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153・ままならないのが人生だ

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 夜の空気に、沈黙が落ちる。焚き火がはぜるパチパチという音が、冷えた風を縫うようにして流れてくる。
 ショックの度合いはどうやら、俺よりも言った当人であるミマの方が大きいようだった。速いまばたきを繰り返し、青ざめた顔で視線をさまよわせる彼は、俺が見てきたいじわる傲慢僕様な彼とは大違いだ。なんとなく見ていられなくて目を逸らす。自分の口から出てしまった言葉に、ミマがこんなにも動揺している理由は、俺にも少しはわかる。自分が愛した、人生とまで言い切った世界を、彼は無意識のうちに自分の現実から切り落としてしまった。
 話の代わりに、耳を澄ました。カーテン一枚隔てたような遠くから、みんなの声が聞こえる。コラルとランジンが楽しげにじゃれる声。ジルコンたちが控えめに談笑する声。耳慣れた、俺たちのよく知っている、遠くて近い声。

「ほんとはさあ」

 自分でも驚くほど、気後れなくするりと言葉が出てきた。

「わかってんじゃねーの、お前も」
「……何が」
「二次元なのか三次元なのか、そのへん俺にはもうよくわかんねーけどさ。とにかく今俺たちの目の前にあるものが、今の俺たちにとっての人生で……そんで人生ってのは、数字に従うとは限らない、いつでもなかなかままならないもんだって」
「知ったふうな口、ききやがって……」
「それに、ほら。親愛度が全部じゃないって、現に生き証人がいるわけじゃん?」
「あ?」

 荒んだ返事を投げるミマに対して、向こうの方を指差してみせる。指の先には、飽きずに望遠鏡を覗いてはしゃぐピンク玉の姿。

「コラル? が、どうしたんだよ」
「お前。あいつの親愛度、一切上げてないだろ」
「……っ」

 図星を刺されたようにミマが顔を歪めた。やっぱりな。今までの態度からしても、ミマがコラルを攻略してるはずないと踏んでみたんだが、どうやら当たりだったらしい。

「なのにあんなに一途にお前を慕ってるわけですよ。泣ける話だと思わん? 数字じゃ計れない愛ですよ、これは」
「……迷惑な話だよ。じゃあ課金石食うのやめろって」
「そ、そう言ってやるなよなー。それもこれも含めてあいつの人生っていうか、生き様なんだからさぁ」
「……ふん」

 椅子の上で足を組み直し、ミマは軽くため息をついた。

「不覚だな。まさかお前みたいなクソガキに、人生がどうとか説教されるなんて思わなかった」
「ク、クソガキ……ってかお前いくつなんだよマジで」
「前世の年齢なんて、今の僕に関係なくない?」
「それはそうだけど……」

 しれっとうそぶきながらも、ミマの視線はコラルに向いたままだ。さっきまでの動揺はもう見えない。こういう立ち直りの早さは、呆れるような尊敬できるような。
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