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146・決意表明のターン
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全員に、いい感じに食べ物飲み物が行き渡ったところで。
俺と一緒に料理にかかりきりだったジルコンが、おもむろに大樹の正面に歩み出た。全員が見渡せる位置でふり返り、静かにあたりに視線を向ける。途端に会話が止み、場の注目が彼に引き寄せられる。
演壇も段差もない、みんなと同じ地平の上。十八個の目を一身に受けたジルコン……いや、『ディアマンテ殿下』は、一拍の沈黙を置いて、涼やかに通る声で話を始めた。
「皆。本日は各々の責務で多忙な中、よくぞこの場に集まってくれた。翼人族との情勢に暗雲が垂れ込めつつある現況にて、何故こんな呑気なお遊びを、と思う向きも当然あるだろう。だが俺としては、今回の催しは決して気慰みの娯楽ではなく、むしろ全員の結束と意気高揚に繋がるものだと考えている」
マントを払うように大きく手を広げ、それから俺たちにまっすぐ差し伸べる。その手は全員に向けられているけれど、同時に俺自身、そしてこの場にいるひとりひとりに向けられたものだと確かにわかる。
「皆は今日の安寧を胸に刻み、護持すべき楔としてもらいたい。無論、俺自身もだ。そのために俺ができることは全て、この身を擲ってでも成し遂げてみせると誓おう」
花々を揺らして吹き抜ける風が、ジルコンの声をより遠くへと響かせた。その言葉に深く頷く者、いいぞー、と合いの手を送る者。それぞれの反応を見届けてから、ジルコンは俺とミマに交互に視線を送る。
「そうだな。では今後に向けて、我が騎士団の至宝である灯士たちより、一言ずつお言葉を賜りたい。まずは、ミマ」
「はいっ」
事前に教えられた流れの通り、まずはミマがすっと前に出た。花の色に合わせた真っ白な真珠のアクセサリーが、歩みに合わせてしゃらしゃらと鳴る。ジルコンの隣で背筋を伸ばす立ち姿は、演説前の生徒会長かなんかみたいに堂々としたもんだ。
「みなさん。今日は耀燈騎士団の全員で、この美しい花の丘に集まれたこと、本当に嬉しく思います。僕のわがままを聞き入れて、こんな素敵な機会をくださったディアマンテ殿下に、そして忙しい中時間を割いてくださったみなさんに、改めてお礼を申し上げます。本当に、ありがとうございます」
深々と頭を下げるミマを、全員の暖かな拍手が包み込む。……いや、ま、発想の源がミマだってのは確かだし、ミマのわがままを聞いたってのも間違っちゃいない。ここは俺も素直にパチパチしておこう、うん。
「殿下も先ほどおっしゃった通り……僕たちの騎士団は今、緊迫した状況下に置かれています。事と次第によっては、この先……しばらくはこうやって、みんなで集まることもできなくなるかもしれません」
「ミマサマ……」
曇るミマの顔を、肩からコラルが心配そうに覗き込む。深い息を吐いてからすうっと吸って、ミマは決然と顔を上げた。
「でも、これだけは覚えておいてください。僕はみんなのことが、この国が、この場所が大好きです。だから僕の……僕の人生全部を賭けて、僕はみんなを守り抜きます。……絶対に」
その言葉に俺は息を呑んだ。ミマの目にはいつもの愛らしい魔性の代わりに、真摯に燃える決意の炎が灯っているように見える。自分のためになるなら嘘だって平気でつくし、何をどう取り繕っても決して性格がいいとは言えない奴だけど、でも、多分、この言葉だけは紛れもない真実だ。
「全部が終わって、平和になったら……またみんなで、ここでピクニックをしましょう。約束ですよ。ふふっ♡」
最後に例の「ふふっ♡」を付けて、ミマはぺこりと頭を下げる。
さっきよりももっと大きな拍手が、晴れ渡る草原をさざ波のように揺らした。
俺と一緒に料理にかかりきりだったジルコンが、おもむろに大樹の正面に歩み出た。全員が見渡せる位置でふり返り、静かにあたりに視線を向ける。途端に会話が止み、場の注目が彼に引き寄せられる。
演壇も段差もない、みんなと同じ地平の上。十八個の目を一身に受けたジルコン……いや、『ディアマンテ殿下』は、一拍の沈黙を置いて、涼やかに通る声で話を始めた。
「皆。本日は各々の責務で多忙な中、よくぞこの場に集まってくれた。翼人族との情勢に暗雲が垂れ込めつつある現況にて、何故こんな呑気なお遊びを、と思う向きも当然あるだろう。だが俺としては、今回の催しは決して気慰みの娯楽ではなく、むしろ全員の結束と意気高揚に繋がるものだと考えている」
マントを払うように大きく手を広げ、それから俺たちにまっすぐ差し伸べる。その手は全員に向けられているけれど、同時に俺自身、そしてこの場にいるひとりひとりに向けられたものだと確かにわかる。
「皆は今日の安寧を胸に刻み、護持すべき楔としてもらいたい。無論、俺自身もだ。そのために俺ができることは全て、この身を擲ってでも成し遂げてみせると誓おう」
花々を揺らして吹き抜ける風が、ジルコンの声をより遠くへと響かせた。その言葉に深く頷く者、いいぞー、と合いの手を送る者。それぞれの反応を見届けてから、ジルコンは俺とミマに交互に視線を送る。
「そうだな。では今後に向けて、我が騎士団の至宝である灯士たちより、一言ずつお言葉を賜りたい。まずは、ミマ」
「はいっ」
事前に教えられた流れの通り、まずはミマがすっと前に出た。花の色に合わせた真っ白な真珠のアクセサリーが、歩みに合わせてしゃらしゃらと鳴る。ジルコンの隣で背筋を伸ばす立ち姿は、演説前の生徒会長かなんかみたいに堂々としたもんだ。
「みなさん。今日は耀燈騎士団の全員で、この美しい花の丘に集まれたこと、本当に嬉しく思います。僕のわがままを聞き入れて、こんな素敵な機会をくださったディアマンテ殿下に、そして忙しい中時間を割いてくださったみなさんに、改めてお礼を申し上げます。本当に、ありがとうございます」
深々と頭を下げるミマを、全員の暖かな拍手が包み込む。……いや、ま、発想の源がミマだってのは確かだし、ミマのわがままを聞いたってのも間違っちゃいない。ここは俺も素直にパチパチしておこう、うん。
「殿下も先ほどおっしゃった通り……僕たちの騎士団は今、緊迫した状況下に置かれています。事と次第によっては、この先……しばらくはこうやって、みんなで集まることもできなくなるかもしれません」
「ミマサマ……」
曇るミマの顔を、肩からコラルが心配そうに覗き込む。深い息を吐いてからすうっと吸って、ミマは決然と顔を上げた。
「でも、これだけは覚えておいてください。僕はみんなのことが、この国が、この場所が大好きです。だから僕の……僕の人生全部を賭けて、僕はみんなを守り抜きます。……絶対に」
その言葉に俺は息を呑んだ。ミマの目にはいつもの愛らしい魔性の代わりに、真摯に燃える決意の炎が灯っているように見える。自分のためになるなら嘘だって平気でつくし、何をどう取り繕っても決して性格がいいとは言えない奴だけど、でも、多分、この言葉だけは紛れもない真実だ。
「全部が終わって、平和になったら……またみんなで、ここでピクニックをしましょう。約束ですよ。ふふっ♡」
最後に例の「ふふっ♡」を付けて、ミマはぺこりと頭を下げる。
さっきよりももっと大きな拍手が、晴れ渡る草原をさざ波のように揺らした。
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