上 下
148 / 200

146・決意表明のターン

しおりを挟む
 全員に、いい感じに食べ物飲み物が行き渡ったところで。
 俺と一緒に料理にかかりきりだったジルコンが、おもむろに大樹の正面に歩み出た。全員が見渡せる位置でふり返り、静かにあたりに視線を向ける。途端に会話が止み、場の注目が彼に引き寄せられる。
 演壇も段差もない、みんなと同じ地平の上。十八個の目を一身に受けたジルコン……いや、『ディアマンテ殿下』は、一拍の沈黙を置いて、涼やかに通る声で話を始めた。

「皆。本日は各々の責務で多忙な中、よくぞこの場に集まってくれた。翼人族との情勢に暗雲が垂れ込めつつある現況にて、何故こんな呑気なお遊びを、と思う向きも当然あるだろう。だが俺としては、今回の催しは決して気慰みの娯楽ではなく、むしろ全員の結束と意気高揚に繋がるものだと考えている」

 マントを払うように大きく手を広げ、それから俺たちにまっすぐ差し伸べる。その手は全員に向けられているけれど、同時に俺自身、そしてこの場にいるひとりひとりに向けられたものだと確かにわかる。

「皆は今日の安寧を胸に刻み、護持すべき楔としてもらいたい。無論、俺自身もだ。そのために俺ができることは全て、この身を擲ってでも成し遂げてみせると誓おう」

 花々を揺らして吹き抜ける風が、ジルコンの声をより遠くへと響かせた。その言葉に深く頷く者、いいぞー、と合いの手を送る者。それぞれの反応を見届けてから、ジルコンは俺とミマに交互に視線を送る。

「そうだな。では今後に向けて、我が騎士団の至宝である灯士たちより、一言ずつお言葉を賜りたい。まずは、ミマ」
「はいっ」

 事前に教えられた流れの通り、まずはミマがすっと前に出た。花の色に合わせた真っ白な真珠のアクセサリーが、歩みに合わせてしゃらしゃらと鳴る。ジルコンの隣で背筋を伸ばす立ち姿は、演説前の生徒会長かなんかみたいに堂々としたもんだ。

「みなさん。今日は耀燈騎士団の全員で、この美しい花の丘に集まれたこと、本当に嬉しく思います。僕のわがままを聞き入れて、こんな素敵な機会をくださったディアマンテ殿下に、そして忙しい中時間を割いてくださったみなさんに、改めてお礼を申し上げます。本当に、ありがとうございます」

 深々と頭を下げるミマを、全員の暖かな拍手が包み込む。……いや、ま、発想の源がミマだってのは確かだし、ミマのわがままを聞いたってのも間違っちゃいない。ここは俺も素直にパチパチしておこう、うん。

「殿下も先ほどおっしゃった通り……僕たちの騎士団は今、緊迫した状況下に置かれています。事と次第によっては、この先……しばらくはこうやって、みんなで集まることもできなくなるかもしれません」
「ミマサマ……」

 曇るミマの顔を、肩からコラルが心配そうに覗き込む。深い息を吐いてからすうっと吸って、ミマは決然と顔を上げた。

「でも、これだけは覚えておいてください。僕はみんなのことが、この国が、この場所が大好きです。だから僕の……僕の人生全部を賭けて、僕はみんなを守り抜きます。……絶対に」

 その言葉に俺は息を呑んだ。ミマの目にはいつもの愛らしい魔性の代わりに、真摯に燃える決意の炎が灯っているように見える。自分のためになるなら嘘だって平気でつくし、何をどう取り繕っても決して性格がいいとは言えない奴だけど、でも、多分、この言葉だけは紛れもない真実だ。

「全部が終わって、平和になったら……またみんなで、ここでピクニックをしましょう。約束ですよ。ふふっ♡」

 最後に例の「ふふっ♡」を付けて、ミマはぺこりと頭を下げる。
 さっきよりももっと大きな拍手が、晴れ渡る草原をさざ波のように揺らした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女体化したおっさんの受難

丸井まー(旧:まー)
BL
魔法省に勤めるアルフレッドは部下のコーネリーのトチ狂った魔法に巻き込まれて女の身体になってしまった。魔法をとく方法は出産すること。アルフレッドの元に戻る為のドタバタ騒ぎ。 ※おっさんが女体化してます。女体化エロあります。男同士のエロもあります。エロは予告なしです。全53話です。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

恋愛
いつの間にか異世界に転移してしまった沙紀は森で彷徨っていたところを三人の騎士に助けられ、その騎士団と生活を共にすることとなる。 後半からR18シーンあります。予告はなしです。 公開中の話の誤字脱字修正、多少の改変行っております。ご了承ください。

美醜逆転世界でフツメンの俺が愛されすぎている件について

いつき
BL
いつも通り大学への道を歩いていた青原一樹は、トラックに轢かれたと思うと突然見知らぬ森の中で目が覚める。 ゴブリンに襲われ、命の危機に襲われた一樹を救ったのは自己肯定感が低すぎるイケメン騎士で⁉︎ 美醜感覚が真逆な異世界で、一樹は無自覚に数多のイケメンたちをたらし込んでいく!

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

処理中です...