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147・背中を押されて

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「では次、チュー太郎」
「お、おうっ」

 ジルコンに名指しを受けて、今度は俺が前に歩み出る。大樹の元に向かう途中で、テーブルに戻るミマとすれ違った。目が合う。クリーム色の大きな瞳は、奥底に挑発的な光を宿している。

 ──僕の想いは包み隠さず伝えた。お前はどうする?

 無意識にぐっと拳を握る。これまでの、根性曲がった廃課金兵のやり口よりも、今のミマの方がずっと手強く思えた。
 ミマが暖かく迎えられる気配を背中で感じつつ、ジルコンの隣に立った。さっきよりも若干ぶしつけな視線が、前を向いた俺にプスプスと刺さる。や、やっぱり緊張する。元々人前に立つような性分じゃねーんだ、俺は。けど今は、やらなくちゃ。
 深呼吸を繰り返す俺の背に、温かい手がさりげなく触れた。肩越しに振り返る。目が合ったジルコンは、俺の立ち位置を調整するふりをして、背中の真ん中を軽く叩いた。

 ──気後れするな。

 何度も言われてきたその言葉はもう、声を出さなくても鼓膜の奥に蘇ってくる。
 ひとつ頷いて、みんなの方へ向き直った。一人一人の顔を見回してみれば、なんのことはない。みんな俺がよく知っている奴らの顔だ。何を言い出すのか楽しみにしているような顔、逆にあんまり興味なさそうな顔、浮かべている表情は様々だけど。
 マイクはないから、胸を張る。普段よりちょっとでもマシな声を出せるように。

「えっと……今日はみんな、ここに集まってくれてありがとう。ジルコンが素直に言わなかった分も、俺が代わってお礼を言います。ありがとうね」
「くふふぅ、なぁにそれぇ。できた嫁じゃんねぇ」
「なっ」

 けらけらと笑うアメティスタの揶揄に、サフィールが血相を変えて振り返る。苦笑いするルビーノを筆頭に、周囲からくすくすと笑いが漏れた。ついジルコンの様子を伺ってしまう。眉間にわずかにシワが寄っているように見えるけど、それどういう感情? まあいいや、今はスルーだ。

「つっても、言わなきゃいけないことは二人が全部言ってくれたんで、俺が何話しても二番煎じにしかならないかもしれないけど……とにかく俺も、できる限り力を尽くします。他人のためになんかやるなんて、今までの俺じゃ全然ガラじゃなかったけど、これは本気です。マジで。……だからみんなも、ちょっとは俺のことも守ってくれたら嬉しいなーって」
「ずいぶん明け透けなことを言うものだな。護る、ではなく、守れとは」
「うぇ!? だ、だって! どうあがいたって俺が一番弱いのは事実なんだし! 死んだら灯士の力も使えないし、ホントお願いしますよ!?」

 顔をしかめるサフィールの言葉を、耳ざとく聞きつけて食い下がる。こ、ここでバッドコミュニケーション!? いや、俺だってみっともないとは思うけど、背に腹は変えられないじゃん!?

「……まあ、気持ちはわかるぜ。誰だって戦いは怖いもんだ」
「ははっ、心配しなくても、オレはちゃんと守ってあげるよ。君が尽くしてくれる力と等価分まではね」

 代わりにルビーノとトパシオの好感度はちょっと上がった、かもしれない。ジルコンには呆れられたっぽい気配がするけど。咳払いで場を取り繕って、再びしゃんと背筋を伸ばした。
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