なら俺も礼を言わねばな。……ありがとう」
「……ぉん」
「なんだその鳴き声は。クッ、相変わらず」
「おもしれー音、だろ? いいよもうそれは!」
「……クッ。よくわかってるじゃないか」

 熱くなる頬から気を逸らすように、俺はずり落ちるように夜空を見上げた。隣のジルコンも同じ空を見ている。目線はきらめく星を仰ぎながら、意識はお互いに向いている。
 ルビーノが焚いていた火が、ふっと消えた。サフィールたちが望遠鏡を片付けて、大樹の元に戻ってこようとしているのが見える。
 北の空にひときわ明るく輝く星が、通り抜ける風に合わせてひとひら瞬いた。
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